【婚約の成立を認めなかった多くの裁判例(ベッドの上での契約は無効判決)】
1 婚約の成立を認めなかった裁判例
2 性交渉に伴う『夫婦になる』手紙→睦言として婚約不成立
3 性交渉の際の『一緒になる』話し合い→睦言として婚約不成立
4 求婚を承諾した後の訂正→真意なしのため婚約不成立
5 性的関係実現のための虚偽の結婚話→婚約不成立+慰謝料認容
6 明確な結婚の約束なしでの交際→婚約不成立
7 結婚の約束なしで避妊なしの性的関係→婚約不成立
1 婚約の成立を認めなかった裁判例
婚約成立の判断についての基準・理論はありますが,これだけで具体的事案についてはっきり判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|婚約は2人の意思だけで成立するが実務ではイベントが重要(婚約成立の基準)
本記事では,実際の事例について,裁判所が婚約が成立していないと判断した裁判例を紹介します。
実際の事案について判断する時にとても役立ちます。
なお,婚約の成立を認めた裁判例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|婚約の成立を認めた多くの裁判例
2 性交渉に伴う『夫婦になる』手紙→睦言として婚約不成立
性的関係に伴って『夫婦になる』という手紙が出されたというケースです。
文字だけ見ると結婚の約束そのものですが,真摯(まじめ)なものではないと判断されました。
いわゆるベッドの上での契約は無効と言われる判断です。
<性交渉に伴う『夫婦になる』手紙→睦言として婚約不成立>
あ 結婚を約束した経緯
男性は当時16,17歳であった
情交関係が5回程度持たれた
男性が『将来夫婦になることを心から求める』内容の手紙を送った
男女は,将来夫婦になることを語り合った
い 婚約の破棄
女性が妊娠した
妊娠発覚まで,交際のことは双方の親に秘密にしていた
男性の親が出産に反対した
男がすぐに関係を断った
う 婚約成立の判断
男性の意思表示(セリフ)は,恋愛関係にある男女の睦言である
誠意を持って終生の結合を誓う,という程度のものではない
→婚約は無効である
※前橋地裁昭和25年8月24日
3 性交渉の際の『一緒になる』話し合い→睦言として婚約不成立
『一緒になる』という話し合いがあり,これ自体は結婚の約束そのものでした。
しかし,このケースもこの話し合いの状況が性的関係に伴うものであったため,真摯なものではないとして無効となりました。
<性交渉の際の『一緒になる』話し合い→睦言として婚約不成立>
あ 結婚を約束した経緯
情交関係が6,7回持たれた
2回目の情交の前に男女は『親が反対しても一緒になる』と話し合った
それ以外では,将来の話し合いはなかった
い 婚約成立の判断
結婚の話し合いがどれほどの真面目さで語られ,受け取られたかが疑問である
閨房(う)の睦言の類を出ない
真剣に将来結婚することを約束したとは認められない
→婚約は無効である
う 『閨房』の意味
閨房(けいぼう)とは寝室のことである
※大阪地裁昭和26年5月15日
4 求婚を承諾した後の訂正→真意なしのため婚約不成立
いったん求婚を承諾した女性が,その直後に,承諾を撤回した事例です。
細かい状況を元にすると,承諾したことは真意ではないと判断されました。
結果として,婚約の成立は否定されました。
<求婚を承諾した後の訂正→真意なしのため婚約不成立>
あ 結婚の約束
男女は文通をしているうちに,恋愛関係に陥った
男性は女性に対し結婚の申込をした
女性は承諾した
い 女性の父・兄の同意を取るプロセス(なし)
当時,女性には他の縁談もあった
女性は男性に対し,手紙で真意を質問した
男性は女性に『婚姻の意思がある』内容の手紙を送った
女性の母は結婚に同意した
女性は男性に『(女性の)父または兄に直接同意を求めて欲しい』という内容の手紙を送った
その後,男性から,女性の父・兄に対して結婚の同意を求めることはなかった
う 男性への不信発生(経歴詐称など)
男性は自分の学歴を秘していたことが発覚した
それまで男性は,一流大学に在学中であるかのごとく告げていた(真実ではない)
男性は『女性が同じ職場の別の男性と情交関係がある』と誤解し女性を責めた
え 女性からの婚約を否定する意思表示
女性の父と兄は結婚に同意できない状況であった
女性が,『男性とは結婚しない』と意思表明をした
お 婚約成立の判断
いったん女性は結婚を承諾している
しかし,このようなことは若い男女間にはありがちなことである
双方の一時の情熱に浮かされた行為である
誠心誠意をもって将来夫婦になるという合意が成立したとはいえない
→婚約は無効である
※東京高裁昭和28年8月19日
5 性的関係実現のための虚偽の結婚話→婚約不成立+慰謝料認容
このケースでも,形式的には結婚する約束がありました。
しかし,その状況からは,性的関係を実現するためのウソと判断されました。
前記のベッドの上での契約は無効という判断と同じです。
婚約は成立していないことになりました。
しかし,女性の貞操が侵害されたことについては,男性に慰謝料の賠償責任が認められました。
<性的関係実現のための虚偽の結婚話→婚約不成立+慰謝料認容>
あ 結婚の申込と性的関係
男性は女性に対して結婚を申し込んだ
その後,男性は女性と情交関係を結んだ
い 結婚する意思の表明と性的関係
その後も常に男性は『将来結婚する』といった
男性は結婚する意思を明らかにするような行動をもとっていた
男性は女性の歓心をかいながら情交関係を継続していた
う 妊娠・中絶
女性は男性との交際中,妊娠・中絶を2回行った
え 男性が説明した結婚しない理由
男性は,結婚にふみきれない理由として,最初は経済的理由を挙げていた
その後,男性の母の反対を挙げた
男性の母が結婚に反対することが確実である状況で,男性は女性とその友人を母親に会わせた
お 結婚しない意思の表明
男性の母は結婚に反対した
男性は結婚しない意向を表明した
か 婚約成立の判断
男性は当初から女性と結婚する意思をもっていなかった
一方,女性との情交関係を断絶することにも未練が残っていた
そこで,女性からの結婚の要求に対し,男性は将来結婚すると虚偽を述べた
男性は女性の歓心を買うような行動をとってその場その場を糊塗していた
→本人(男性)に,結婚する意思はなかった
→婚約は無効である
き 他の損害賠償責任
男性は,結婚する意思がなかった
それなのに,結婚する意思があることを装った
女性がこれを信じたために,情交関係が実現した
その後も男性は,しばらく待つことを要請する虚偽の説明を続けた
結果として情交関係は数年間継続した
→女性の貞操は侵害され,甚大なる精神的苦痛が生じた
→男性に対する慰謝料100万円の支払請求を認めた
※東京地裁昭和40年4月28日
6 明確な結婚の約束なしでの交際→婚約不成立
婚約が成立するためには,結婚するという意思表示が明確である必要があります。
なんとなく結婚する方向性の気持ちはあったけれど,明確ではなかったというケースです。
婚約の成立は認められませんでした。
<明確な結婚の約束なしでの交際→婚約不成立>
あ 明確な結婚の約束(なし)
男女は相互に結婚の気持ちを有していた
具体的な形で婚姻(結婚)を約したことはなかった
い 交際期間・両親への紹介(なし)
交際期間は知り合ってから4か月余であった
両親に結婚の話をしていなかった
う 婚約成立の判断
どこまで確実な合意といえるかは疑問が残る
→婚約は無効である
※仙台地裁平成11年1月19日
7 結婚の約束なしで避妊なしの性的関係→婚約不成立
このケースでは,避妊なしでの性的関係があったことが問題となりました。
しかし,裁判所は,明確な結婚するという意思表示がなかったので,婚約の成立を認めませんでした。
<結婚の約束なしで避妊なしの性的関係→婚約不成立>
あ 性的関係の状況
男女には,避妊をしない性的関係があった
同棲状態であった
い 明確な結婚の約束(なし)
『結婚する』という明確な意思表示はなかった
う 周囲への紹介(なし)
結婚する予定を両親,兄弟,友人に伝えていなかった
え 婚約成立の判断
婚姻する意思表示とそれを前提とした具体的行動がない
→婚約は無効である
※東京地裁平成18年1月16日
本記事では,婚約の成立を認めなかった裁判例を紹介しました。
それぞれの判断はとても参考になります。
しかし,実際の裁判では,まったく同じ事情ということはありません。
主張や立証のやり方次第で大きく結論は違ってきます。
もちろん,みずほ中央法律事務所では,最適な裁判例や学説(見解)を厳選して主張や立証を組み立てます。
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