【原状回復義務|基本|通常損耗は含まない・特別損耗・契約違反による損傷は含む】

1 賃借人の負う義務|『善管注意義務』+『原状回復義務』
2 『特別損耗』は原状回復義務に含まれる
3 『通常損耗』は原状回復義務に含まれない
4 通常損耗が『原状回復義務』に含まれない理由|レンタカーの参考例
5 経済的分析|『通常損耗』のコストも含めて賃料設定がなされている
6 原状回復費用|契約違反による損耗は含まれる
7 賃借人の『関係者』の違反行為も『賃借人の違反』と同じ扱いとなる
8 原状回復費用|国土交通省ガイドライン

本記事では『原状回復』の基本的なことを説明します。
『通常/特別損耗』の判別や『原状回復』に関する『特約』については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|原状回復義務|通常損耗/特別損耗の判断|クロスの張り替え→割合的判断
詳しくはこちら|原状回復義務|通常損耗修補特約の有効性|リフォーム・クリーニング・カギ交換

1 賃借人の負う義務|『善管注意義務』+『原状回復義務』

賃貸借契約が終了した時に,賃借人は『原状回復』をする義務があります。
『原状回復義務』の内容・解釈は単純ではありません。
最初に『賃借人の負う義務』全体をまとめます。

<賃借人の負う義務>

あ 賃貸期間中

対象物の使用について『善管注意義務』を負う
『善管注意義務』=『善良なる管理者の注意義務』のこと
※民法400条

い 賃貸借終了時

対象物を『現状に回復する義務』を負う
※民法598条,616条

賃借人は,他人の所有物を預かるわけです。
そこで賃貸期間中は『高めの注意を払って扱う』ということです。
その延長として,返還の時には『原状回復義務』を負うことになります。

2 『特別損耗』は原状回復義務に含まれる

賃借人が契約終了時に『目的物を返す』のは,当然のことです。
ところが『原状回復義務』の解釈は,純粋に『元通りにして返す』とは違うのです。
『善管注意義務』を元にして解釈されます。

<『原状回復義務』|対象となる=特別損耗>

ア 賃借人の『善管注意義務違反』による損耗,毀損イ 賃借人の故意,過失による毀損ウ その他通常の使用を超えるような使用による損耗,毀損

<『特別損耗』|具体例>

賃借人の故意,過失によって生じた汚れやキズ

3 『通常損耗』は原状回復義務に含まれない

<『原状回復義務』|対象とならない=通常損耗>

賃借人が通常の使用(生活)をした場合に生じる損耗(劣化,価値の減少)
→『経年劣化の範囲内』のこと
※最高裁平成17年12月16日

<『通常損耗』|具体例>

ア 家具設置の跡イ 日照による畳や壁の変色ウ 自然災害による破損

実際には『通常損耗』『特別損耗』の判断が問題になることがとても多いです。
これについては別記事で説明しています(リンクは冒頭記載)。

4 通常損耗が『原状回復義務』に含まれない理由|レンタカーの参考例

(1)通常損耗が『原状回復義務』に含まれない理由

通常損耗が『原状回復義務』に含まれない理由をまとめます。

<通常損耗が『原状回復義務』に含まれない理由>

あ 民法上の規定

賃貸人は『修繕義務』『必要費償還義務』を負う
※民法606条,608条

い 本質的役割・経済的バランス

賃貸人は『貸すための一定のコスト』を負担する
=『賃料』を取得することの対価

『経年劣化=通常損耗』の修補コストは『賃料』でまかなわれているのです。
賃貸人が『賃料』とは別に『原状回復費用』を取得すると『2重取り』になってしまいます。
また,補修・クリーニングは『次の入居者を得るための業務』と言うこともできます。
次の賃借人の支払う賃料その他の金銭でまかなう,という関係とも言えます。

(2)レンタカーにおける『通常損耗』|参考としての例

『通常損耗』について,不動産以外の賃貸借で例えてみます。

<原状回復×通常損耗|レンタカーでの例え>

あ 通常損耗に該当するもの

ア 摩耗した分のタイヤ代イ エンジンその他の老朽化相当分

い 負担する者

レンタカー返却時に『規定料金に『あ』の費用を上乗せ』するのは不合理
=規定料金に含まれる

5 経済的分析|『通常損耗』のコストも含めて賃料設定がなされている

『通常損耗』に該当するものの修理については,オーナーが負担します。
既に受け取った賃料から支出する,という考え方です。
現実的には,このような『負担』は料金=賃料設定に反映されるべきものです。
つまり,通常損耗修補コストを算定し,これを含めて賃料設定を行う,ということです。

6 原状回復費用|契約違反による損耗は含まれる

賃借人が契約上の条項で禁止する行為を行うケースもあります。

<規定違反の具体例>

ペット禁止の賃貸建物でペット(猫)を飼っていた
契約書にもペット禁止が明記されているし,賃借人もしっかりと認識していた
退去時には,ふすま,ドアや柱が引っかき傷だらけになっていた

賃借人に規定違反があった場合,確実に『善管注意義務』の違反に該当します。
これにより生じた損害・劣化は『特別損耗』と言えます。
上記事例では,ペットによるキズや生じたハウスクリーニング費用は全額が賃借人の負担となります。
つまり『原状回復義務』に含まれることになります。

7 賃借人の『関係者』の違反行為も『賃借人の違反』と同じ扱いとなる

賃借人の故意・過失による毀損については,原則的に,賃借人の原状回復義務に含まれます(前述)。
『賃借人』自身ではなくても,契約上当然想定される者については『占有補助者』となります。
『占有補助者』の行為は『賃借人の行為』と同様に扱います。
その結果,このような損壊は自然損耗ではありません。
『特別損耗』として賃借人の『原状回復義務』に含まれることになります。

8 原状回復費用|国土交通省ガイドライン

実際には原状回復の範囲の解釈・見解が当事者間で異なる→トラブル発生,ということが多いです。
ですから,以前より『より具体的な基準があれば良い』と言われてきました。
そこで,平成10年に国土交通省が原状回復についてガイドラインを取りまとめています。
これはあくまでガイドラインです。賃貸借契約に特別な事情があればガイドライン通りにならないこともあります。
ただ,いずれにしても,大変参考となる基準です。
外部サイト|国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

<参考情報>

月報司法書士 14年4月号p32〜38

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