【認知症→財産デッド・ロック|基本|誰も財産を動かせない・解決・回避策】

1 認知症→生前贈与,売却,担保設定などの法的行為が取れない
2 認知症→登記手続を子供が代行することはできない
3 認知症→預金引き出しを子供が行うと,課税上『名義預金』となる
4 認知症・財産デッドロック|相続・遺言の場合との違い
5 成年後見人を選任しても,売却,担保設定はほぼできない
6 成年後見人の選任→『遺言の作成・書き換え』がほぼ不可能となる
7 財産デッド・ロックの予防法はいくつかある
8 生前贈与による財産デッド・ロック回避

1 認知症→生前贈与,売却,担保設定などの法的行為が取れない

所有者が認知症となると,契約ができなくなります。
意思能力を欠くものとして無効となります。

具体的によく生じる困る場面を整理しておきます。

<所有者が認知症となってできなくなる→困ること>

あ 預貯金の引き出し,解約

資金の使用自体ができなくなる
本人の生活費・施設費用の支出も困難になることがある

い 財産の売却,購入,建物建築,賃貸借契約,担保設定

資金調達ができなくなる
住宅資金援助の贈与税特例など,相続税の効率的な節税策が取れなくなる
不動産の有効活用ができなくなる

う 財産の贈与

子や孫への贈与による節税策が取れなくなる

え 養子縁組などの身分行為

相続税の節税策が取れなくなる

お 一般的な契約書などの作成

権利関係の明確化ができなくなる
主に,家業における事業用資産の権利関係が,個人と法人で混在する場合に困る
詳しくはこちら|相続税;節税;基本
詳しくはこちら|家業;代表者個人と法人の財産混在,使用関係明確化

2 認知症→登記手続を子供が代行することはできない

この点,息子などの家族が手続を代行すればなんとかなる,と考える方も多いようです。
しかし,登記に関しては,法務局への申請が必要です。
所有者本人の判断能力が欠けている状態で申請→登記,を行うことは犯罪にあたります。
公正証書原本等不実記載罪,という重い罪に該当するのです(刑法157条1項)。
また,現実的に,司法書士に登記を依頼すると,本人確認は厳格になされます。
司法書士が本人確認を徹底しない場合,司法書士自体が罰則を受けるのです。

3 認知症→預金引き出しを子供が行うと,課税上『名義預金』となる

お父様などが認知症になられてから,息子がキャッシュカードで預貯金を引き出す,ということもあります。
しかし,課税上は,税務署から「勝手に下ろした」ということが後から分かります。
例えば直後に後見人を選任している場合は明確になります。
「引き出した時点での贈与」とは認められないでしょう。
結局,預金の全額が相続税の対象となりましょう。
「名義預金」と同じ構造の考え方です。
詳しくはこちら|相続税;節税;相続財産を減らす;金銭,不動産の生前贈与;信託の活用

4 認知症・財産デッドロック|相続・遺言の場合との違い

遺言で財産の承継先を細かく設定しておくことができます。
しかし,相続が開始しないと,実際に「財産の移転」は生じません。
逆に遺言がなくても,相続となれば,法定相続人も財産が移転します。
相続人によって売却,担保設定,登記といった手続を行うことができます。

しかし,本人に認知症という場合=相続開始前,では,財産は本人の所有のままです。

『相続ではないが,認知症=意思能力なし』という状態だと契約などの法律行為がほとんどできないのです。

5 成年後見人を選任しても,売却,担保設定はほぼできない

意思能力が欠ける場合は,成年後見人の選任ができます。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
しかし,成年後見人の権限は大きく制限されています。
現状維持だけ,というのが大原則です。
例外もありますが,不確定要素が大きいです。
詳しくはこちら|成人後見;要許可以外の財産の処分;後見人の判断基準

成年後見人が資金調達のための不動産売却や担保設定をできることは原則としてできません。

結局,基権利者が認知症となった後は,基本的に,売却,担保設定はできない,と考えると良いです。
財産を動かせなくなる,という意味で,『財産のデッド・ロック』状態と言えます。
この点,賃貸借契約書は役所への申請,というものとは違うので,手続の代行はやりやすいです。
もちろん,権利者の意思に反した契約書を作ることは,私文書偽造罪に該当します。

6 成年後見人の選任→『遺言の作成・書き換え』がほぼ不可能となる

本人の判断能力(意思能力)がないと『契約』全般だけでなく『遺言』もできなくなります。
成年後見人を選任すれば『契約を代理して行う』ことは制限付きですができるようになります。
しかし『遺言』は『代理』して行うことはできません。
あくまでも『本人』が行う必要があるのです。
『成年被後見人』が遺言を行うルールがあります。

<成年被後見人×遺言作成>

あ 本人の判断能力

成年被後見人が事理弁識能力を一時的に回復した時に遺言を作成する

い 医師2人の立会・判断

ア 医師の立会 医師2人以上が遺言作成に立ち会う
イ 医師の判断・記載・押印 医師は,次の事項を判断し,記載+押印する
『精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった』
※民法973条

この要件のうち『記載+押印までしてくれる医師2名を確保する』というところが非現実的です。
この高すぎるハードルのために,ほとんど利用されている実績がありません。

7 財産デッド・ロックの予防法はいくつかある

財産デッド・ロックを回避,予防する方法をまとめます。

<財産デッド・ロックの予防方法>

あ 生前贈与

次に説明する(後述)

い 死後事務委任契約・財産管理契約

(意思能力が十分である時期に)信頼できる者と委任契約を締結する(後述)
→資産運用を委ねることができる
(別記事;リンクは末尾に表示)

う 信託契約

(意思能力が十分である時期に)信頼できる者と信託契約を締結する
→資産運用を託すことができる
詳しくはこちら|認知症;財産デッド・ロックリスク;信託の活用

え 任意後見契約

(意思能力が欠けていない時期に)信頼できる者と任意後見契約を締結する
→将来意思能力が低下した場合に,財産管理の自由が奪われるのは法定後見と変わらない
しかし,『委任の範囲』の設定が自由にできる
※任意後見契約法2条1号
また,後見人を指定できる
『面識のない者が後見人,保佐人,補助人になる』ことを防ぐことができる
詳しくはこちら|認知症;財産デッド・ロックリスク;任意後見

8 生前贈与による財産デッド・ロック回避

例えば,お子様に不動産を譲渡しておけば,当然,お子様がその処分をできるようになります。
しかし,次のような事情があると生前贈与は不都合を生じます。

<生前贈与による不都合>

あ 後継者が確定的には決まっていない

『家』を継ぐ,または,『家業』を継ぐ,という態様

い 兄弟間の不公平感→感情的トラブルが発生するリスク
う 贈与税の課税

ただし,一定の回避策はある
詳しくはこちら|相続税,贈与税;相続時精算課税制度

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