【別居中の『私物』引渡請求は理論的には認められるが実現困難な時も】
- 最近,夫婦の仲が悪くなって,夫が近くの実家に戻っています。
それ以降別居という状況です。
その後,夫が,夫名義の通帳・キャッシュカードや学生時代の卒業アルバムを送ってくれと要求してきています。
応じないといけないのでしょうか。
1 別居中の共有財産の引渡請求は否定されることが多い
2 別居中の特有財産の引渡請求は認められるが,実現が困難なこともある
1 別居中の共有財産の引渡請求は否定されることが多い
夫婦でも,民法上,財産は別が原則です(夫婦別産性;民法762条1項)。
そうなると,夫名義の預貯金通帳・キャッシュカードは,夫の財産ということになります。
しかし,預貯金については,ちょっと特殊です。
一般的に,夫婦間で日々の生活費として使うためという位置付けとなっている預貯金は多くあります。
<日々の生活費用の預金口座の例>
・夫名義の預金通帳やキャッシュカードを妻が保管していて,不定期に生活費のために引き出している
・夫の給与の振込先口座となっている(こともある)
このような扱いがなされている場合は,『夫婦間では夫婦共有財産として合意されている』ということが言えるでしょう。
詳しくはこちら|預貯金は代表的な財産分与の対象であるが例外もある
そうすると,形式的には夫名義,であっても,100%夫の財産ではありません。
結論的に,無条件に夫に引き渡す義務,までは認められないと思われます。
ただし,夫としては,金融機関で通帳やキャッシュカードを再発行すれば,以前の通帳・カードは使えなくなります。
また,本人確認さえ行えば,預金を引き出すこともできます。
その意味で,『どうしても通帳・カードを渡さない』と固辞しても,預金自体がキープできるわけではありません。
2 別居中の特有財産の引渡請求は認められるが,実現が困難なこともある
夫婦で一緒に購入した家具などは,夫婦共有財産として,少なくとも婚姻中はどちらかに引き渡す義務はありません。
また,預貯金等であれば,夫婦の管理下にあることもあります。引き渡す義務が肯定されるとは限りません。
しかし,夫の過去の卒業アルバムは,夫の所有物です。
夫婦共有という扱いにはなりません(特有財産;民法762条1項)。
そこで,夫の所有物として一般原則に戻って引き渡す義務があることになります(民法206条)。
以上は理論的な話しです。
実際には,感情的な対立から,容易に引渡に応じない,ということも多いです。
結果的に,離婚条件の協議や裁判中は保留にしておいて,最終的な財産分与と一緒に引き渡しを行う,ということも多いです。
どうしても引渡を実現する場合は,離婚の問題とはまったく別に動産引渡請求として一般の訴訟を提起することになります。
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