【所有権vs賃借権の対抗関係の例外|同意の登記|賃借権登記とのセットが必須】
1 抵当権実行=競売の時は『賃借権との対抗関係』が熾烈な問題になる
抵当権を実行する、つまり競売の時点で『賃借人』が存在すると『熾烈な利害対立』が生じます。
これを『対抗関係』と言い『対抗要件』で優劣を判断する制度が確立しています。
詳しくはこちら|所有権vs賃貸借の対抗関係|対抗要件取得時期が早い方が優先|典型事例の整理
本記事では『競売』つまり『新オーナー』が優先、という場合について説明します。
2 『新オーナーが優先』という場合→明け渡し義務+明け渡し猶予
賃貸借契約は実質的に終了します。
(元)賃借人は退去しなければならなくなります。
一般的には、明渡料の支払いはないのが原則です。
一定の『明渡猶予期間』の保護は与えられます。
詳しくはこちら|競売における明渡猶予制度(民法395条)
平成15年の民法改正前は短期賃貸借保護制度があり、退去しなくてもよい時代もありましたが、すでに廃止されています。
詳しくはこちら|短期賃貸借保護制度(平成15年改正前民法395条)と借地借家法との関係
3 『賃貸借が優先』という場合→賃貸借は継続するが将来更新拒絶・解約申入がある
対抗要件の順序により『賃貸借が優先』となった場合、賃貸借は存続します。
旧オーナーとの間における賃貸借契約の内容・敷金が新オーナーに承継されます。
ただし、新オーナーが将来、更新拒絶や解約申入を行うことはあり得ます。
これにより、賃貸借契約が終了するリスクはあります。
更新拒絶や解約申入により契約が終了した場合、通常『明渡料』が必要となります。
4 『賃貸借が承継されない』方が、一般的に担保価値は高い
抵当権が優先だと、競売で購入した新所有者は居住者(元賃貸人)に退去請求ができます。
『占有権原なしの状態』と言うこともあります。
理論上は『空家』と同じです。
新所有者がその後の利用方法を自由に決められることになります。
そのため、一般的には『優先する賃借権あり』の場合よりも高く売却されます。
結局『担保価値(評価)が高い』ということになります。
5 『優良なテナントあり』の場合、空室状態よりも担保価値が高くなることもある
(1)『繁盛店の大家』の地位を残して売却するニーズ
テナント(賃借人)として建物に入居している店舗が大繁盛している、というケースがあります。
この場合、将来、長期間にわたってしっかりと賃料収入が獲得できることが予想されます。
そこで、空室状態よりも経済的にプラスの状態、と言えます。
仮に売却する場合に、この状態のままの方が高く売れる、ということです。
『繁盛店の大家』の地位を残したまま競売したい、というニーズです。
(2)『抵当権に優先する』状態を保障して優良店の入居を勧誘するニーズ
入居する店舗経営者としては『抵当権に負ける状態』であれば、多額の投資をする店舗として選ばない、ということが言えます。
『抵当権に負けない状態』にすることにより、優良テナントに入居してもらいたいニーズもあるのです。
そうは言っても、原則的に『抵当権設定登記』をした後に入居した賃借権は『劣後』となってしまいます。
そこで、例外的に『抵当権設定登記』よりも後の入居でも『賃貸借を優先』とする方法があるのです。
次に説明します。
6 本来劣後の『賃貸借』を抵当権よりも優先させる方法|同意の登記
抵当権よりも後に締結する賃貸借を優先させる方法があります。
具体的には、次の2つの登記が必要となります。
賃借権を抵当権よりも優先させる方法|同意の登記
あ 賃借権の登記;民法605条
オーナーと賃借人の双方が協力する必要がある
『引渡』による代替手段ではNG
い 抵当権者全員の同意の登記;民法387条
抵当権者全員が『競売後も対象の賃貸借を継続させる』ことへの同意の意味
このダブルの登記、により、競売しても賃借権が存続することになります。
7 敷金は買受人が承継するので最初から登記しておく
(1)同意の登記→買受人は『賃貸借契約』+『敷金返還義務』を承継する
同意の登記により賃貸借が抵当権よりも対抗関係上優先されることができます。
この場合、競売により落札した新所有者(買受人)は賃貸借の関係を承継します。
買受人が賃貸人の地位を引き受けることになるのです。
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
賃貸人の地位には、貸主として使用収益させる義務だけではなく敷金返還義務もあります。
詳しくはこちら|新所有者が承継する敷金(返還義務)に関する事項と売買における敷金引継
(2)『敷金』は同意の登記の登記事項となっている
競売の際の入札者としては、落札した場合に承継する債務です。
入札を判断する際に重要な情報です。
そこで、法改正により、敷金が登記事項とされました(不動産登記法81条4号)。
敷金の定めがない時はもちろん、『敷金の登記』をする必要はありません。
一方、敷金の定めがあるときは必ず登記しなければなりません。相対的登記事項と呼ばれるものです。