【建物賃貸借の中途解約の可否・中途解約違約金の有効性(賃料1年分基準)】

1 建物賃貸借の中途解約の可否・中途解約違約金の有効性

建物賃貸借では通常,2年や3年といった期間を定めます。一方,その後の入居者の事情により,期間の途中で賃貸借契約を解約して退去する,ということもありふれたことです。中途解約については違約金を定めている契約もあります。
本記事では,このような中途解約や,その場合の違約金の有効性について説明します。

2 期間満了前の中途解約の種類

最初に,決めた期間の途中で解約するということの根本的なルールを押さえておきます。というのは,期間を決めた以上は途中で契約を終了させられないのが原則で,中途解約できる場合は限られているのです。
中途解約できるのは,特約(契約書の条項)で「解約できる」と書いてある場合(解約権留保特約)と,法律上「解約できる」と決められている場合です。借地借家法で解約が認められているのは定期借家契約だけです。なお,借地借家法では,期間の定めがない建物賃貸借でも解約が認められていますが,本記事では期間が決まっている契約を前提としているので,対象外です。

期間満了前の中途解約の種類

あ 解約権留保特約

「解約できる」という特約がある場合は,この特約により解約(申入)をすることができる
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)

い 定期借家の中途解約権

定期借家契約では,(特約がなくても法律上)一定の事情があれば,賃借人から解約することができる
詳しくはこちら|定期借家における賃借人からの法定中途解約権

う 期間の定めのない普通借家の解約申入(参考)

期間の定めがない建物賃貸借(普通借家)では,当事者(賃貸人・賃借人)は解約申入をすることができる
詳しくはこちら|期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間

実際の建物賃貸借(普通借家)の契約書では,ほぼすべてに「解約できる」条項が入っているので当たり前に思ってしまいますが,逆にそのような条項が入っていないと(期間の途中での)解約自体ができないのです。以下,解約できる条項がある前提で説明を続けます。

3 一般的な解約条項(解約権留保特約)の例

以上の説明は理論的な基礎部分でした。実務では建物賃貸借契約の中に解約の条項があるのが通常です。
解約できるということとともに,解約予告期間が設定されています。居住用建物であれば1〜2か月,店舗や事務所のような事業用であれば3〜6か月というものが多いです。もちろん個別的な事情でこれよりも長いものもあります。
そして,解約予告期間とともに,違約金がセットで定められているのが通常です。定めた解約予告期間よりも早く退去しても,その期間の賃料の金額は違約金として支払うことになる,というものです。
要するに,賃貸人(オーナー)が次の賃借人を探す時間的余裕のことであり,また,賃料収入が途絶えることの補償という趣旨です。逆にいえば,解約予告期間としては,次の賃借人を獲得するのに要する期間を目安として設定する,ということになります。

一般的な解約条項(解約権留保特約)の例

あ 解約予告期間

賃借人は,1か月前に通知することにより,契約期間中に解約することができる
(解約申入の1か月後に賃貸借契約が終了する)

い 解約違約金(損害金)

解約予告期間に満たない場合は,不足する期間に相当する賃料相当額を支払う

4 解約違約金を賃料1年分だけ有効とした裁判例

前述のように,解約違約金は解約予告期間分の賃料(や共益費)となっていることが多いです。そこで,解約違約金が賃料1〜6か月分となっていること多いですが,人気が高い物件ではもっと多額に設定されていることも普通にあります。
ただし,違約金が高すぎる場合は無効となることもあります。どの程度までが違約金として有効となるか,ということは,個別的な事情によって変わりますので一概にはいえません。この点,契約書の条項どおりだと違約金は3年2か月分の賃料相当額であったケースで,賃料1年分だけを有効とした裁判例があります。この事例では,賃借人の都合(希望)により,賃貸人が譲歩して保証金を分割払にしたというイレギュラーな個別的事情もあり,これも含めて考慮されています。

解約違約金を賃料1年分だけ有効とした裁判例

あ 建物賃貸借契約の要点

期間=4年
使用目的=英語教室
違約金条項
「賃借人が期間満了前に解約する場合は,解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う。」

い 解約と違約金の請求

契約締結後10か月経過時点で,賃借人が解約申し入れを行った
賃貸人が残存期間3年2か月分の賃料相当額を違約金として請求した

い 裁判所の判断

ア 判断要素 被告会社が本件建物の六階部分を使用したのは約一〇か月であり,違約金として請求されている賃料及び共益費相当額の期間は約三年二か月である。
被告会社が本件建物の六階部分を解約したのは,賃料の支払を継続することが困難であったからであり,第一契約においては,本来一括払いであるべき保証金が三年九か月の期間にわたる分割支払いとなっており,被告会社の経済状態に配慮した異例の内容になっているといえる。
原告は,契約が期間内に解約又は解除された場合,次の賃借人を確保するには相当の期間を要すると主張しているが,被告会社が明け渡した本件建物について,次の賃借人を確保するまでに要した期間は,実際には数か月程度であり,一年以上の期間を要したことはない
イ 判断結果 以上の事実によると,解約に至った原因が被告会社側にあること,被告会社に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても,約三年二か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は,賃借人である被告会社に著しく不利であり,賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから,その効力を全面的に認めることはできず,平成六年三月五日から一年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり,その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。
※東京地判平成8年8月22日

5 解約違約金の有効性判断要素

前記の裁判例は,あくまでも1つの実例です。実際には,解約違約金の有効性の判断では,いろいろな事情が考慮されます。
たとえば,解約の理由,違約金の金額を定めた経緯,賃借人が理解していた程度,居住用か事業用か,というような事情が有効性判断に影響します。

解約違約金の有効性判断要素

あ 解約の理由

賃借人側の都合,という場合は,(高めの)違約金が有効となる傾向

い 違約金を定めた経緯・理由

たとえば,本来授受されるべき礼金をディスカウントする代わりとして,高めの違約金を設定した場合
→高めの違約金と引き換えに賃借人が利益をもらっている
→高めの違約金は合理性がある
→有効となる傾向

う 賃借人の理解の程度

ア 賃借人の理解不足 賃借人が,契約締結時に,あまり説明をよく聞いていなかった場合
→無効となる傾向
イ 賃借人の十分な理解 賃借人が十分な説明を聞いた上,詳しくリスクを書いた書面にサインした場合
→有効となる傾向

え 賃貸借契約の目的・用途

ア 居住用アパート・マンション →賃借人を保護する必要性が強い
→高めの違約金は無効となる傾向
イ 事業用の店舗・事務所 →賃借人を保護する必要性は弱い
→高めの違約金は有効となる傾向

6 定期借家の全期間賃料分の損害金(有効裁判例)(概要)

以上の説明の前提は普通借家(一般的な建物賃貸借)を前提としていました。この点,定期借家契約の場合は,解約違約金の有効性判断の傾向が大きく違います。
定期借家では,定めた期間内は契約が継続することが想定されているのです。そこで,契約期間全体の賃料相当額の損害金も違約金として認められる傾向があります。

定期借家の全期間賃料分の損害金(有効裁判例)(概要)

あ 違約金の規定

定期借家について
違約金=残存する契約期間全体の賃料相当額

い 裁判所の判断

違約金は有効である
※東京地裁平成25年6月25日
詳しくはこちら|中途解除によるフリーレント撤回と全期間賃料分の損害金(裁判例)

7 解約(契約終了)なしで退去した場合の賃料の問題

以上は,解約できる条項(解約権留保特約)がある場合を前提として説明しました。ここで逆に,解約できる条項がない場合にどうなるか,というケースについて説明します。理論的には原則形態といえるケースです。なお,定期借家契約では,解約留保特約がないものも実際によくあります。
さて,「解約できる」条項がない場合に,賃借人が退去した(引き払った)らどうなるでしょうか。建物を使っていても使っていなくても,賃貸借契約は継続している(生きている)ので,期間満了まで,賃料が発生し続けます。
ただし,賃貸人が別の人にその建物を賃貸した場合には,2重の賃料獲得ということにはなりません。履行不能として最初の賃貸借契約は終了するので,賃料発生も止まることになるのです。

解約(契約終了)なしで退去した場合の賃料の問題

あ 原則

賃借人が退去したとしても,賃貸借契約が終了していないならば,賃料の発生が止まることはない

い 例外

期間の満了前に賃借人が建物から退去したため賃貸人が第三者にその建物を賃貸して引き渡した場合には,判例・通説によると,従前の賃貸借は履行不能となって当然に終了すると解されるのであり,賃貸人は,第三者たる新賃借人に対する賃料とは別に,従前の賃借人に対して二重に賃料を請求することはできないものと解される。
※山口英幸稿『改正借地借家法の概要』/『ジュリスト1178号』2000年6月p11
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p325

8 期間中の合意解除の際に任意に定める違約金の目安

解約できる条項(解約権留保特約)がないケースで,実際に賃借人が退去することになった場合は,違約金(解約予告金)を決めるために交渉するのが通常です。合意解除の前提条件となる解約予告金を決めるということです。
解約違約金の実質面(経済面)は,次の賃借人の獲得までの賃料収入の確保なので,賃借人を獲得できると想定される期間の賃料額を支払うということで合意(解決)することが多いです。居住用であれば1〜3か月分,事業用であれば半年〜1年分程度の賃料額というのが目安といえるでしょう。

期間中の合意解除の際に任意に定める解約予告金の目安

あ 一般的な住居

1~3か月分の賃料相当額

い 事業用の店舗・事務所

半年~1年分の賃料相当額

本記事では,期間が決まっている建物賃貸借契約(借家)で,期間の途中で解約することや,その場合の違約金の有効性について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,建物賃貸借の解約や違約金に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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