【後見人の利益相反|後見監督人or(民法上の)特別代理人が代理】

1 後見人と被後見人の利益相反→『代理権』がなくなる
2 後見人が利益相反の場合は『後見監督人』が代理人となる
3 利益相反+後見監督人が未選任→後見監督人の選任or特別代理人の選任
4 複数の後見人の一部に利益相反→他の後見人で代理するor後見監督人等の選任

1 後見人と被後見人の利益相反→『代理権』がなくなる

後見人と被後見人(本人)の利益が対立する状況があります。

<後見人と被後見人の利益相反|事例>

兄(A)は弟(B)の後見人となっている
父(D)が亡くなった
相続人はA・B・妹Cの3人である

遺産分割協議の当事者
A・B・C

この事例において,『Bの法定代理人(後見人)はA』です。
そのため,形式的にはAとCだけで遺産分割協議ができる,ということになります。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
しかし,Aは『A自身』と『Aの代理人』という2つの立場を持つことになります。
一般論として,Bが損してでもAがトクする,という『協議』になるおそれがあります。
法律上,このような状態を『利益相反』として,代理が認められないことになっています(民法860条)。

2 後見人が利益相反の場合は『後見監督人』が代理人となる

(1)後見人の利益相反→後見監督人が代理人となる

原則的に『後見監督人』は文字どおり,後見人の行為を『監督』する役割があります。
後見監督人が『代理人』となるわけではありません。
しかし,『後見人の利益相反』の場合は,例外的に,後見監督人が『代理人』となるのです(民法851条4号)。
『後見人』が代理人となれないので,消去法的な扱いになるのです。

3 利益相反+後見監督人が未選任→後見監督人の選任or特別代理人の選任

(1)後見監督人の選任申立

後見人の利益相反が生じた時に,後見監督人は最初から選任されていなかった,ということもあります。
その場合,親族から家裁に『後見監督人の選任』を申し立てることができます。

(2)特別代理人の選任申立

利益相反の場面が特定の法律行為だけで終了するような場合もあります。
この場合,『利益相反の特定の問題だけ』のために『後見監督人』を選任するのは過剰な対応と言えます。
後見監督人は多くの責任・役割があるのです。
そこで,『対応すべき事項限定』での,いわば『スポットの代理人』を選任する方法もあります。
『特別代理人』という制度です。
家庭裁判所に『特別代理人選任』を申し立てると選任してもらえます(民法860条,826条)。
なお,『特別代理人』とは,これとは別に『民事訴訟法』によるものもあります。
詳しくはこちら|訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる
区別するために,『民法上の特別代理人』と言うこともあります。

4 複数の後見人の一部に利益相反→他の後見人で代理するor後見監督人等の選任

(1)複数の後見人の関係は2種類ある

最初から複数の後見人が選任されることもあります。
そして『後見人のうち1名が本人と利益相反の状態』になった場合について説明します。
まず,『複数の後見人』は,2つの種類があります。

<複数の後見人の関係>

あ 各自単独代理型

各後見人が単独で代理権を行使できる

い 権限分掌型

対象事項ごとに代理権を行使できる後見人が定められている

う 共同後見

後見人の全員が一致して『代理権』を行使できる

(2)各自単独代理型

『利益相反の状態の後見人』以外の後見人が代理権を行使すれば良いのです。

(3)権限分掌・各自代理型

権限が決まっていて,担当の後見人が利益相反の場合は,『代理権を行使できる後見人がいない』となります。
この場合は後見監督人or特別代理人の選任が必要になります。

(4)共同後見

共同後見の場合は,『利益相反の状態の後見人』を除外すると,『全員一致』になりません。
結局,代理権行使ができない,ということになります。
これを回避するためには『代理人から外れた後見人の代わりに,後見監督人または特別代理人が穴埋めする』必要があります。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

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