【相続税の連帯納付責任|遺産分割の段階の『納税履行の担保』がベター】

1 相続税は各相続人について『納税額』が算定される
2 相続税は『連帯納付責任』がある
3 相続税の連帯納付責任→求償権免除→みなし贈与;税のスパイラル
4 遺産分割協議時に相続税の納税履行を考慮しておくと良い
5 遺産分割の段階で『納税履行の担保』を設定する具体的方法
6 遺言執行者による『納税』は権限外
7 遺産分割協議中の納税期限→暫定的申告・納税をしておくと良い

1 相続税は各相続人について『納税額』が算定される

相続税の計算方法は,最初に『相続税の総額』を算定した後で,各相続人でこれを分配する,という方式になっています。
条文上,『取得した財産の課税価格』の『割合』で算出する,ということと規定されています(相続税法17条)。

2 相続税は『連帯納付責任』がある

相続について,複数の納税義務者がいる場合『連帯納付責任』を負います(相続税法34条)。
相続によって取得した財産の額が上限,とはされていますが,重い割に見落とされがちなルールです。
結局,ある1人の相続人が納税しない場合でも,他の相続人が差押えを受ける,ということが起きることがあります。

3 相続税の連帯納付責任→求償権免除→みなし贈与;税のスパイラル

納税の連帯納付責任は,あくまでも『主債務者である本来の納税義務者に代わって納税する』という義務です。
そこで,連帯納付をした者は,本来の納税者に対して『求償権』を持つことになります。
そして,温情的に肩代わりした場合,つまり,求償を行わない場合は,税務上また別の問題を生じます。
債務を免除したことになるので,みなし贈与として,贈与税の対象となるのです(相続税法8条)。
贈与税は,利益を受けた方,つまり免除された債務を負っていた方,この場合は,弟が納税義務者となります。
そして,贈与税についても,連帯納付責任が規定されています(相続税法34条4項)。

<連帯納付責任のスパイラル>

相続税の『連帯納付責任』を履行(代わって納税)

贈与税が生じる

贈与税を『代わって納税』

納税した者に『贈与税の連帯納付責任』が生じる

連帯納付責任が2重に訪れる,という状態です。
なお,本来の納税義務者が無資力で回収不可能というような例外ならば,みなし贈与,は適用されません(相続税法8条ただし書き)。

4 遺産分割協議時に相続税の納税履行を考慮しておくと良い

遺産分割協議が成立した後に,相続人の1人が自分の相続税を納税できないというケースがあります。
そうすると,他の相続人が連帯納付しなくてはならなくなります。
せっかく話し合いが終わって解決したのに,新たに相続人間で問題が再燃する,というような状態になります。
そこで,遺産分割の協議の中で,各自の納税分,を計算して,納税できることを確認しておくと良いです。

5 遺産分割の段階で『納税履行の担保』を設定する具体的方法

遺産分割の段階で,納税履行を確実にするということを徹底するために,次のような方法があります。

<遺産分割における『納税履行の担保』の設定(通常)>

各相続人が『相続税分の金額』を控除した上で承継する
『相続税分の金額』は,相続人以外の第三者に預ける
第三者が,相続人に代わって納税の手続を行う

源泉徴収と同じような仕組みを作り出す,ということです。
この方法は,遺産中に納税額程度の現預金がある,という場合です。
現預金が納税額に満たない,という場合には次のような工夫があります。

<遺産分割における『納税履行の担保』(現預金不足)>

相続人が第三者に納税分の金銭を預ける
これと引き換えに遺産の承継手続を行う

これにより,納税履行逃れを防ぐことになります。

6 遺言執行者による『納税』は権限外

遺産の承継の場面で,中立の立場で動く者として遺言執行者があります。
中立性,という意味では,遺言執行者が納税してくれれば,納税履行逃れ,は未然に防げるように思えます。
しかし,この方法は,法律上の遺言執行者の権限に反してしまいます。

<遺言執行者の権限×『納税』>

あ 原則論

相続税納税は相続人・受遺者固有の義務である
→納税は遺言執行者の職務ではない

い 例外

遺言執行者が相続人・受遺者から委任or追認を受けた場合
※民法1012条1項
※東京地裁平成22年2月26日

7 遺産分割協議中の納税期限→暫定的申告・納税をしておくと良い

遺産分割協議が10か月以上かかる,ということは珍しくありません。
相続税の申告期限を超えてしまうと,無申告加算税などのペナルティを受けます。
そこで,争っている内容は一旦置いておいて,納税だけ暫定的に先行させておく,という方法を取ることがあります。
遺産の範囲や具体的な承継内容については統一的見解に至っていないので,便宜の遺産の範囲で仮定し,かつ,法定相続に基づく相続,という前提で,相続税の申告と納税を行っておく,ということです。
実際に,その後,遺産分割協議が成立した段階で,最終的な是正の処理を行うのです。
具体的には,修正申告なり更正の請求を行う,ということになります。

条文

[相続税法]
(各相続人等の相続税額)
第17条 相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税額は、その被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額に、それぞれこれらの事由により財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額とする。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【相続財産を譲渡した場合の取得費の承継と特例】
【合意書の条項の種類|債権回収の減額譲歩・2種類の条項|みなし贈与→課税】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00