【『悪ふざけ投稿』→解雇・損害賠償|公益通報には該当しない】

1 悪ふざけ投稿の違法性
2 従業員の動画投稿は悪ふざけでは公益通報としての保護対象外

1 悪ふざけ投稿の違法性

従業員が,その勤務中の状況を動画に撮影し,配信サイトに投稿することが非常に容易にできるようになってきました。
そこで,ショッキングな映像が広く伝達する例が実際にみられます。
いわゆる「悪ふざけ投稿」と呼ばれるニュースが一時期よくみられました。

<かつて生じたショッキング映像の拡散>

・牛丼チェーン店で,具を箇条に盛り付けた映像(「ギガ(10^9)盛り事件」)
・ホテルに著名人が愛人と登場した映像

このような場合,店舗・宿泊施設等の運営者として,雇用主が責任や損失を負うことになります。

もちろん,原因は従業員の悪質・意図的な行為にあります。
責任が生じることは当然です。
別項目;使用者責任,雇用主から従業員への損害賠償請求;求償権の制限

労働契約法や一般的な就業規則において,従業員は,一定の義務を負います(労働契約法3条4項)。
信義,誠実,品位保持や会社への損害回避という義務です。
別項目;従業員が内部情報をリークした場合,損害賠償,懲戒の責任が生じる

わるふざけ投稿によって視聴者は,店舗等の悪印象を生じます。
このような映像の撮影,公表は,従業員の義務に反します。
そこで,売上減少や信用失墜について,雇用主から従業員に対して損害賠償請求ができます。
また,身元保証人がいる場合は,この保証人に対しても同様の請求ができます。
なお,職場の規律維持が不十分だったことについて,雇用主側にも過失があるような場合は,過失相殺として損害賠償額は減額されます。

2 従業員の動画投稿は悪ふざけでは公益通報としての保護対象外

<事例設定>

従業員が飲食店の店舗内を撮影し,これを会社に無断で投稿サイトにアップロードした
一方,『店舗内の衛生管理が非常にずさん』という状況であった

内部告発を推奨すべく,一定の通報については,公益通報者保護法によって,不利益な扱いが禁止されています。
公益通報に該当する場合,例えば『解雇』などの雇用関係上の不利益扱いができないことになります。
雇用関係だけではなく,損害賠償など,それ以外のマターについても違法性の判断において,公営機通報者保護法による保護は影響があります。

公益通報としての保護が適用されるためには,通報先などの要件を満たす必要があります。
別項目;公益通報は状況によって段階的に通報先が定められている
ここではおおまかに言うと,労務提供先(雇用主)や監督行政機関への通報がメインとなっています。
それでも事態が改善されない場合に初めてマスコミや一般の方などの第三者への通報,公表をすべきという考え方が元になっています。

<第三者への通報が正当化される典型的な例>

当該通報が損害の発生や拡大を防止するために必要である
※公益通報者保護法3条3号等

少なくとも,単にふざけて裏事情の動画を公表するような場合は,損害の発生や拡大防止という目的ではないでしょう。
仮に目的について考えなくても,必要性に乏しいでしょう。
また,このような情報リークの経緯,目的は,公益通報の適応が除外されています。
別項目;公益通報の適用除外;悪ふざけ投稿
雇用主や監督行政機関への通報といったより穏当な解決手段があります。
また,具体的な方法としても,動画を公表というのは過剰です。
映像の場合,印象に残る程度が特に強いです。
動画であることは,文章を掲示板に投稿した場合と比べて,必要性が否定される方向に強く働くでしょう。

条文

[公益通報者保護法]
(解雇の無効)
第三条  公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
一  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
二  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
三  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ホ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

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