【一時使用目的の借地の認定基準と判断要素】

1 一時使用目的の借地の認定基準と判断要素

建物所有目的の土地の賃貸借は、借地と呼ばれ、最低期間が30年とされ、さらに更新されることが前提とされる(法定更新)など、強く保護されます。その例外の1つとして一時使用目的の借地があります(借地借家法25条、旧借地法9条)。
詳しくはこちら|一時使用目的の借地の基本(30年未満可能・法定更新なし)
実際には、一時使用目的といえるかどうかという判断で熾烈な対立が生じることが多いです。
本記事では、借地契約における一時使用目的といえるかどうかの認定基準と判断材料(判断要素)について説明します。

2 借地法9条・借地借家法25条の条文

最初に、一時使用目的の借地を規定する条文を確認しておきます。条文上は、一時使用のためであることが明らかな場合、と書いてあり、例として臨時設備の設置が挙げられています。旧借地法も実質的に同じ内容です。

借地法9条・借地借家法25条の条文

あ 旧借地法

(一時使用のため借地権を設定した場合の例外)
第九条
第二条乃至前条ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス
※借地法9条

い 借地借家法

(一時使用目的の借地権)
第二十五条 第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。
※借地借家法25条

3 一般的判断基準

(1)建物所有目的(前提)

ところで、賃貸借の主要な目的が建物所有ではない場合には、そもそも借地借家法は一切適用されません。
詳しくはこちら|借地借家法が適用される建物所有目的は主従(比重)で判断する
他方、本記事で説明する一時使用目的の借地は、建物所有目的の土地の賃貸借であるけれど、一時使用目的なので、借地借家法の主要なルールが適用されない、というものです。つまり、以下の説明は建物所有が主要な目的である賃貸借を前提としています。

(2)契約書の文言→これだけでは判断できない

よくある誤解として、借地契約書で、「一時使用目的」、「借地借家法25条」、「期間3年」(最低期間である30年未満の期間)などを明記しておけば一時使用目的の借地として認められるという単純な発想があります。しかし、書面上の記載だけで一時使用目的として認められるわけではありません。
逆にいえば、最低期間や法定更新のルールはそう簡単に例外を認めない、という基本方針があるのです。

契約書の文言→これだけでは判断できない

一時使用目的の借地権を設定したことが明らかでなければならないが、契約書に「一時使用」の文言が使用されていても、一時使用目的と認められるとは限らない(東京高判昭40.2.23東高民時報16-2-31、東京地判昭58.2.16判夕498-121)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p202

(3)「一時使用目的」の一般的判断基準→客観的合理的理由

一時使用目的といえるかどうかの判断基準を一般化すると、根本部分は短期間に限定するということを裏付ける客観的・合理的な理由が必要、ということになります。地主と借地人が3年だけの貸し借りとすることに納得しているだけでは一時使用目的が否定されてしまうのです。

「一時使用目的」の一般的判断基準→客観的合理的理由

あ 昭和43年最判

・・・その目的とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等、諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が存する場合にかぎり、右賃貸借が借地法九条にいう一時使用の賃貸借に該当するものと解すべく、かかる賃貸借については、同法一一条の適用はないと解するのが相当である。
※最判昭和43年3月28日

い 昭和45年最判

土地の賃貸借が借地法九条にいう一時使用の賃貸借に該当し、同法一一条の適用が排除されるものというためには、その対象とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存することを要するものである。
※最判昭和45年7月21日

う 昭和61年東京高判

・・・賃貸借契約が一時使用を目的として締結されたものであるかどうかは、契約書の字句、内容だけで決められるものではなく、契約書の作成を含めての契約締結に至る経緯、地上建物の使用目的、その規模構造、契約内容の変更の有無等の諸事情を考慮して判断すべきものである・・・
※東京高判昭和61年10月30日

4 旧借地法と借地借家法の解釈の違い→否定方向

(1)定期借地で代替できない領域→10年未満の事業用・居住用すべて

一時使用目的といえるかどうかの判定の話しに入る前に、旧借地法と借地借家法(新法)の違いを説明します。この2つの違いが、一時使用目的かどうかの判定に影響するという発想(後述)もあるからです。
借地借家法で新たに誕生した制度として、定期借地があります。普通借地の主要な特徴である法定更新のルールが適用されない、という例外扱いを認めるものです。
詳しくはこちら|定期借地の基本(3つの種類と普通借地との違い)
そこで、法定更新の適用を避けたいケースでは、定期借地を使える、つまり、一時使用目的借地は使わずに済む、ということがいえます。ただし、定期借地のルールの中身をみると使える状況は限られています。
たとえば居住用であればどんなに短くても期間は30年です。それ未満の借地を実現するには一時使用目的借地を使う方法しか残っていません。
事業用であれば10年まで短くすることができます。逆に10年以内の借地は一時使用目的借地でしか実現しないのです。

定期借地で代替できない領域→10年未満の事業用・居住用すべて

あ 新法の一時使用借地の適用事例の縮小発想

22条の定期借地権は存続期間が50年以上であり、24条の建物譲渡特約付借地権は30年以上であるので、そもそも期間の点で本条とは接点をもちえない。しかし、23条の事業用定期借地権は目的が「専ら事業の用に供する建物」の所有であり、存続期間は10年以上50年未満であるため、本条が適用されるケースでも選択的に利用できることになる。
したがって、本法の下では本条の適用事例が縮小することが予想されるという見方もできるが(月岡=田山基本コンメ90)、

い 10年未満が可能なのは一時使用目的借地のみ

近時は「現代的経済事情のもと、短期間に限った土地の有効利用とそれによる投下資本の回収をめざすといった要請は強く、一時使用目的の借家権(注・原文のまま)は、かつてのそれとは異なった重要性を帯びてきている」(中村・新裁判実務大系128)といわれる。
10年未満の短期の借地に対する需要に応えることができ、事業用ではなく住宅や居住併用建物の所有を目的とする場合には一時使用目的の借地権を利用せざるをえないからである(秋山・新基本コンメ150)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p201

参考として、建物賃貸借については借地借家法で誕生した定期借家は最低期間の制限がないので、定期借家を使えば一時使用目的の借家を使わずに済むことになっています。
詳しくはこちら|一時使用目的の建物賃貸借は借地借家法の適用がない

(2)定期借地による一時使用目的借地のリプレイス→否定方向

一時使用目的の借地といえる事情については、後述しますが、大きく借主側の事情(使用目的)貸主側の事情に分けられます。仮に、定期借地を使えば一時使用目的借地は使わずに済むという前提があるとすれば、貸主(地主)が定期借地を選べたのに選ばなかった場合には短期間に限定する必要はない、つまり一時使用目的借地とは認めないという発想もあります。
しかし前述のように、この前提は成り立っていません。たとえば10年未満の期間の借地を定期借地で実現することはできないのです。
結局、一時使用目的の判定については、定期借地制度の誕生前、つまり旧借地法時代の解釈(判例、学説)がそのまま現在でもあてはまる、ということになります。

定期借地による一時使用目的借地のリプレイス→否定方向

あ 旧借地法時代における一時使用目的の分類(前提)

借地法のもとでは、
①土地の使用目的自体が一時的・臨時的な場合・・・のほか、
賃貸人側の事情によって土地の利用を短期間に限定する場合・・・についても、一時使用の借地権の制度が広く適用されていた。

い 新法では家に関して「賃貸人側の事情」を否定する発想(前提)

同様の状況にあった借家については、本法(注・借地借家法)が賃貸人の事情に基づく期間限定を可能にする期限付建物賃貸借の制度(→38・39)を設けたことから、一時使用目的の建物賃貸借の適用を建物の使用目的自体が一時的・臨時的という本来的な場合(上記の①)に限定すべきではないかが問題とされている(→§40〔広中・佐藤〕I1)。

う 借地に関する新法の影響→否定方向

借地の場合には、広義の定期借地権制度が借地権設定者の事情に基づく期間限定を可能にすることになるが、そこではそれほど短いとはいえない期間保障が存在するから(最も短期の事業用借地権においても最短10年の期間が必要である。→24)、②の場合についての一時使用目的の借地権の必要性は、依然として存在すると考えられる。
※吉田克己稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p926

5 判断要素・予定する建物の種類や構造

(1)新版注釈民法

ようやく本題、つまりどんな事情があれば一時使用目的と認められるかというテーマに入ります。いろいろな事情が判定に使われますので、整理して順に説明します。
最初に、建てる予定の建物の種類・構造は主要な判断材料です。当該土地に建てる建が、長期間使い続けることを前提とするようなものなのか、短期間で解体するようなものなのか、という着眼点です。
建物そのものの寿命が短い、仮設的な建築物(バラック)が典型です。また、建物の用途がたとえば、一定期間で終了するイベントで使うためのものであれば、これも短期間限定という認識を裏付けます。

新版注釈民法

あ 基本

借地上に所有さるべき建物の種類・構造は、一時借地権かどうかを認定する一つの有力な指標である。
これによって、当事者の予定する借地関係の性質がかなりよく示される。

い 建物の用途の具体例

(a)「臨時設備」(本条)の所有を目的とすることは、一時借地権と認定するための有力な事情である。
博覧会場、祭典式場、一時的な興行場、ダムその他の建設工事場などの必要・便宜のために建てられる設備などがこれに当たる。
これらは、原則として、その奉仕する目的が特定的かつ一時的のものであり、その目的の存在が終了すればそれ自体(建物など)の存在する理由もなくなる性質のものである。
臨時設備かどうかも結局は予定される借地関係の全体をみて決められることである。
博覧会場の建物でも永続的使用を予定して建てられる場合はありうる。

う 典型例→バラック

(b)借地が仮設的建築物(バラック)の所有を目的としてなされることは、予定される借地関係が一時的のものであることを示すものとしてしばしば言及される一つの指標である。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p506、507

え 正式建物建築許容→否定方向

(c)上記(a)(b)の場合とは反対に、地主(または転貸人)が、借地人(または転借人)に対して本建築の建物の所有を明示的または黙示的に許容しているというのは、一時借地権の認定を妨げる有力な事情である。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p512

(2)コンメンタール借地借家法

五島京子氏も前述を同じような内容を説明しています。

コンメンタール借地借家法

あ 設置する建物の具体例

本条で一時使用目的として例示されている「臨時設備」設置のための借地としては、博覧会場、祭典式場、一時的な興行場、建設飯場などが挙げられる。

い 典型例→バラック

判例は仮設建築物(バラック)の所有を目的とする場合にしばしば一時使用のための借地と認めてきた(最判昭32.7.30民集11-7-1386、最判昭36.7.6民集15-7-1777、最判昭37.2.6民集16-2-233など)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p202

(3)正式な建物の建築を黙認しても一時使用目的を認めた実例(概要)

借地契約が始まった後に、借地人が標準的な建物を建築し、地主がこれを認めたとすれば、長期間継続する認識であったと読み取れます。実際にこのような事情があったケースでも、区画整理区域内にあった、つまり近い将来解体することを余儀なくされる状況であったという事情が決め手となり、一時使用目的を肯定した判例があります(最判昭和32年2月7日)。
詳しくはこちら|借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)

6 判断要素・占有権原なし+明渡猶予

(1)占有権原なし+明渡猶予→短期限定が明らか

たとえば、土地の占有権原のない者が土地を占有している場合、土地所有者は明渡請求をすることできますが、占有者(居住者)が転居先を確保するまでの間、明渡を猶予する(待ってあげる)ことがあります。明渡請求の紛争において和解が成立する時に、この方法をとることがよくあります。
このようなケースでは、経緯から、当事者は短期間限定で土地を貸したことが読み取れます。つまり一時使用目的が認められる方向に働きます。

占有権原なし+明渡猶予→短期限定が明らか

あ 新版借地借家法

なされるべき建物の取払または移転を一時的に猶予している間成りたつ借地関係は、一時使用のためのものとされる。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p513

い コンメンタール借地借家法の

⑤土地利用者が利用権原を有しておらず、土地の明渡しをめぐる紛争の結果、一定期間を限って明渡しが猶予された場合にも一時借地と認められることがある(前掲最判昭36.7.6、前揭最判昭43.3.28)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p203

(2)土地のリースバックの例

明渡猶予のパターンは、前述のような明渡請求の紛争に限りません。土地の売買で、売主が古い建物の解体することを数か月遅らせる、というケースもあります。この場合も建物所有目的の土地の賃貸借にあたりますが、短期間限定ということが読み取れるので、一時使用目的と認められます。

土地のリースバックの例

土地・建物の所有者Aが、土地だけをBに売却した
建物はAが解体して更地としてBに引き渡すことにした
Aが転居先を確保するまでの間、Aは建物に居住することを続けたい
そこでBは、Aが土地を(所有者であるBに)明け渡すことを猶予した
明け渡すまではAがBに、毎月賃料◯円を支払う

7 判断要素・区画整理予定

区画整理は、公的なプロジェクトとして行われ、対象エリア内の土地は、長期間の利用が不可能であることがハッキリしています。そこで、このような土地の賃貸借がなされたケースでは、当事者の短期間に限定する認識が読み取れます。
もちろん、区画整理の具体的な内容によっては、特定の土地(換地)の位置・形状が大幅には変わらないこともあります。そのような土地の賃貸借では、当事者の短期間に限定する認識が読み取れないとういこともあります。

判断要素・区画整理予定

借地される土地が将来確定的になされる区画整理計画地域に含まれている場合に、計画実施までを存続期間とすることは、一時借地権の認定を支持する有力な事情である。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p514

8 判断要素・合意(契約)への裁判所の関与(裁判上の和解・調停)

(1)裁判上の和解・調停→一時使用目的肯定方向

土地の明渡請求の訴訟において、被告が、一定期間の猶予をもらうことを前提に、退去することを認める和解が成立することがよくあります。このようなケースでは、その合意内容を裁判上の和解とすることになります。民事調停の手続で、このような合意をする(調停を成立させる)こともあります。
この場合、一時使用目的の借地として認められる傾向があります。

裁判上の和解・調停→一時使用目的肯定方向

裁判上の和解または調停によって短い借地期間が定められる場合は、一時借地権を認定することが多い
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p515

(2)裁判所の関与が一時使用目的肯定方向に働く理由

裁判所の和解や調停だと、一時使用目的の借地として認められやすくなる理由はなんでしょうか。いろいろな議論がありますが要するに、当事者が短期間に限定するという認識をもっていることを中立の第三者(裁判官や調停委員)が確認している、というプロセスがポイントになっています。

裁判所の関与が一時使用目的肯定方向に働く理由

あ 新版注釈民法

裁判上の和解または調停によって短い借地期間が定められる場合に一時借地権が認定される根拠について議論がある。
「裁判上の和解や調停の効力として借地法の適用を排除すると解するのが適当で」あるとする学説(我妻496)があるが、「和解、調停条項の訴訟法上の効力」としてそうなるという趣旨ではあるまい(関口・前掲論文328・333。この点で、前掲判例(28)の論旨に疑問をもつ。その後の判例にかかる論旨に立つものはみられない)。
和解または調停条項に特殊な効果が認められるとすれば、その根拠は、それらの条項が「裁判所の介入により、私人間に……形成」される「規範」である点、いいかえれば、「その成立にいたる過程においては、裁判所(または調停委員会)が、当事者双方に存する事情を考慮しつつこれに関与するものであり」、「その内容の決定につき、実質的正義の立場からなされる合理的裁量が加わっているとみることができる」点にある、というべきであろう(高島193-194)。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p517

い 昭和43年最判

ア 肯定方向に働く理由 けだし、裁判上の和解による賃貸借の場合には、それが裁判所の面前で成立するところから、単なる私法上の契約の場合に比し、双方の利害が尊重され当事者の真意にそう合意の成立をみる場合が多いであろうが、
イ 限界(悪用への配慮) この場合同条の適用がないと解するならば、契約当事者、特に一般に経済上優位にある賃貸人が、形式上、裁判上の和解の手続をふむことによつて、前記のような客観的条件の存否にかかわりなく借地法の規定する制約から解放されることになり、借地人の保護を主たる目的とする同法の趣旨にそわない結果を招来するにいたるからである。
※最判昭和43年3月28日

(3)裁判上の和解でも一時使用目的を否定された実例(概要)

ただし、裁判上の和解であれば、必ず一時使用目的が認められるとは限りません。実際に、裁判上の和解ではあっても、期間が20年と異様に長いことが決め手となり、一時使用目的が否定された、という判例もあります(最判昭和45年7月21日)。
詳しくはこちら|借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)

9 判断要素・地主による使用予定

地主自身が当該土地を使うことを予定している、という事情があれば、短期に限定する認識が読み取れることにつながります。ただし、借地人がこの事情を知らなければ共通認識(合意)とはいえません。
このような地主側の事情については、それを借地人も知っていることが必要です。実務的には証明(証拠)レベルまで高めておくことが望ましいです。具体的には、契約書の中に、そのような背景事情を記載しておく、ということです。

判断要素・地主による使用予定

地主が近い将来自分で使用するはっきりした計画をもっており、借地人もこのことを十分了解して短い期間を定めて借りたという事情は、一時借地権の認定を支持する一つの事情とされる。
このような地主の自己使用計画は現実の借地関係の中になんらかの客観的表現を伴う場合に一時借地権認定の一要因として考慮される。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p517

10 判断要素・合意された期間→目安は10年以下

(1)新版注釈民法

一時使用目的とは、文字どおり一時的つまり短期間に限定するという意味です。たとえば、契約書に賃貸期間として1年と記載してあれば、短期間に限定する認識であったことが読み取れます。このように、当然ですが、合意された期間が短い、ということは重要です。たとえば、合意された期間が20年と長かったケースではこれが決め手となり一時使用目的が否定されました(後述)。
もちろん期間(年数)は判断材料の1つなので、これだけで判定できませんが、目安として10年を超えると一時使用目的が否定される傾向が強い、ということはいえます。

新版注釈民法

あ 短い期間の合意→必須ではない

(a)短い存続期間確定的に何年と明示的に定められていることは一時借地権を認定するために必ずしも必要でない
借地契約をめぐる諸事情から、一時使用のためなることが客観的に明らかであれば足りる・・・。

い 借地人の認識→重要

重要なのは、一時使用のためにすることが、当事者(とくに借地人)にはっきりと了解されていることである。
借地人が地主の意思を諒承せず、借地上に永続的生活関係を築くつもりである時は、一時借地権は成立しない・・・。

う 期間の上限の目安→10年

当事者(とくに借地人)が借地法の期間保護を予定しないでそれにふさわしい土地利用をおこなう場合が一時借地だということを論理的に徹底すれば、どんな長さのものでも一時借地と認定して差し支えない、ともいえる。
しかし、普通の借地権とほとんど変らないような長い期間の借地権を、当初の事情だけから一時借地として普通の借地と区別することには疑問がある。
「10年あたり」を「ほぼ限界」として(星野・前掲判批420)、それ以上のものは普通の借地権の期間だけ存続するものとして・・・、もし特殊な事情があれば、期間満了時の更新を拒絶する正当事由の問題として処理すべきであろう。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p518、519

(2)コンメンタール借地借家法

五島京子氏も、10年という目安を紹介しています。
この点、合意された期間は短いけれど、更新を繰り返した結果、トータルで長い年数になった場合はどうでしょうか。あくまでも契約(合意)した時点の当事者の認識で判定するので、結果的なトータル年数は重要ではありません。
実例として、1年や2年と短いけれど、更新を繰り返した結果的にトータルで20年に達したようなケースについて、一時使用目的を肯定した裁判例が複数あります。

コンメンタール借地借家法

あ 期間の上限の目安→10年

「一時使用」という文理上の制約から、10年程度が限界と考えられる(星野・借地借家28、望月=篠塚・新版注民(15)519)。

い 更新の結果20年に達した一時使用目的肯定ケース

ただし、
2年ごとに更新が繰り返されて25年間継続した場合(東京地判平3.3.27判時1392-104)や
同じく2年ごとの更新が20年継続した場合(東京地判平5.9.24判時1496-105)、
1年ごとの更新が20年以上継続した場合(東京地判平6.7.6判時1534-65)
でも、一時使用目的の借地権と認めた下級審判決がある。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p200

(3)民事月報47巻7号

借地借家法の施行の際、不動産登記の通達が出されましたが、その説明の中で、一時使用目的の最長期間を10年とする見解がありました。事業用借地権の最低限が10年であることを理由としています。

民事月報47巻7号

(注・登記手続の説明において)
(注)新法では、新たに存続期間を一〇年以上二〇年以下とする事業用借地権の制度が導入されたので、このことから、反射的に、一時使用目的の借地権にあっては、原則として一〇年を超える期間を定めることはできないとするのが合理的な解釈といえよう。
※小野瀬厚ほか稿『借地借家法の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(基本通達)の解説』/『民事月報47巻7号』法曹会1992年9月p36

一時使用目的の借地の登記手続については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|一時使用目的の借地の基本(30年未満可能・法定更新なし)

(4)期間20年が決め手となり一時使用目的が否定された実例(概要)

裁判上の和解については、裁判官がチェックしているので、一時使用目的が認められる傾向があります(前述)。しかし、和解の内容が、20年間の借地であったことが重視され、一時使用目的が否定された判例もあります(最判昭和45年7月21日)。
詳しくはこちら|借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)

11 判断要素・賃料増減額(否定方向)

一般的に借地の契約期間中に、賃料の増減額(変更)を合意することはよくあります。この点、一時使用目的の借地は短期間限定のものなので、賃料を変更することは整合しません。賃料を変更するということは長期間継続する認識が前提であると読み取れるからです。ただし、判断に影響する比重は大きくありません。補助的な判断材料といえます。実際に賃料の増減額あっても、他の事情から一時使用目的が肯定された実例もあります。

判断要素・賃料増減額(否定方向)

あ 新版注釈民法

(c)借地期間中に賃料の増減額をすることは、当事者が将来に向かって適正な賃料額を定めることであるから、それ自体借地関係をさらに続ける意思を示すものといえる(所詮ながく続かない関係ならば、経済の変動によって賃料額が適正でなくなっても当事者はがまんするであろう。・・・)。
しかし、これも一時借地を否認する上で決定的ではない。経済変動のはげしさやとくに期間の長さと関係することであって、上記(b)でのべたように、一時借地でも期間が5年、10年にわたる時は、賃料の増減はむしろ常識的であるといえる(星野・前掲判批420)。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p519

い コンメンタール借地借家法

・・・長期間賃料が据え置かれていたり(前掲最判昭32.7.30)する場合も、他の事情とあわせて一時使用目的を判断する補助的事実となる(中村・新裁判実務大系130)・・・
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p203

12 判断要素・権利金授受(否定方向)

一般的に、借地の開始時に権利金(や敷金)といったまとまった金額が支払われることはよくあります。
詳しくはこちら|借地の権利金の性格は複数あり返還義務は原則的にない
素朴に考えると、長期間継続する認識が前提になっていることが多いです。ただ、これも重要性はそこまで大きくないです。
<判断要素・権利金授受(否定方向)>

あ 新版注釈民法

借地権の設定に際してなされる権利金の授受も一時借地でないことを支持する一つの事情である。
とくにその額が大きいときは当事者間に比較的長い期間の借地関係を設定することが予定されていたことが、認められやすいであろう・・・。しかし、権利金の授受があっても一時借地と認められる場合はある・・・。
要するに、借地関係をめぐるその他の事情のほか、当時の借地相場、権利金の性格(譲渡性を認める対価として授受されたものか賃料の補充物として授受されたものか)などによって判断されることである(星野・前掲判批419参照)。
※望月礼二郎・篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p519

い コンメンタール借地借家法

敷金や権利金授受がなかったり(東京地判平1.5.25判時1349-87)、・・・する場合も、他の事情とあわせて一時使用目的を判断する補助的事実となる(中村・新裁判実務大系130)が、権利金、敷金の授受のなかったことは、賃貸借の一時使用性を裏づけるものではない(東京高判昭56.10.26判時1028-51)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p203

13 関連テーマ

(1)一時使用目的を判断した実例(判例)

借地契約が一時使用目的といえるかどうかは、以上で説明したように、多くの事情を総合して判断されます。実際にどのような事情が組み合わさってどのような判断がされたか、ということはとても参考になります。判断の実例(判例)は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)

(2)一時使用目的の建物賃貸借(借家)

本記事で説明したのは一時使用目的の借地ですが、建物賃貸借(借家)についても一時使用目的の場合の特別扱いがあります。
詳しくはこちら|一時使用目的の建物賃貸借は借地借家法の適用がない

本記事では、一時使用目的の借地の認定基準や判断要素について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地契約終了、土地の明渡請求など、借地に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

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  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
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【建物所有目的の土地賃貸借は『借地』として借地借家法が適用される】
【借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する】

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