【不倫の慰謝料請求における実務的攻防(関係回復誘引・権利濫用・訴訟告知・冤罪リスク)】

1 不倫相手に対する慰謝料請求の実務での攻防
2 不倫相手への慰謝料請求→夫婦関係修復誘引作戦
3 不倫の慰謝料請求における典型的な反論
4 不倫の慰謝料請求が権利濫用となることもある
5 不倫の慰謝料請求における配偶者どっちつかず現象
6 配偶者どっちつかず現象には制限説主張・訴訟告知で対応する
7 仮想不倫の既成事実化現象(冤罪発生サスペンス)
8 仮想不貞行為の既成事実化現象|『冤罪』を晴らす方法
9 仮想不貞行為の既成事実化現象|冤罪回避策=補助参加

1 不倫相手に対する慰謝料請求の実務での攻防

既婚の男性Aが妻以外の女性Bと交際(性的関係)を行うことは,いわゆる不倫(不貞行為)です。
違法な行為ですから,通常,妻CからAやBへの慰謝料請求が認められます。
詳しくはこちら|不貞相手の不貞慰謝料の相場(200〜300万円)
実際に不倫が発覚し,慰謝料が請求されるケースはとても多いです。
このような場合,具体的な請求のタイミング・方法によって結論に違いが生じます。
さらに防衛サイドも同様に,交渉や訴訟の対応1つによって大きな違いにつながります。
本記事では,このような不倫の慰謝料請求に関する実務的なアクションについて説明します。

2 不倫相手への慰謝料請求→夫婦関係修復誘引作戦

不倫相手への慰謝料請求を夫婦関係修復のきっかけとして活用することもあります。

<不貞相手への慰謝料請求→夫婦関係修復誘引作戦>

あ 手法

妻Cが不倫相手Bにのみ慰謝料請求を行う
夫Aに対しては慰謝料を請求しない

い 間接的効果

夫Aが交際(不倫)継続を断念することがある
夫Aが妻Cのもとに戻ってくることがある
夫婦関係が修復することがある

もちろん夫Aが戻るかどうかは個性・事情によってまったく異なります。
いずれにしても,1つの狙い,としてこのような戦略をとることもあります。

3 不倫の慰謝料請求における典型的な反論

実際には,不倫相手と指摘(主張)された者は被害者である場合もあります。
もともと被害者・加害者が紙一重であることが多いのです。
不倫相手の立場の者からの主な反撃・反論はパターン化できますので整理します。
ここでは夫が不倫したという前提で整理しています。この記述と男女が逆になった,妻が不倫したというケースもありえます。

<不倫の慰謝料請求における典型的な反論>

あ 『夫』による『強姦罪』の主張(告訴)

性交渉への同意すらなかった・強引だった,という主張
強姦罪・強制わいせつ罪などの主張である

い 『夫』への慰謝料請求

ア 強引であった 職場が関係しているケースではいわゆる『セクハラ』の主張となる
詳しくはこちら|職場の性的言動(セクハラ)の違法性判断基準と被害者の従属的態度
イ 独身と偽った 『既婚』だとは知らされなかった・『独身』と偽っていた,という主張
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引
ウ 離婚するとウソの説明をした 夫が女性と関係を持つために『妻とは離婚する』と説明した
詳しくはこちら|既婚と知って交際した者からの慰謝料請求は事情によって認められる

う 『不貞相手』としての責任の否定

ア 夫婦関係は破綻していたイ 既婚者であることを知らなかった 詳しくはこちら|不貞相手の慰謝料|理論|責任制限説|破綻後・既婚と知らない→責任なし

え 『不貞相手』としての責任の軽減

個別的・具体的事情により責任が軽減される
詳しくはこちら|不貞慰謝料の金額に影響する事情(算定要素)

お 権利濫用の主張|仕組まれた関係

『夫婦の協力』による慰謝料ビジネスという状態の場合
→権利濫用として請求が認められないこともある(後記)

このように,慰謝料を請求する者,請求される者が入り混じって複雑な状況になります。
実際に,不倫相手の両方が慰謝料を請求する裁判もよくあります。
詳しくはこちら|既婚男性の交際(不倫)相手と妻の両方が慰謝料を請求した裁判例(集約)

4 不倫の慰謝料請求が権利濫用となることもある

不倫の行為自体があっても,権利濫用(信義則違反)として慰謝料請求が認められないケースもあります。
請求の段階も含めて全体が権利濫用に該当する,という特殊な理論です。

<不倫の慰謝料請求の権利濫用>

あ 当事者

ア 被害者 妻=居酒屋の常連客
イ 不倫を行った者 ・夫
・婚外女性=居酒屋経営者

い 事案

当初から夫婦関係が悪化していた
慰謝料請求の具体的な要求行為について夫婦が強く協力していた
要求態度が過激であった

う 裁判所の判断

信義則に反する
→慰謝料請求を認めない
※民法1条2項
※最高裁平成8年6月18日

つまり『嫌がらせのための提訴』とみられたのです。
権利の濫用や信義則の基本的な内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|信義則(信義誠実の原則)と権利の濫用の基本的な内容と適用の区別

5 不倫の慰謝料請求における配偶者どっちつかず現象

不倫の慰謝料請求では,不倫をした既婚者Aの立場はある意味不安定となりやすいです。
つまり,妻Cと不倫相手Bのどちらの味方になる可能性もあるのです。

<不倫の慰謝料請求における配偶者どっちつかず現象>

あ 前提となる理論

『夫婦仲が悪化していない』という事情
→不倫の慰謝料の減少や否定(ゼロ)につながる

い 立証上の課題

A(夫)が不倫相手Bに協力して証言をする
→Bにとって非常に有利になる

う 配偶者どっちつかず現象

Aが『BorCのどちらに協力するか』で行方が変わってくる
AC(夫婦)が離婚しないケースの場合
→次のような事態が生じやすい
ア A・Cが『不仲を装う』イ Aが『B(不倫相手)からの連絡に反応しない』

6 配偶者どっちつかず現象には制限説主張・訴訟告知で対応する

前記の配偶者どっちつかず現象に対しては,不倫相手Bによる制限説の主張が効果を発揮する可能性があります。
また,訴訟告知の手続が有利な結果につながることもあります。

<配偶者どっちつかず現象への対策>

あ 不倫の責任の制限説の主張

一般的な不倫の責任の学説に制限説がある
妻が夫への慰謝料請求をしないケースでは
特に不倫の責任を否定(少なく)する方向に働く
詳しくはこちら|不倫の慰謝料を制限説と過剰婚姻費用によりゼロにした(棄却)裁判例

い 訴訟告知による対抗策

裁判所からCに対して『訴訟係属』を告知+訴訟への参加を促す
訴訟告知を受けた者には『参加する義務』はない

う 訴訟告知後の流れ

Cが『参加しない・ノーリアクション』ということが多い
→その態度自体を『夫婦関係が破綻していない』根拠の1つとなる
※民事訴訟法53条1項

なお,これと似ているけれど別の主張・対抗策もあります。
『むしろ既婚と知らされなかった』『騙された被害者だ』という主張です。
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引

7 仮想不倫の既成事実化現象(冤罪発生サスペンス)

実務上『当事者双方の言い分がまったく異なる』ということはよくあります。
不倫の関係では当事者が3名いつので,主張がより複雑になりやすいです。
裁判所が『真相』の判別をすることが非常に難しいという状況も生じます。
真実は不倫の行為はないという場合でも慰謝料が認められてしまうリスクがあるのです。

<仮想不倫の既成事実化現象(冤罪発生サスペンス)>

あ 前提事情

妻Cが『夫Aと別の女性Bが不倫を行った』と思い込んでいる
Cは,Bだけを被告として慰謝料請求訴訟を提起した
Bは,潔白だが,手間と精神的負担を回避することを優先した
そこでBは,一定額の慰謝料を認める和解を成立させた

い 『冤罪』リスクの現実化

CはAに対して慰謝料請求訴訟を提起した
『Bが認めたということは不貞は真実存在したのだ』と思われる傾向が強い
Aに対する慰謝料・離婚の請求が認められる可能性が高くなる

8 仮想不貞行為の既成事実化現象|『冤罪』を晴らす方法

以上のように『不貞相手が認めた』ことにより『配偶者の冤罪』が生じるリスクがあります。
これを晴らす方法をまとめます。

<仮想不貞行為の既成事実化現象|『冤罪』を晴らす方法>

あ 『冤罪』を晴らす方法

AはBの協力を取り付けて『有利な証言』をしてもらう
証言内容=『Cとの和解は不倫を認めたものではない』

い 『冤罪』が晴れないリスク

証言その他の信用性の評価は裁判官が自由に行うルールがある
Bの証言があってもそれだけで『不倫の認定=冤罪』を回避できるとは限らない
※民事訴訟法247条;自由心証主義

9 仮想不貞行為の既成事実化現象|冤罪回避策=補助参加

『仮想不貞行為の既成事実化』を回避することは難しいです(前述)。
そこで,事前から予防的な対応をしておくべきなのです。

<仮想不貞行為の既成事実化現象|ベストの『冤罪回避』策>

B・C間の訴訟の時点でAが訴訟に『補助参加』する
Aは『自分は請求されていない=被告ではない』が参加できる
Aは『冤罪』を防ぐための主張・立証を行うことができる
※民事訴訟法42条

本記事では,不倫の慰謝料請求に関するいろいろな実務的な手法(作戦)を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,個々のアクションが逆効果となることもあります。
みずほ中央法律事務所は,これらの手法をすべて含めて考えて,最適な手法を選択しています。
実際に不倫の慰謝料の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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