【建物譲渡特約付借地の基本(建物譲渡の定めの種類と条項の具体例)】
1 建物譲渡特約付借地の基本
2 建物譲渡の定めのバリエーション
3 契約の書面の形式
4 他の定期借地の契約の方式(概要)
5 建物譲渡特約付借地契約書の条項例
6 存続期間・建物譲渡時期の定めの具体例(概要)
7 建物譲渡代金の算定(概要)
8 定期借家権の発生(概要)
9 建物の賃貸・譲渡による地主のリスク(概要)
1 建物譲渡特約付借地の基本
一般的な借地では借地人が強く保護されます。法定更新により半永久的に借地が続きます。
この例外として定期借地があります。広義の定期借地の中の1つとして建物譲渡特約付借地があります。
本記事では,建物譲渡特約付借地の基本的事項を説明します。
文字どおり建物を地主に譲渡することが予定されている方式の契約です。
<建物譲渡特約付借地の基本>
あ 合意する内容
一定の時期に借地上の建物を地主が譲り受ける
例;買い取る
建物譲渡の時期について
契約開始後30年以上が経過した時点とする
い 効果
法定更新が適用されない
=更新しない合意が有効となる
※借地借家法24条,9条
う 借地借家法上の分類
(広義の)定期借地の1つである
2 建物譲渡の定めのバリエーション
建物譲渡特約付借地では,契約に建物を地主に譲渡する内容が含まれている必要があります。
この建物の譲渡については,時期や譲渡の内容にバリエーションがあります。
<建物譲渡の定めのバリエーション>
あ 条文規定
建物譲渡時期について
借地権設定後30年以上が経過した時点
※借地借家法24条1項
い 譲渡時期の設定のバリエーション
ア 一定の期間経過時点イ 一定の期間経過後に借地人が意思表示をした時点ウ 一定の期間経過後に地主が意思表示をした時点
う 建物譲渡の方式のバリエーション
ア 期限付売買契約イ 売買予約ウ 期限付交換契約エ 交換予約オ 期限付代物弁済カ 代物弁済予約
3 契約の書面の形式
建物譲渡特約付借地では,契約の方式については制限がありません。
逆に,広義の定期借地のうち,他の種類の場合は書面が必須となっています(後記)。
<契約の書面の形式>
あ 条文規定
借地契約の方式について
→制限する規定はない
→『書面・公正証書』である必要はない
実務上・現実には書面は必須といえます
い 定期借地との組み合わせ
建物譲渡特約付借地と他の定期借地を組み合わせる場合
→結果的に書面や公正証書を作成する必要がある(後記※1)
4 他の定期借地の契約の方式(概要)
広義の定期借地のうち,建物譲渡特約付借地以外のものは書面や公正証書が必須となっています。
ところで,建物譲渡特約付借地は他の定期借地との組み合わせも可能です。
組み合わせた内容の契約では,書面や公正証書が必要となります。
<他の定期借地の契約の方式(概要;※1)>
あ 普通定期借地の契約の方式
書面であることを要する
※借地借家法22条
い 事業用定期借地の契約の方式
公正証書であることを要する
※借地借家法23条1項
詳しくはこちら|定期借地の基本(3つの種類と普通借地との違い)
5 建物譲渡特約付借地契約書の条項例
建物譲渡特約付借地では,建物の譲渡の内容が合意されている必要があります(前記)。
契約書の条項のサンプルを紹介します。
<建物譲渡特約付借地契約書の条項例>
第n条 賃貸借の期間は,年月日から年月日までの30年間とする。
第n条 借地権設定者は,本契約期間満了の時点で,本件建物をその時点の時価で買い取るものとする。
6 存続期間・建物譲渡時期の定めの具体例(概要)
建物譲渡特約付借地では,建物譲渡時期を定める必要があります(前記)。
これとは別に借地の存続期間も定める必要があります。
この2つの期間・時期は『同時』にしない方法も可能です。
存続期間と建物譲渡時期の定めはいろいろな工夫ができます。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地の存続期間と建物譲渡時期の定めの具体例
7 建物譲渡代金の算定(概要)
建物が地主に譲渡される時の代金額について,当事者で見解が対立することがあります。
金額の算定の方法については,明確な判例などの解釈論はありません。
事前に,見解の対立が生じないような工夫をしておく予防策をとることが好ましいです。
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地の建物譲渡代金の算定(相当の対価)
8 定期借家権の発生(概要)
建物を地主に譲渡する際,借家権が発生する制度があります。
法定借家権というものです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地における法定借家権発生と賃料の決定(協議・裁判)
9 建物の賃貸・譲渡による地主のリスク(概要)
建物譲渡特約付借地では,借地上の建物が第三者に賃貸される,所有権が移転するということがあり得ます。
地主の立場としては法的なリスクが生じることになります。
<建物の賃貸・譲渡による地主のリスク(概要)>
あ 建物の賃貸
借地人が建物を第三者に賃貸した
→第三者(建物賃借人)が占有(入居)している
→建物賃貸借を地主が引き受けるリスクがある
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地における地主と建物賃借人の対抗関係と紛争予防策
い 建物の譲渡・差押
借地上の建物の所有権が第三者に移転した
例;売買・交換・贈与・差押
→普通借地の扱いに変わってしまうリスクがある
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地における地主と建物譲受人の対抗関係と紛争予防策