【土地所有権の『上下の限界』|上空は300m・地下は40m】
1 飛行・上空設置物・地下建造物などは土地所有権の上下範囲が問題になる
土地所有権の『上下の範囲』が問題になる例は
土地の所有権の内容の大きなものは、土地の利用です(民法206条)。
さらに具体化すると、次のようなものです。
通常の『土地の利用』の具体例
ここまでは当たり前過ぎることです。
状況によっては、所有権の『上下の範囲』が問題になることがあります。
所有権の『上下の範囲』が問題になる実例
以上のような場合に、土地所有者の承諾が必要かどうか、が問題になるのです。
承諾が必要な場合の具体的な方式
イ 地役権の設定(民法280条)ウ 賃貸借契約の締結(民法601条) 別項目|囲繞地の通路の位置・幅については『協議』で定めておくと良い|契約の種類・内容
2 民法の条文では土地所有権の上下の範囲が明確でない
土地所有権の『上下の範囲』について、民法上の条文がありますが、ちょっと分かりにくいのです。
土地所有権の『上下』の範囲|民法207条
『上下』は無限、というわけではありません。
その制限は『法令の制限』次第、ということになります。
所有権の上下の範囲に関係する法令
次に、これらのうち主要なものについて説明します。
3 土地所有権の高度上限は、航空法の最低安全高度=建造物の高さ+300m
国際的に高度100km以上の空間は、宇宙として、各国の主権(所有権)が及ばないとされています(カーマン・ライン)。
詳しくはこちら|領空(各国の主権)と宇宙空間の国際法上の扱いと境界の基準
一方、日本の法律上、私権としての土地所有権の上空の限界(高さ)をストレートに規定した法令はありません。
この点、航空法の規定がヒントになります。
航空法による最低安全高度
※航空法81条、航空法施行規則174条1号イ
ここで、一般的に、航空機が飛行する場合、『直下部分の土地所有者の承諾』は不要と考えられています。
現実的な不利益がないからです。
なお、ここでは『空間を通過する』ことについての問題のみが前提です。
『騒音・振動』については別問題ですので触れません。
詳しくはこちら|騒音、振動に対する差止、損害賠償請求;まとめ
4 他人所有地の上空300m以内を無断で飛行→違法だが損害賠償ゼロもあり得る
上記のように、民間所有の土地の上空300m以内については、飛行するためには、土地所有者の承諾が必要です。
承諾を取らずに=無断で飛行させた場合について説明します。
言わば領空侵犯です。
(1)民事的には損害賠償請求が成り立つが『損害』があまりない
無断での所有『空間』の無断利用は不法行為となります(民法709条)。
しかし、損害が認められない、ということも多いでしょう。
例えば上空数十メートルの位置をドローンが通過したということによる財産的損失や精神的苦痛が認められにくいのです。
この点仮に、無人ドローン登載のキャメラで『盗撮』したような場合はまったく別問題です。
(2)住居侵入罪という刑事責任も成立しない
ドローンやロボットが『侵入』しても、これ自体は『犯罪』とはなりません。
住居侵入罪については『人間が侵入』することが前提となっているのです。
もちろん、意図的に人を怪我させる、などの事情がある場合は『操縦した人間』に犯罪が成立します。
このような問題については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|ドローン・ロボットの『侵入・上空侵犯』×犯罪|故意犯のみ|業務妨害罪・盗撮系
(3)『盗撮』は違法→『冤罪リスク』にも注意
もちろん、『盗撮』については迷惑防止条例違反となります。
仮に『撮影する意図がない』場合にも拡大的に認められてしまうリスクの方が心配だと思います。
詳しくはこちら|盗撮・迷惑防止条例|東京都・神奈川県の条文規定・定義・罰則
5 建造物『張り出し』による上空侵犯は別とも考えられる
結局、土地所有権の上空の限界は、建造物の上部から300mということになります。
ただし、この高度以上の部分に建造物を設置という場合は所有権の侵害となる可能性もあります。
現実的にこれが生じるのは『超高層ビルが横に張り出す』ということくらいです。
仮にこのような建築が行われるとしても、建築基準法上、『張り出し部分の直下部分』を『敷地』となります。
通常は、区分地上権の設定を行うはずです。
以上のことから、航空法の最低安全高度を元にした解釈は、『所有権の範囲』ではなく『所有権は及ぶが通過(通行)は禁止できない』とも考えられます。
いずれも解釈論でも、現時点では実質的な違いはありません。
6 宇宙エレベーターや空中Wi-Fi基地・太陽光パネルの登場時には法整備が必要
一方、将来は、宇宙エレベーターや空中に浮遊するWi-Fi基地・太陽光パネルというテクノロジーが進化するかもしれません。
この場合に『所有権の侵害』『承諾が必要』となるかどうかの解釈は、現時点では統一的なものがありません。
テクノロジー進化とともに法整備も進める必要がありましょう。
なお、空中に物体を飛行・浮遊させることについては、許認可の問題があります。
これは『所有権の範囲』とは別のマターです。
詳しくはこちら|無人ドローン運用に必要な許認可とケアすべき法律問題
7 土地所有権の地下深度限界は、大深度地下法の40m
土地所有権の『地下』方向の限界については、大深度地下法が関係しています。
『大深度地下』の定義
ア 地表から40m(法2条1項1号、施行令1条)イ 地表から『基礎杭を支持することにより2500kN/平方メートル以上の許容支持力を有する地盤最上部+10m』(法2条1項2号、施行令2条1項、3項) ※『法』=大深度地下法、『施行令』=大深度地下法施行令
要するに、一般の宅地など、一定の強度(耐力)を持つ地面(地盤)については、『地表から40mの深さ』ということです。
『大深度地下』に適用される規制
あ 認可事業者
使用の認可を得た事業者が事業区域を使用する権利を取得する(法21条、25条)
い 土地所有者
・所有権の行使を『制限』される(25条)
・1年以内に限り補償請求可能(37条)
以上のように、深度40mより深いエリアは『所有者の利用に制限がある』という状態です。
『完全に自由な利用』という意味では『所有権の限界』と言えます。
8 湧水・地下水・温泉の利用、採鉱は土地所有権に含まれるが一定の制限もある
ややイレギュラーな土地の利用もあります。
土地の利用として土地所有権に含まれる権利
以上のような利益は、原則的に権利として、土地所有権の一環として認められています。
しかし、『地方の慣習』や『権利濫用』の理論によって、一定の制限を受けることもあります(民法90条、92条)。
参考情報
本記事では、土地所有権の上限の範囲について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の利用範囲に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。