【街中・風景の撮影→投稿は著作権侵害の例外|屋外設置物・写り込み】
1 『写り込み』を投稿,放送しても著作権違反にならない;各種例外的規定
2 『報道』については,著作権侵害から除外されるが,明確な基準がない
3 銅像,モニュメント,建物は著作物として保護される
4 『屋外設置物』の撮影→公開は著作権侵害にならない;屋外設置の権利制限
5 レプリカ作品の撮影→公表は適法;屋外設置物の拡張,類推
6 乗り物・建物×著作権侵害|適法の傾向|屋外設置物の類推
7 『屋外設置物の権利制限』は有償の販売には適用されない
8 軽微な写り込みを適法とする条文ができた
1 『写り込み』を投稿,放送しても著作権違反にならない;各種例外的規定
<写り込み|典型的事例>
撮影した動画に試合の中継番組のスクリーンが映った
これを見た人が試合内容を把握できることとなった
著作物を撮影して,投稿サイトへの投稿や放送によって公表すると複製権や公衆送信権の侵害となります。
しかし,たまたま写り込んだものも,形式的に違法とするのは行き過ぎです。
著作権法上の例外に該当することが考えられます。
<中継番組の映った動画投稿が適法となる具体例>
会場の熱気・雰囲気を伝える目的だけれど,スクリーンを外すと不自然になる
そこで,スクリーンも含めて撮影した
これを投稿サイトにアップロードして公表した
↓
あ 『写り込み』に該当する可能性(著作権法30条の2)
中継番組が『軽微な構成部分』である場合(後記『8』)
い 『引用』に該当する可能性(著作権法32条1項類推)
会場の雰囲気がメイン,スクリーンはサブである場合
う (著作権侵害の主張が)権利濫用に当たる可能性(民法1条3項)
番組制作者を害する目的はなく,また実際に具体的な弊害は生じていないという場合
結局,程度によって著作権侵害(違法),適法の結論が変わってきます。
写り込みがごく一部であれば適法,ということです。
これについて明確,画一的な基準はありません。
具体的な限界事例での見通し判断は予測可能性が低いのが現状です。
2 『報道』については,著作権侵害から除外されるが,明確な基準がない
『知る権利』の保護は重視されており,『報道する権利』も憲法解釈上尊重されています(憲法21条)。
著作権の解釈上でも,この配慮は取り込まれています。
『報道』に該当する場合は,著作権侵害にはならない,というものです(著作権法41条)。
このように理念は条文化されているのですが,具体的な報道に該当するかどうかの判断基準は曖昧です。
条文上,特に細かいコメントがないですし,また,この詳細な解釈を示した裁判例も見当たりません。
今後,裁判例が蓄積するなどすれば別ですが,現時点では予測精度が低い規定となっています。
3 銅像,モニュメント,建物は著作物として保護される
(1)銅像,モニュメント,建物は『美術の著作物』,『建物の著作物』に該当する
銅像,モニュメントは『美術の著作物』に該当します(著作権法2条2項,10条1項4号)。
建物については,デザインのレヴェルが高ければ美術の著作物または建築の著作物に該当します(著作権法46条2号参照)。
あくまでも創作的美術(の範囲)ということが前提となります(著作権法2条1項1号)。
一定のデザインのレヴェルの高さが前提です。
例えば,東京スカイツリーなどは,高度なデザインが採用されています。
著作物に該当するでしょう。
(2)銅像,モニュメント,建物の画像,動画の公表は著作権侵害となる
そうすると,これらを撮影した画像・動画を公表することは公衆送信権の侵害となりえます。
ただ,現実には,公共の場で,撮影されること自体が想定されている,という状況も少なくありません。
理論上,許容されるのは例外ですが,現実には例外は多いでしょう。
4 『屋外設置物』の撮影→公開は著作権侵害にならない;屋外設置の権利制限
(1)屋外設置物の権利制限
一定の公共の場での銅像,モニュメント類は,撮影,投稿があっても著作権侵害ではない扱いとされます。
屋外設置物の権利制限というルールです。
これに該当する要件は次のとおりです。
<屋外設置物の権利制限>
あ 前提条件
次のいずれにも該当する
ア 原作品イ 街路,公園その他公共の屋外ウ 恒常的に設置
い 権利制限
写真撮影などの利用は適法となる
=著作権侵害にはならない
※著作権法46条本文,45条2項
う 典型例
公共の場での銅像・モニュメントなど
大雑把に言えば,風景に溶け込んでいるというような趣旨です。
現実に,これらに該当し,権利制限が適用され,著作権侵害とならない,というケースは多いです。
5 レプリカ作品の撮影→公表は適法;屋外設置物の拡張,類推
『コピー』,『レプリカ』でも,屋外設置物の利用制限の規定(著作権法46条本文,45条2項)が拡張解釈や類推解釈によって適用されると考えられます。
撮影や公表されることが想定される,というこのルールの趣旨から外れないからです。
逆に,次のようなケースでは,利用制限規定の適用はないでしょう。
<レプリカでは屋外設置物の利用制限規定の適用はない,となるケース>
・原作品の所有者が著作権を持っている
・レプリカの所有者は著作権を持っていない
・原作品の所有者(著作権者)が公開を承諾していない
一般論として,レプリカが公共の場に展示されている,ということは,著作権者から承諾されているはずです。
逆に,承諾されていないとすれば,レプリカ所有者が著作権法違反を犯していることになります。
結局,通常はレプリカが公共の場に展示されている場合は,著作権者の承諾が推定されるので,原作品と同様に扱う方向性があります。
具体的には,屋外設置物の利用制限の規定が拡張解釈や類推解釈によって適用されるということです。
6 乗り物・建物×著作権侵害|適法の傾向|屋外設置物の類推
乗り物や建物の著作権法における扱いをまとめます。
<乗り物・建物×著作権侵害>
あ 事案
乗り物や建物の写真撮影を行った
例;自動車・飛行機・船・店舗・ビル・住宅
い 『屋外設置物』を適用する解釈論
乗り物については『恒常的に設置』に該当しない
しかし『権利制限』とする趣旨は同様である
→『屋外設置物の権利制限』を拡張or類推適用する
※著作権法46条本文,45条2項
※東京地裁平成13年7月25日;はたらく自動車著作権事件
う 著作物に該当しないケース
デザインによっては『創作性・芸術性』に欠ける
→そもそも『著作物』ではないことも多い
→この場合,写真撮影などは『著作権侵害』にはならない
※著作権法2条1項1号
詳しくはこちら|『著作物』に該当しない典型例(全体)
7 『屋外設置物の権利制限』は有償の販売には適用されない
<設定事例>
公共の場にあるモニュメントを撮影して動画にした
これをブルーレイ(DVD)に収めて販売したい
無償で,撮影→投稿(公表)することは,『屋外設置物の権利制限』に該当し,適法です(著作権法45条2項,46条)。
実際に広く行われております。
しかし,有償となると扱いが変わってきます。
販売を目的として著作物を複製する形態は,『屋外設置物の権利制限』の例外とされています(著作権法46条4号)。
結局,原則に戻って,著作権侵害ということになります。
具体的には,複製権(著作権法21条)などの著作権侵害となります。
8 軽微な写り込みを適法とする条文ができた
<事例設定>
町並みを撮影して動画を作成した
これを投稿サイトにアップロードして公表した
1つのシーンをよく見たら,美術館の入口が写っていた
エントランスの銅像も映っていた
形式的には,『美術の著作物』の複製権,公衆送信権が侵害されている状態と言えます(著作権法2条2項)。
美術館という建物の内部なので『屋外設置物の権利制限』(著作権法45条2項,46条)の適用もありません。
そうすると,原則どおりに,著作物の撮影→公表なので,著作権侵害となるはずです。
しかし,ごく一部に写ってしまった,という場合まで違法とするのは不合理です。
そこで,一定の軽微な写り込みについては,違法としては扱わない,というルールが規定されました。
<写り込み×著作権侵害|原則・例外規定>
あ 写り込み|原則論
著作物の写真撮影
→複製権侵害=著作権侵害に該当する
い 写り込み|例外規定|要件
『写真撮影の対象』と『写った著作物』の関係性
ア 分離困難イ 付随的ウ 軽微な構成部分
う 写り込み|例外措置
『い』のいずれにも該当する場合
→複製・翻案が適法となる
※著作権法30条の2
まさに,町並みの撮影中に動画に一瞬写りこんだ美術品,というのはこれに該当するでしょう。
結局,適法ということになります。
なお,以前より,軽微な写り込みを適法と判断する裁判例はあります。
動画を対象とするものは別に説明しています。
別項目;スポーツの番組が写り込んだ場合は適法となることもある