【4種類の借地非訟(裁判所の許可)手続(新旧法全体)】
1 借地非訟(裁判所の許可)手続の種類全体(総論)
借地上の建物の増改築や再築は、地主の承諾がないと、状況によっては解除されることがあります。
詳しくはこちら|借地上の建物の滅失や再築による影響のまとめ(新旧法全体)
また、借地上の建物の譲渡は借地権譲渡となり、地主の承諾が必要です。
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
一方、地主が承諾しない限り借地人が建物の増改築、再築や譲渡をすることができないというのも不合理です。
そこで、地主の承諾の代わりに裁判所が許可する制度があります。
借地非訟手続と呼びます。
借地の開始時期によって借地非訟について適用されるルールが異なります。
本記事では、借地非訟全体について、適用されるルールの振り分けを説明します。
また、それぞれについての承諾料の相場があります。
承諾料の目安も合わせてまとめます。
2 借地非訟手続の種類
借地非訟の種類のうち、建物の工事に関するものとして、借地条件変更・増改築許可・再築許可があります。
さらに、借地権の譲渡許可もあります。
以上の4種類のほかに介入権の行使による手続もあります。
借地非訟手続の種類
あ 建物に関する借地条件の変更
※借地借家法17条1項、5項
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
い 借地上の建物の増改築の許可
一定の再築(建替え)の許可も含まれる
※借地借家法17条2項、5項
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
う 借地上の建物の再築の許可
新法時代の借地の更新後にだけ適用される
平成34年(令和4年)8月までは適用されることはない
※借地借家法18条1項
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)
え 借地権の譲渡・転貸の許可
競売に伴うものも含む(買受人譲渡許可)
※借地借家法20条1項、5項
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
お 介入権(地主の借地権譲受許可)
『え』において地主が借地権を譲り受けること
※借地借家法19条3項、5項、20条2項、5項
詳しくはこちら|借地権優先譲受申出(介入権)の基本(趣旨・典型例・相当の対価)
3 新旧法の適用の振り分け(前提)
まず最初に、旧借地法と借地借家法の適用がまぎらわしいので、借地を2種類に分類します。
借地の最初の開始時期によって、旧法時代と新法時代に分けます。
途中の更新の時期で分けるわけではありません。
新旧法の適用の振り分け(前提)
<→★改正附則
4 借地条件変更の裁判
借地非訟手続の1つに借地条件変更の裁判があります。
旧法時代・新法時代の借地で区別はありません。
借地条件変更の裁判
あ 新旧法の適用の振り分け
旧法時代の借地も含む
※借地借家法17条1項、改正附則4条
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
い 対象となるケース
建物の再築で借地条件の変更を伴うケース
う 対象とならないケース
新法時代の借地について
更新後の再築の場合
→『再築許可』の付随的裁判に『借地条件変更』は含まれる
※借地借家法17条3項
→『借地条件変更』の手続は不要となる
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p127
え 承諾料の相場
更地評価額の10%相当額
詳しくはこちら|借地条件変更の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
5 増改築許可の裁判
借地非訟手続の1つに増改築許可の裁判があります。
旧法時代・新法時代の借地で区別はありません。
増改築許可の裁判
あ 新旧法の適用の振り分け
旧法時代の借地を含む
※借地借家法17条2項、改正附則4条
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
い 対象となるケース
増改築禁止特約がある借地における
建物の増改築のケース
=再築に至らない工事内容
新法時代の借地の更新前・後(第1・2ラウンド)について
→両方が対象である
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p127
う 承諾料の相場
更地評価額の3%相当額
詳しくはこちら|借地上の建物の増改築許可の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
6 再築許可の裁判
借地非訟手続の1つに再築許可の裁判があります。
これは新法時代の借地だけが対象です。
しかも更新後だけが対象です。
結果的に、平成34年(令和4年)8月までは申立がなされることはありません。
再築許可の裁判
あ 新旧法の適用の振り分け
旧法時代の借地は含まない
※借地借家法18条、改正附則11条
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)
い 対象となるケース
新法時代の借地について
更新後の再築のケース
う 他の借地非訟手続との関係
『再築許可の裁判』には『借地条件変更・増改築許可』を含む
※借地借家法18条2項参照
借地条件の変更を伴う場合でも
→別途『借地条件変更・増改築許可』の申立をすることを要しない
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p127
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p233
え 承諾料の相場
更地評価額の10%相当額
詳しくはこちら|借地借家法(新法)における更新後の建物再築の承諾料相場(再築許可の財産上の給付)
7 増改築許可手続による再築の許可
借地借家法の『再築許可』の手続は平成34年(令和4年)8月までは利用されることがありません(前記)。
一方、現在でも、特約によって『再築』が禁止されていることが多いです。
この場合は、従来の増改築許可の裁判を利用することができます。
裁判所の判断によって、再築が許可されることもあるのです。
増改築許可手続による再築の許可
あ 増改築禁止特約による再築の禁止
旧法時代・新法時代の両方について
再築を禁止する特約がある場合
→一般的に増改築禁止特約の一種として有効である
い 再築の許可
『増改築許可』の手続において
『再築』の許可を得ることができる
詳しくはこちら|再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)
8 借地権譲渡・転貸の許可の裁判
以上の手続は建物の工事に関するものでした。
このほかに、借地非訟手続としては借地権譲渡や転貸の許可もあります。
借地権譲渡・転貸の許可の裁判
あ 新旧法の適用の振り分け
旧法時代の借地を含む
※借地借家法19条、20条、改正附則4条
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
い 承諾料相場
借地権価格の10%相当額
詳しくはこちら|借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)と借地権価格の評価法
なお、借地権譲渡許可と増改築許可や借地条件変更の両方の裁判が必要となるケースも多いです。この場合、法的理論を少し緩和して、実務では併合して申し立てることが認められています。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判と借地条件変更や増改築許可の裁判の併合申立
本記事では、4種類の借地非訟手続(裁判)について説明しました。
実際に借地非訟手続を利用する際は、理論と実務をしっかりと把握して進めないと思わぬ不利益を受けることにつながります。
借地に関する裁判・手続の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。