【建物賃貸借の更新料の意味と法的性質(複合的性質)】
1 建物賃貸借の更新料の意味と普及エリア
2 建物賃貸借における更新料の性質(見解の対立)
3 個別的な建物賃貸借における更新料の性質の判断
4 建物賃貸借における更新料の支払義務(概要)
1 建物賃貸借の更新料の意味と普及エリア
建物賃貸借契約を更新する際,更新料が支払われるケースもよくあります。つまり,賃貸借契約書の中に更新料を支払うという条項(特約)があるということです。
エリアとしては,東京や京都で更新料条項が普及しています。
<建物賃貸借の更新料の意味と普及エリア>
あ 更新料の意味
期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人が賃貸人に支払う金銭
※新田孝二『賃貸借契約における更新料の支払義務(1)』/『判例時報825号』p137
※『最高裁判所判例解説民事篇 平成23年度(下)』法曹会2014年p550
い 更新料の慣行のある主要エリア
関東・京都府・滋賀県
※『自由と正義2012年7月』日本弁護士連合会p58〜
京都では更新料条項を使用が減少する傾向もある
※内藤卓稿『最高裁更新料事件判決と実務への影響』/『月刊 登記情報599号』きんざい2011年10月p56
2 建物賃貸借における更新料の性質(見解の対立)
更新料の法的性質(性格)や位置付けについてはいろいろな見解があります。これ自体がトラブルになるわけではありません。しかし,更新料の有効性などの判断に影響します。
<建物賃貸借における更新料の性質(見解の対立)>
あ 賃料の補充or前払い
※東京地裁昭和50年9月22日
※東京地裁昭和58年7月19日(借地)
※東京地裁平成4年1月23日;賃料の補充+異議権放棄の対価
い 更新承諾の対価
ア 異議権留保イ 更新承諾の対価ウ 紛争回避+期間確保など
更新拒絶に伴う紛争を免れ,賃貸借期間を確保し,解約申入の危険を回避するという利益に対する対価
※東京高裁昭和51年3月24日(借地)異議権放棄の対価
※東京地裁平成4年1月23日;賃料の補充+異議権放棄の対価
う 単なる贈与
え まとめ
以前は,下級審裁判例において見解が分かれていた
平成23年の最高裁判例で複合的性質が認められた
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料条項を有効とした平成23年最高裁判例
3 個別的な建物賃貸借における更新料の性質の判断
前記のように,更新料の法的性質はいろいろなものが混ざっています。更新料の有効性を判断する時に,法的性質を判断することになります。
理論的には,個別的な事情を元にして判断することになりますが,ある程度一律に(一般化して)判断する傾向もあります。
<個別的な建物賃貸借における更新料の性質の判断>
あ 総合判断
更新料の性質は,基本的には個々の具体的事実関係に即して,賃貸借契約前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,当事者の合理的意思を解釈して判断する
※最高裁昭和59年4月20日
※最高裁平成23年7月15日;同趣旨
い 実務的な判断の一般化
事案の一律の解決という観点からすれば,『あ』の意思解釈は,個々の具体的事情をある程度捨象した合理的意思解釈であることを要する
※『最高裁判所判例解説民事篇 平成23年度(下)』法曹会2014年p550
う 合理性の判断の傾向
更新料は,賃料とともに賃貸人の事業の収益の一部を構成する
経済的合理性をまったく有しないということは困難である
※『最高裁判所判例解説民事篇 平成23年度(下)』法曹会2014年p552
4 建物賃貸借における更新料の支払義務(概要)
実際には,賃貸借契約を更新する時に更新料を支払う義務があるかないかで対立が生じるケースが多いです。
理論的な有効性の見解にはいろいろなものが以前はありましたが,平成23年の最高裁判例で見解は統一されています。
現在では,更新料条項が明確であれば原則的に有効となります。一方,個別的に不合理な事情(特段の事情)があれば無効となることもあります。
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料特約の有効性判断基準と不払いによる解除の効力
本記事では,建物賃貸借の更新料の意味や法的性質について説明しました。
実際の更新料の問題(支払義務の判断)は,個別的な事情によって判断が大きく変わってきます。
実際に更新料の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。