【法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある】
1 法定地上権の制度趣旨(概要)
2 法定地上権が生じる競売手続の種類
3 担保権実行による法定地上権の成立要件
4 強制執行・滞納処分による法定地上権の成立要件
5 物理的要件と所有者要件の解釈(概要)
6 法定地上権の判断基準時点(概要)
1 法定地上権の制度趣旨(概要)
民法上,土地と建物は別の不動産(所有権の対象)として扱われます。そこで,競売の際に,土地利用権のない建物が生じる不都合が生じてしまいます。このような不都合を回避するために法定地上権という制度があります。
詳しくはこちら|法定地上権の制度趣旨(建物保護の理由=当事者意思や公益)
本記事では,法定地上権の基本的な成立要件について説明します。
2 法定地上権が生じる競売手続の種類
『法定地上権』の規定は3種類があります。競売手続ごとに法定地上権の規定があるのです。3つの種類の分類をまとめます。
<法定地上権が生じる競売手続の種類>
あ 担保権実行によるもの(※1)
抵当権・根抵当権に基づく競売
い 一般の強制執行によるもの(※2)
一般的な債務名義による競売
判決に基づくものが典型例である
う 滞納処分によるもの(※3)
租税債権(税金)による差押・競売
え 形式的競売と法定地上権(参考)
形式的競売において
→法定地上権の適用の可否について統一的見解はない(肯定する傾向がある)
詳しくはこちら|形式的競売における法定地上権の適用の有無
3 担保権実行による法定地上権の成立要件
法定地上権のうち,担保権実行によるものの成立要件をまとめます。
<担保権実行による法定地上権の成立要件>
あ 法定地上権の成立(全体)
担保権に基づく競売(上記※1)において
『い〜え』のすべてに該当する場合
→法定地上権が成立する
い 物理的要件
土地or建物の一方or双方に対する抵当権設定時において
土地上に建物が存在していた
う 所有者要件
抵当権設定時において
土地・建物の所有者が同一であった
え 競売による所有者の食い違い
競売の結果,土地・建物の所有者が異なるに至った
※民法388条
お 民事執行法の適用除外
民事執行法上の法定地上権(民事執行法81条)について
→担保権実行については準用から除外されている
→適用されない
※民事執行法188条
4 強制執行・滞納処分による法定地上権の成立要件
担保権実行以外の2種類の競売手続による法定地上権の成立要件をまとめます。
<強制執行・滞納処分による法定地上権の成立要件>
あ 法定地上権の成立(全体)
『ア・イ』のいずれかの競売において
『い〜え』のすべてに該当する場合
→法定地上権が成立する
ア 一般の強制執行による競売(上記※2)イ 滞納処分による競売(上記※3)
い 物理的要件
差押時点において
土地上に建物が存在した
う 所有者要件
差押時点において
土地・建物の所有者が同一であった
え 競売による所有者の食い違い
競売の結果,土地・建物の所有者が異なるに至った
※民事執行法81条,国税徴収法127条
5 物理的要件と所有者要件の解釈(概要)
法定地上権の成立要件のうち物理的要件と所有者要件については,事案によっては該当するかどうかをはっきり判定できないこともあります。
そのようなケースに関する細かい解釈論があります。
これについてはそれぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|法定地上権の物理的要件(設定時に建物が存在すること)の解釈論
詳しくはこちら|法定地上権の所有者要件(設定時に土地・建物が同一所有)の解釈論
6 法定地上権の判断基準時点(概要)
物理的要件と所有者要件の判断をする基準となる時点は抵当権設定か差押の時点です。
この点,競売の申立の段階で,既に設定されているけれど実行されていない抵当権が存在することもあります。
そのようなケースでは,原則的に,先行する抵当権が設定された時点を基準として判断することになります。
詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|実行していない先行抵当権を基準として法定地上権の成否を判断する