【公道への越境→近隣住民は『道路管理者』に対応を要請する・住民訴訟】
1 公道への越境→国交省や自治体が行政指導や除却により解消する
2 公道への越境→住民は道路管理者に『対応するよう』要請する
3 公道への越境について道路管理者が対応しない→行政訴訟の提起
4 公道への越境は,刑事罰の対象になることもある
1 公道への越境→国交省や自治体が行政指導や除却により解消する
公道に,塀や屋根,自販機などの工作物が越境していることがあります。
越境によって,近隣住民が通行するのに支障が生じていることも多いです。
道路占用許可を取得していない限り,違法となります(道路法32条1項)。
法律上,道路管理者(国交省や地方自治体)は,越境している者に対して,次のような請求ができます。
<越境している者への請求>
ア 『占用料』相当額の損害賠償請求,不当利得返還請求イ 妨害排除請求(撤去の請求) ※平成16年4月23日最高裁
道路管理者が具体的に行う手続は次のような形態です。
<公道への越境に対処する手続の種類>
ア 行政指導(指導・勧告)イ 監督処分
※道路法71条1項
ウ 除却(行政代執行・略式代執行)
※道路法44条の2,71条3項
※行政代執行法2条
実際には,口頭での行政指導によって,違反者が撤去して解決することが多いです。
一方,除却(行政代執行)という強制的な手段については,意見聴取など,一定のプロセスが必要となります。
2 公道への越境→住民は道路管理者に『対応するよう』要請する
『占有解消』を求めることができる者は,『道路管理者』です。
国道であれば政府(国交省),都道府県道・市町村道であれば地方自治体です。
近隣住民は,現実に迷惑を被っていても,違反者に対して撤去などを直接請求するということはできません。
もちろん,実際に違反者に苦情を伝えるということはできますが,請求権ではないです。
要するに訴訟を提起して請求することはできない,ということです。
近隣住民としては,道路管理者(国交省または地方自治体)に対して,『行政指導などの対応をするよう』要請すると良いでしょう。
3 公道への越境について道路管理者が対応しない→行政訴訟の提起
(1)住民監査請求→住民訴訟
『公道への越境』に対して,道路管理者が対応しない,ということが生じることもあります。
このような場合は,住民として行うことが可能な手続が用意されています。
<公道への越境に対して道路管理者が対応しない場合の住民の手続>
ア 住民監査請求を行う
↓監査・勧告が行なわれない など
イ 住民訴訟の提起
『損害賠償請求or不当利得返還請求を行わないこと』の違法確認請求
当該請求を行うことを義務付ける訴訟(義務付け訴訟)
(2)住民訴訟の対象は『金銭の請求』のみ
住民訴訟で請求することができるのは損害賠償請求や不当利得返還請求などの,金銭の請求のみです。
要するに妨害排除請求(撤去の請求)は対象外なのです。
(3)『はみ出し自販機』→最高裁は『請求しない』を適法と判断
なお,平成16年の地方自治法改正前は,代位請求訴訟が可能でした。
しかし,この法改正後は代位請求訴訟の制度はなくなり,代わりに義務付け訴訟が導入されています。
公道への越境に関する平成16年4月23日最高裁の判例では,改正前の地方自治法が適用されました。
そのため,代位請求という形態でした。
この最高裁判例は,自販機の一部が公道にはみ出している,というケースでした。
そして,『請求額に比べて請求(提訴)コストが過大』という理由で,『請求しないことは適法』と判断されています。
4 公道への越境は,刑事罰の対象になることもある
占用許可ない公道への越境(占有)については,刑事罰も規定されています。
<一定の態様による無許可の公道占有に対する罰則>
法定刑=1年以下の懲役または50万円以下の罰金
※道路法32条1項,100条1号
越境によって迷惑を被っている近隣住民としては,警察や検察に対して『告発』することも理論的には可能です。
実際にはよほど悪質ではないと,捜査機関として,責任追及を前提に捜査を進める,ということに積極的ではないでしょう。