【隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)】
1 隣地使用請求を活用する典型的状況
2 隣地使用権の条文の規定内容
3 隣地使用権の趣旨
4 隣地使用権の法的性質
5 隣地使用権に関する解釈論(概要)
6 特別法上の類似の規定
1 隣地使用請求を活用する典型的状況
土地の境界やその付近の障壁や建物の築造,修繕を円滑に行うためには,隣地の利用が必要不可欠な場合があります。このようなケースで隣地の使用が許されるルールがあります。
本記事では,隣地使用権の基本的事項を説明します。
まずは典型的な状況をまとめます。
<隣地使用請求を活用する典型的状況>
Aは土地を所有している
Aはこの土地上に建物を建築している
工事のために足場を設置する
足場が隣地にはみ出してしまう
2 隣地使用権の条文の規定内容
前記のような状況がある場合,民法上,隣地使用権として,隣地への立ち入りなどが認められています。
まずは,条文の規定の内容を整理します。
<隣地使用権の条文の規定内容>
あ 隣地使用請求権(本体)
ア 基本的事項
土地の所有者は『イ』の工事において
必要な範囲内で隣地の使用を請求することができる
イ 隣地使用を要する工事
境界orその付近において
障壁or建物を築造or修繕する
※民法209条1項本文
い 住家への立ち入り
隣人の承諾がなければ,その住家に立ち入ることはできない
※民法209条1項ただし書
う 償金請求
『あ・い』において
隣人が損害を受けた場合
→償金を請求することができる
※民法209条2項
3 隣地使用権の趣旨
隣地使用権の趣旨について整理します。
<隣地使用権の趣旨>
あ 必要性
建物・障壁などを建てる時
例;足場を組む,材料の搬入など
→一定の余地が必要になることが多い
い 隣地使用による解決
隣地の一定範囲を使用することによって
『あ』の工事を円滑に行う
→土地の有効利用につながる
※埼玉弁護士会『相隣関係をめぐる法律と実務〜現代型相隣紛争解決の手引〜』ぎょうせいp79
4 隣地使用権の法的性質
隣地使用権の法的性質については,大きく2つの見解があります。これ自体で直接に現実の権利に影響はないのですが,いくつかの解釈に影響しています。
<隣地使用権の法的性質>
あ 請求権説
隣地の使用を許可すべきことを請求する請求権である
※我妻榮ほか『新訂物権法』岩波書店p285
い 形成権説
隣地使用権は土地所有権の法律上の当然の拡張である
一方的な意思表示で足りる
※石田文次郎『全訂改版物権法論』有斐閣p463
※野村好弘/川島武宣ほか『新版注釈民法(7)』有斐閣p238
5 隣地使用権に関する解釈論(概要)
隣地使用権に関する解釈論はとても多くあります。ここでは事項(論点)の分類・整理だけをまとめておきます。詳しい内容はそれぞれ別の記事で説明しています。
<隣地使用権に関する解釈論(概要)>
あ 当事者
請求する者と請求の相手方
詳しくはこちら|隣地使用権の当事者(請求者=原告適格と相手方=被告適格)
い 対象となる工事と使用できる範囲
詳しくはこちら|隣地使用権の対象となる工事の内容と『必要な範囲』の判断基準
う 隣地の権利者の承諾の要否
え 住家への立ち入り
住家への立ち入りが認められる要件など
詳しくはこちら|隣地使用に関する住家への立ち入り
お 保全処分(仮処分)
隣地使用権や住家への立ち入りに関する仮処分
詳しくはこちら|隣地使用に対する償金請求権(趣旨・要件・内容=算定方法)
か 償金請求権
償金請求権の法的性質や金額算定方法など
き 訴訟法的な整理
ア 訴訟物の特定イ 請求原因 詳しくはこちら|隣地使用権の保全処分(仮処分)
6 特別法上の類似の規定
民法上の隣地使用権はある意味一般的なルールです。逆に,いろいろな工事について,特別法で一定の他者の土地の利用が認められているのです。特別法における類似する規定をまとめておきます。
<特別法上の類似の規定>
特定のライフライン敷設工事において
→一定範囲の周囲の土地の使用が認められる
※道路法66〜69条
※電気通信事業法79条〜82条
※ガス事業法43〜45条
※下水道法32条