【借地の明渡請求の手続の流れ(仮処分・和解・判決・強制執行)】
1 借地の明渡請求の全体の流れ
借地について、契約が終了し、明渡の手続を行う場合の全体の流れをまとめます。
借地明渡全体の流れ
あ 借地契約終了
更新拒絶や無断譲渡に対する解除、債務不履行解除など
詳しくはこちら|借地は法定更新で延々と続く、更新拒絶には明渡料などの『正当事由』が必要
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い 仮処分
事情によっては、占有移転禁止の仮処分や処分禁止の仮処分を行なう(後記『2』)。
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う 明渡の交渉
地主、借地人で具体的な退去期限などを協議する
合意に達した場合は書面にしておくことが重要である(後記『3』)。
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え 明渡請求訴訟
交渉がまとまらない場合には訴訟を利用することもできる
なお、民事調停を利用する方法もある
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お 建物買取請求
更新拒絶の場合には、借地人からの建物買取請求権が認められる
詳しくはこちら|借地期間満了時の建物買取請求権の基本(借地借家法13条)
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か 強制執行
『債務名義』がある場合は、明渡の強制執行をすることができる
建物の収去(解体)も含む
別項目;強制執行するためには一定のアイテムが必要;債務名義
なお『建物明渡の法的手続・強制執行』も共通するところが多いです。
関連コンテンツ|建物明渡|法的手続|基本・流れ|占有移転禁止/断行の仮処分
2 仮処分によって、訴訟や執行の妨害を防げる+和解成立のチャンスにもなる
(1)明渡請求訴訟の妨害が想定される
後から、明渡請求訴訟を提起する場合、借地人に妨害されるということが想定できます。
明渡請求に対する借地人の妨害
明渡請求訴訟の提起後に、このようなことをされた場合、『被告』を変更しなくてはならなくなります。
原則的に再度改めて新たな『被告』に対して提訴する必要が生じます。
単純に『被告の表記を変更する』ということでは済まないのです。
仮に借地人側が悪質で、何度も居住者や建物所有者を変更した場合、永遠に明渡請求訴訟が終わらないことになってしまいます。
(2)占有移転禁止・処分禁止の仮処分で妨害を封じる
そこで対抗策として、占有者や建物所有者(借地権者)が変更することを禁止することが効果的です。
このような命令を裁判所が出す手続が、占有移転禁止・処分禁止の仮処分です。
占有移転禁止・処分禁止の仮処分命令が発令後に変更があった場合でもなかったものとみなすことになります。
明渡請求訴訟をやり直す必要はなくなるのです。
(3)仮処分によって和解成立につながることもある
仮処分の本来の効果は妨害を封じるというものです。
ただ、副作用として、借地人と協議→和解に至るということも生じます。
借地人に、『地主が法的手続を始めた』という態度がはっきりと伝わります。
そのため、借地人が『単に拒否すれば済むわけではない』と考えるきっかけになるのです。
3 明渡の交渉が合意に達した場合、内容を債務名義にしておくと良い
(1)明渡について決めるべき項目
地主、借地人の交渉の結果、明渡の内容について、合意に達することもあります。
その場合、合意内容を明確にして、また、記録にするために、書面に調印しておくと良いです。
特に重要な合意事項、記載事項をまとめます。
重要な明渡合意の項目
・金銭(明渡料)
・建物の処理
地主が買い取るなど
移転登記や滅失登記を申請する時期・費用負担
解体費用の負担
・支払時期、支払方法
・違約金
一般的に明渡料は高額になる傾向があります。
別項目;借地人が退去する場合の明渡料は借地権価格が基礎となる
明渡料の支払と明渡の完了確認を同時交換的に行う、というように設定するのが常識的です。
(2)債務名義にしておくと強制執行がしやすくなる
また、仮に期限までに任意に明渡がなされない場合に備えて、すぐに強制執行できるようにしておく工夫もあり得ます。
訴え提起前の和解や公正証書を利用するものです。
このようにすぐに強制執行できるというものを債務名義と言います。
(3)債務名義にすると任意の履行の可能性が高まる
このような強い効果がある書面にしておくと、実際に強制執行をしない場合でも効果はあります。
本当に強制執行を行わなくても借地人が任意に(自発的に)退去することが促進されるのです。
4 借地人が行方不明、という場合でも、建物や動産を無断で解体、処分できない
事例設定
行方不明であり、連絡が取れない
建物を地主側で使っても良いのでしょうか。
ストレートにはできません。
形式的ではありますが、明渡請求訴訟の認容判決を獲得→強制執行、というプロセスを経る必要があります。
建物自体は借地人の所有物のままです。
そのまま建物に立ち入ると、住居侵入罪などの刑事上の責任さえ発生しかねません(刑法130条)。
法的な手続を行う必要があります。
借地人行方不明の場合の適法な明渡手続
あ 明渡請求訴訟提起
滞納地代・損害賠償請求等も請求内容に含める
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い 判決獲得
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う 強制執行などの申立
建物解体の強制執行or建物の差押、競売申立
最終的に、『競売にした上で、地主自身が安く建物を買取る』という方策もあります。
この場合、最初に借地契約を解除しておきます。
そうすると、この建物は土地利用権原なし、ということになります。
通常は入札しようと思う人は出てこないことになります。
5 明渡の強制執行=代替執行|家財を搬出し、一旦保管する
(1)明渡の強制執行では執行官が退去を執行し、解体は地主が行う
判決や和解調書(債務名義)によって、明渡の構成執行をすることもあります。
正確には、建物収去と土地明渡を執行する、ということになります。
まずは概要を説明します。
執行官が建物内の占有者を物理的に排除します。
つまり、建物外に移動させます。
建物内の動産、つまり家具類については強制的に搬出し、倉庫業者などに保管してもらいます。
その後、地主が建物を解体します。
本来借地人が行うべき義務を、適法に地主が代わって行うことになります。
代替執行という方法です。
(2)実際には、執行の直前の警告で自主的に退去することが多い
なお、強制執行の予定日の1週間程度前に、執行官が借地人に警告をします。
借地人が不在の時は、施錠を解錠して建物内に入り、置手紙でメッセージを残すこともよく行われます。
このような警告によって、借地人は『法的な手続が始まっている』と危機感を生じます。
その結果、強制執行を行う直前に自ら退去する、というケースが実務上多いです。
(3)明渡の強制執行の内容・流れ
明渡の強制執行の手続の内容や流れについて説明します。
強制執行は『代替執行』という種類の方法が取られています。
要するに、請求者(土地所有者など)が、債務者に代わって建物を取り壊す、ということです。
原則的には『他人物の破壊→建造物損害罪』など、違法行為になります。
しかし、『強制執行』の手続であれば適法行為となるのです。
裁判所が請求者に対して『解体の権限を与える』というスタイルです。
これを『授権決定』と言います。
『授権決定』を得るための『代替執行』の内容をまとめます。
建物収去土地明渡の強制執行|代替執行の手続
あ 管轄=執行裁判所;民事執行法171条2項
判決の場合 第一審裁判所 和解調書の場合 和解した裁判所
い 申立の趣旨(文言)
『○○地方裁判所執行官をして(又は第三者をして)、債務者の費用をもって○○をさせることができる。との裁判を求める。』
う 裁判所の審理
申立書記載の『収去すべき建物』と、債務名義記載の建物との同一性
え 債務者審尋
申立を認める決定(授権決定)をする場合は、債務者審尋が必要
審尋の方法=『書面陳述』or『呼び出し』
実務上は『書面陳述』が多い
※民事執行法171条3項
お 不服申立・『確定』の概念
授権決定、申立却下決定、に対して、執行抗告ができる
『授権決定』は即時に効力が生じ、執行抗告がされても当然には執行は停止しない
ただし実務上、執行官に対し執行の申立をする際には、『確定証明書』の提出が求められている
実際には、代替執行の申立書とともに、代替執行費用支払の申立書も提出する方法をとるのが通常です。
費用負担の求償と明渡執行
あ 手続の種類
タイミング 申立の種類(名称) 金額の内容 民事執行法 授権決定『前』 代替執行費用支払の申立 概算額の請求 171条4項 授権決定『後』 執行費用額確定処分の申立 確定額の請求 42条4項
い 実務的な方法
一般的には、代替執行の申立の時に
一緒に『代替執行費用支払の申立書』も提出する
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p838
(4)建物内・敷地上の残置動産の処理
建物内や建物の外の敷地部分に、動産などが残されていることがあります。
この場合は、単純に処分する(捨てる)と法的責任が生じるリスクがあります。
これについては別に説明します。
詳しくはこちら|建物明渡×実力行使|基本・違法性判断|自力救済or自救行為
6 明渡の強制執行の際は、地主かその代理人が立ち会う必要がある
明渡の強制執行については、請求者(債権者)の立会が要求されます。
もちろん、代理人弁護士が付いている場合は、最低限代理人が立ち会えば足ります。
7 建物の解体費用の相場
土地の明渡の強制執行では、建物の収去(解体)も含むケースが多いです。この場合、解体に要する費用は、一時的に地主(執行手続の債権者)が負担します。その後結局この費用を回収できないこともあり得ます。
建物の収去と土地明け渡しを求めるケースでは最初の段階からしっかりと把握しておくべき情報です。
建物の解体費用は当然、個別的な事情によって異なります。ここでは大雑把な相場をまとめておきます。
建物の解体費用の相場(目安)
あ 木造・軽量鉄骨造
延床面積1㎡あたり1.5〜2万円程度
い 鉄骨造
延床面積1㎡あたり1.5〜2.5万円程度
う 鉄筋コンクリート造
延床面積1㎡あたり1.8〜3万円程度
え (補足説明)
解体業者に支払う代金以外に、近隣住民へ支払う迷惑料なども含む総額である
建物の頑丈さの程度や、長屋である等の特殊性で「あ〜う」の範囲外となることもある
「あ」は東京の場合を前提としている、地方はその1~2割減程度の場合もある
解体資材の運送経費が嵩む離島の場合や、前面道路が狭く手間がかかる場合、有害物質がある建物の場合などは割高となることがある
解体費用自体は(土地や建物同様に)、年によって相場水準が変動する
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p175
本記事では、借地の明渡請求の手続の流れを説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地の明渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。