【敷金の基本|法的性質・担保する負担の内容・返還のタイミング・明渡との同時履行】
1 敷金の法的性質=『賃貸期間中の一切の賃貸人の債権の担保』
2 敷金が担保する負担の具体例|賃料・管理費・更新料・原状回復義務・損害賠償
3 『賃貸借契約』と『敷金契約』は別契約だけど関連している
4 敷金返還のタイミング|明渡時・明渡と同時履行ではない
5 『敷金返還』は『原状回復』が原因でトラブルになることが多い
6 敷金返還のトラブルの解決手続|民事調停・訴訟が利用される
1 敷金の法的性質=『賃貸期間中の一切の賃貸人の債権の担保』
建物の賃貸借契約の開始時に『敷金』が支払われることのが通常です。
『敷金』の基本的な仕組み・性質についてまとめます。
<敷金の仕組み・性質>
あ 交付
建物の賃貸借契約に際し,賃借人から賃貸人に交付される金銭
い 担保
賃借人が賃貸人に対して負う債務の一切を担保する(後述)
う 返還
契約終了の際に,賃借人に返還される
賃借人の債務不履行があればその額が控除される
※最高裁昭和48年2月2日
2 敷金が担保する負担の具体例|賃料・管理費・更新料・原状回復義務・損害賠償
敷金が担保する『賃貸人に対して負う債務』の具体例をまとめます。
<敷金の担保対象|例>
あ 賃料,管理費,更新料(不払い)
い 原状回復義務
う 損害賠償責任
3 『賃貸借契約』と『敷金契約』は別契約だけど関連している
敷金は,賃貸借契約の開始時に支払われます。
実質的には『セット』と言えます。
しかし,法律的には『賃貸借契約』『敷金契約』という別の契約です。
オーナーチェンジの場面などで,この解釈論が関係することがあります。
<賃貸借契約と敷金契約>
あ 契約の扱い
『賃貸借契約』と『敷金契約』は別の契約である
い 関連性
『敷金契約』は『賃貸借契約』に『付随従属』する
→『敷金契約』は独立の意義を有するものではない
※最高裁昭和48年2月2日
4 敷金返還のタイミング|明渡時・明渡と同時履行ではない
敷金返還のタイミングが問題になることが多いです。
この論点は最高裁判例でルールがしっかりとできています。
<敷金返還のタイミング>
あ 敷金返還義務発生時期
明渡時
※最高裁昭和48年2月2日
い 敷金返還義務と明渡義務の同時履行
同時履行の関係ではない
=明渡義務が先履行
※最高裁昭和49年9月2日
5 『敷金返還』は『原状回復』が原因でトラブルになることが多い
敷金返還の実際の場面では『原状回復の費用』を控除することになります。
ここで『どの範囲で控除するのか』について,見解が対立→トラブル発生,となるケースが多いです。
『原状回復義務』については,解釈が難しく,かつ『特約の有効性』も問題となります。
原状回復義務に関しては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|原状回復義務|基本|通常損耗は含まない・特別損耗・契約違反による損傷は含む
6 敷金返還のトラブルの解決手続|民事調停・訴訟が利用される
敷金返還についてトラブルとなることは多いです。
一般的な居住用建物でもそうですが,広い事業用のオフィス・店舗だと規模が大きいです。
原状回復が1000万円単位になることもよくあります。
オーナー(賃貸人)とテナントで見解が大きく相違するケースも生じがちです。
このような場合,弁護士が代理人として交渉する方法や民事調停・訴訟を申し立てる方法があります。
解決手段の選択・申し立てるタイミング・証拠の収集など,すべてのアクションが有利な結果につながります。
『原状回復』を中心とした主張・立証の内容次第で結果が大きく異なることがあります。
トラブル発生の初期段階から早めに専門家が関与することを推奨します。