建物賃貸借契約の法律問題|専門弁護士ガイド

1 『借家』とは?
2 『借家』みたいだけど『借家』ではないケース
3 『期間限定で建物を貸す』を実現する方法(定期借家,一時使用目的)
4 サブリースとは?
5 不動産賃貸と『事故死』の告知義務(ワケあり物件)
6 重要事項説明とは?
7 シェアハウス問題(9・6ショック)

1 『借家』とは?

建物の賃貸借契約は『借家』として,借地借家法の多くの借主保護が適用されます。

借家の借主保護の例>

ア 契約期間が終わっても更新される  更新拒絶を無条件にすることはできません。
イ 契約期間は最低1年  1年未満の場合は『期間の定めなし』となります。
ウ 賃料増額は合理的な理由が必要  明確な理由のない増額条項は無効です。

これは借主保護のうち,代表的なものです。
要するにいったん貸すと簡単に返ってこないということです。
実際には,このようなルールを知らないで契約していて,後から無効と気付いて困る,ということもあります。

詳しくはこちら|建物賃貸借は『借家』となるが例外もある

2 『借家』みたいだけど『借家』ではないケース

『借家』に近いけれど,『借家』としては扱われない,という例外的なケースもあります。
『借家』かどうか,で大きな違いが生じるので,見解が対立することが多いものです。
ここでは,問題を生じる典型的なケースと,原則論だけまとめておきます。
個々の解説は別にまとめてあります。下記リンク先をご覧ください。
いずれにしても,契約する時点で,問題が生じないかどうかをよく確認しておくことが重要です。

<『借家』にあたるかどうか問題になりやすいケース>

一時使用目的の建物賃貸借
公営住宅 ◯(ただし公営住宅法が優先)
公団・公社住宅
社宅 △(使用対価などによる)
間貸し △(独立性などによる)
ケース貸し
ウィークリー・マンスリーマンション

詳しくはこちら|借地借家法の『建物』(借家該当性)の判断基準の基本
詳しくはこちら|社宅は『対価』によって『借家』となる,公務員の官舎は『借家』ではない
詳しくはこちら|ケース貸しは独立性によって『借家』となること/ならないことがある
詳しくはこちら|ウィークリー/マンスリーマンション×借地借家法|定期借家の活用
詳しくはこちら|終身借家契約は借地借家法に抵触するが高齢者住まい法で認められた

3 『期間限定で建物を貸す』を実現する方法(定期借家,一時使用目的)

(1)一時使用目的賃貸借

『借家』については,いったん貸すと簡単に返ってこないというルールになっています。
『借家』とは?
しかし,現実に『期間限定で建物を貸したい』というニーズもあります。
例えば,『1年間の海外赴任の間だけ,家が空くので友人に貸す』というようなものです。
このように,『期間限定』がハッキリしている場合は,例外的に『借家』扱いされないことになっています。
一時使用目的の建物賃貸借と言います。
実際には,一時使用目的と言えるのかどうかが不明確ということがあります。
また,借主がよく理解していなかったということもあります。
このような理由で見解が対立し,トラブルになることがあります。

(2)定期借家契約

借地借家法の改正で,現在は,このようなトラブルを避ける方法があります。
定期借家契約というものです。
一定の方式に沿った契約を行えば,更新されないのです。
この場合でも,方式に合っていない借主がよく理解していなかったという理由で見解が対立し,トラブルになることもあります。
また,以前の借家契約(普通借家)を定期借家に切り替えることは無効となります。
これを誤解して『無効な定期借家契約』となっているケースを見かけることもあります。
さらに,定期借家の場合は,中途解約についてちょっと複雑なルールがあります。

(3)定期借家はイレギュラーなので専門家チェックが推奨される

一時使用目的でも定期借家でも,イレギュラーであって,後からトラブルになるタネとなりやすいです。
契約書作成,契約締結の段階からノウハウのある弁護士に相談,確認してもらうと良いでしょう。

詳しくはこちら|一時使用目的の建物賃貸借は借地借家法の適用がない
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)
詳しくはこちら|定期借家における賃借人からの法定中途解約権
詳しくはこちら|平成12年3月1日以前の居住用建物の普通借家は定期借家への切替ができない

4 サブリースとは?

ファンドなどの投資の一環や,家賃保障の趣旨で,サブリース方式が使われることがあります。

<サブリース方式>

賃貸用建物のオーナーから『運営会社』が一括して借り上げる。
『運営会社』が居住者を募集し,入居者と賃貸借契約を結ぶ。

サブリース方式は,最高裁によって転貸借として扱うこととされています。
この解釈によって,差押売却が行われた場合の,『運営会社』や入居者の間の問題の結論が変わります(対抗関係)。
これは非常に高度なものですが,ファンドの運用ではこのようなリスクの把握が非常に重要です。
また,転貸借なので,借地借家法が適用されます。
ファンドの運用で大きな問題となるのが賃料減額請求です。
オーナーとファンドの利害が熾烈に対立するところです。
最終的に最高裁では賃料減額請求は否定しないということになっています。
複雑な判例などは別に解説しています。

詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
詳しくはこちら|サブリース方式のマスターリースと抵当権は対抗関係になる

5 不動産賃貸と『事故死』の告知義務(ワケあり物件)

賃貸物件やその周辺で事故死自然死が生じた場合,次に貸す時の告知義務が問題となります。
いわゆる『ワケあり物件』です。
告知義務があるとして,何年間告知しなくてはならないのか,という問題もあります。
しかし,自然死事故死自殺殺人事件で,インパクトは大きく異なります。
一律に何年間は告知義務があるとは決められません。
実際に,後から発覚して解除や損害賠償が認められた判例が多くありますが,個別的事情で大きく違っています。
事故の話題性や物件の流動性,地域性なども関係します。
これらの多くの要素によって告知義務の期間をまとめたものは別に解説しています。
また,賃料相場という視点では,一定期間は賃料が下がると言えます。
賃料相場の推移告知義務の期間の解説に含めました。
次のリンクの解説をご覧ください。

詳しくはこちら|不動産賃貸と「人の死」;告知義務,損害賠償,賃料相場の減額

6 重要事項説明とは?

通常,建物の賃貸借においては,不動産仲介業者が物件の紹介や契約手続を行います。
仲介業者(宅建業者)は,賃貸借契約の締結前に重要事項説明をすることが義務付けられています。
法律上,勘違いが起きやすいことをリストにしてあって,事前にもれなく説明することになっているのです。
それでも実際にはよく聞いていなかった説明が省略されたということでトラブルになることはあります。
詳しくはこちら|重要事項説明義務の基本(説明の相手方・時期・内容)

7 シェアハウス問題(9・6ショック)

特に都心ではシェアハウスが流行っています。
1つの居室に複数の入居者がいる,というものです。
当然,入居者1人あたりの賃料は安くなります。
入居者が多いので,オーナーの得る家賃収入も多くなります。
都心で働く人にとって便利で,通勤ラッシュの緩和になるなどのメリットが多いです。

ところが,平成25年9月6日の国交省の通達で,シェアハウスが『寄宿舎』扱いされることになりました。
その結果,防火,採光,換気,防湿,敷地内の空白地確保など,多くの義務(ハードル)が課せられました。
ちょっと難しいのですが,要するに従来のシェアハウスの大部分が稼働できないことになったのです。
あまりに極端,急激な扱いの変更でした。
業界内では9・6ショックと呼ばれています。

その後,この極端な扱いは事実上撤回され,合理的なルールが作られる見通しとなっています。
建物オーナー,入居者(候補),地域,のそれぞれにとって有意義なルールが作られることが期待されます。

詳しくはこちら|シェアハウスの『寄宿舎』扱い→規制緩和

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