【土地売買の後に地盤沈下・軟弱地盤・液状化が発覚・発生した場合の法的責任・判断基準】

1 地盤沈下・液状化→土地の売主等への損害賠償・売買契約解除ができる

土地を購入した後に、軟弱地盤であったことが問題になるケースがあります。

軟弱地盤発覚の具体的状態

あ 原因

・地盤が軟弱
・地表下の空洞の存在
・盛土の不完全
・周囲擁壁の脆弱性

い 生じる現象

・地盤沈下(不同沈下)
・液状化現象

このような場合に、法的に生じる責任はいくつかあります。

軟弱地盤に関する法的責任の種類

あ 瑕疵担保責任

土地の状況が『瑕疵』に該当する場合、売主の損害賠償や解除が認められます。

い 債務不履行責任

ア 建築業者の『地盤調査・改良義務』の違反イ 売主・仲介業者の『調査義務』の違反

う 不法行為責任

大まかに言うと『い』と重複することが多いです。

2 軟弱地盤の『瑕疵』の目安は『震度5に耐えない』だが事情によって異なる

(1)軟弱地盤の『瑕疵』判断では震度が用いられることが多い

実際に、軟弱地盤が問題となるのは、液状化地盤沈下(不同沈下)が生じた、という場合です。
仮に、『極端に大きな地震によって地盤沈下が生じた』という場合は、不可抗力であり、瑕疵ではない、と考えられます。
一方、『小さな地震で地盤沈下が生じた』という場合は、土地の瑕疵と言えます。
別の言い方をすると、『建物の基礎』が損壊した原因を震災当初からの強度不足のどちらと評価するか、という問題です。

軟弱地盤の『瑕疵』の判断基準

あ 考慮要素

ア 従来発生した地震の回数、頻度、規模、程度イ 時代ごとに法令上要求される地上地下構築物の所在場所、地質、地形、強度等

い 『瑕疵あり』の判断基準

将来その地域で発生が予測される規模の地震に対する耐震性を具備していない

う 一般的・平均的な『耐震性』

震度5程度
これよりも低い震度が設定されることもあります。

実際には、地盤沈下・地盤の崩落が生じやすい、と言える具体的事情があれば、基準は変わります。
つまり、震度4で地盤沈下が生じた場合でも瑕疵があると判断される可能性もあるのです。実際に、震度4で地盤沈下が生じたことは瑕疵を否定しないという趣旨の判断をした裁判例があります。

軟弱地盤の瑕疵の判断をした裁判例

あ 瑕疵現象

建物全体で7センチメートル以上、一部屋だけで約5センチメートル以上の高低差がある

い 瑕疵原因

ア 建物の基礎構造 建物の底盤は、型枠施工されておらず、その幅及び厚みが不均質である
公庫基準(厚さ12センチメートル以上)を満たしていない
瑕疵といえる
イ 建物の軸組構造 小屋束の接ぎ木、梁と小屋束の接続不良、梁と小屋束の仕口の加工不良、梁と桁の仕口の加工不良、壁筋かいと桁の接合不良、垂木や小屋梁への不良材の使用、公庫仕様書の基準よりも小さい補強金物の使用、火打ち梁と梁・桁の接続の不良などの多くの欠陥がある
瑕疵といえる

う 震度との関係

(仮に、地震により生じた)としても、わずか震度4程度の揺れによって建物の軸組構造に影響が生じたのであれば、被告Y2建設による本件建物の設計・工事・監督自体に問題があったことを示しているというべきである。
※大阪地判平成10年7月29日
※仙台地裁平成4年4月8日(同趣旨)
※仙台地裁平成8年6月11日(同趣旨)

(2)買主が土地の瑕疵を知っていた場合は担保責任追及NGだが例外もある

例えば、買主が地盤が弱いということを知っていた場合、瑕疵担保責任は生じないのが原則です。
しかし、知っていた内容・程度現実が大きく異なっていたという場合は別です。

買主が瑕疵を知っている×瑕疵担保責任

あ 原則

買主が瑕疵を知っていた場合、瑕疵担保責任は発生しない
※民法570条、566条3項

い 例外

・瑕疵が軽微
・買主が知っていたor過失により知らなかった
・契約の目的を達することができないほどの重大な瑕疵が発覚した
・『重大な瑕疵』を買主は知らなかった

瑕疵担保責任が認められる
※東京地方裁判所平成2年(ワ)第9395号原状回復等請求事件平成4年9月16日

3 瑕疵担保責任は通常『損害賠償』だが地盤沈下の程度によって『解除』もあり得る

(1)瑕疵担保責任の『損害賠償』は信頼利益が対象

地盤沈下が瑕疵にあたる場合、これによって生じた損害について、損害賠償請求が認められます。
ここで、損害として算定されるのは実際に要する費用です。

瑕疵担保責任における損害

あ 含まれるもの

実際に要した次のような費用(信頼利益)
ア 調査費用イ 修復工事に要する費用or建替え費用(小さい方)ウ 工事中の宿泊費用、日用品運搬費用 ※東京地裁平成21年11月25日;『建替え費用』を認めた

い 含まれないもの

得ることが期待できた利益(履行利益)
・転売すれば得た差額(転売益)
※仙台高裁平成12年10月25日

(2)理論的には修理工事の請求はできないが、和解としてはあり得る

法律上、売買契約の瑕疵担保責任として修理(修補)請求というものはありません。
ただし、実務における交渉や訴訟の和解では、販売した業者が土地の修復工事を行うということもあります。
和解・合意による解決では、解決の内容・方法は拘束されないのです。
なお、品確法では、一定の場合に修補請求が認められます(品確法95条1項)。

(3)瑕疵の程度がひどい場合は『契約解除』が認められる

地盤沈下の具体的状況によっては、売買契約の解除まで認められることがあります。

瑕疵担保責任としての契約解除が認められる場合

あ 解除が認められる一般的基準

瑕疵のために、契約の目的が達成できない

い 地盤沈下における契約解除が認められる基準

瑕疵の修補のために、建物新築と同程度の費用を要する場合
※東京高等裁判所平成13年(ネ)第3825号損害賠償請求控訴事件平成13年12月26日
※仙台高等裁判所平成8年(ネ)第308号損害賠償請求控訴事件平成12年10月25日
※東京地裁平成13年6月27日(後記『5』)

4 『地盤調査・改良義務』違反により建築・造成業者の損害賠償責任が生じる

『建物建築時に地盤調査→地盤改良工事』をしっかり行えば液状化・地盤沈下が避けられた、と言える場合もあります。
このような場合は、建築業者や造成業者が義務違反になるので、損害賠償責任を負います(債務不履行責任)。

建築業者、造成業者が負う『地盤調査・地盤改良』義務

あ 根拠

一般に建物を建築する業者としては、安全性を確保した建物を建築する義務を負う

い 地盤耐力を保全する義務内容

ア 建物を建築する土地の地盤の強度等について調査する義務イ 地盤の沈下・変形に対して、建物の基礎に耐力を確保する義務

う 耐力の程度

現地の状況、地盤調査の結果から想定される危険性を排除する

なお、建設業者による工事で地盤に関する瑕疵があった場合の担保責任は、一定の範囲で強化されています。
詳しくはこちら|住宅品確法による瑕疵担保責任の強化(基本構造部分は最低10年)

5 『調査義務』違反により、売主・仲介業者の損害賠償責任が生じる

(1)売主・仲介業者は土地の安全性について調査義務を負う

売買契約の中心は対象物(不動産)を譲渡するというものです。
解釈上、これに加えて付随的に、安全性について調査する義務も認められています。

(2)売主・仲介業者の調査義務は『公的機関による検査』で足りる

土地の売主・仲介業者が負う調査義務の内容は次のとおりです。

土地の売主・仲介業者が負う調査義務の範囲

あ 原則

・公的機関による検査の実施の有無についての調査で足りる
・安全性について独自に調査する必要はない
※大阪地方裁判所平成8年(ワ)第2267号損害賠償請求事件平成10年7月29日

い 例外;責任を加重する場合

『独自の調査』も行う義務
※神戸地方裁判所昭和56年(ワ)第1457号損害賠償請求事件昭和61年9月3日

(3)売主・仲介業者は土地の安全性について告知義務を負う

売主・仲介業者は当初から知っている、または調査で知った事情を『買主候補者に告知する義務』があります。

売主・仲介業者の告知義務

あ 告知義務の範囲

買主候補者が売買契約を締結するかどうかを決定付けるような重要な事実

い 土地売買における具体的告知事項

売主・仲介業者が把握している土地の性状に関する事実

う 地盤の軟弱性に関する売主・仲介業者の把握の程度

・水分が多く軟弱であり、沈下を起こしやすい地盤であるという程度の認識があれば足りる
・地盤についての専門的知識がないことで告知義務は否定されない

え 判例

東京高等裁判所平成13年(ネ)第3825号損害賠償請求控訴事件平成13年12月26日
東京地方裁判所平成19年(ワ)第7620号損害賠償請求事件平成21年10月9日
東京地裁平成13年6月27日

判例のうち1つについて、概要を紹介します。

地盤改良工事の施工不良→瑕疵として『解除』を認めた判例

あ 判例

東京地裁平成13年6月27日

い 事案

土地付建売住宅の売買契約
軟弱地盤であった→地盤改良工事が事前に行われた
工法の選択が不適切or施工が不相当であった

地盤沈下が発生
建物の補修に要する費用は建物新築と同等

う 裁判所の判断

ア 売主の責任 『瑕疵担保責任』として、売買契約の『解除』を認めた
損害賠償額(返還額)=売買代金+仲介手数料+調査費用=約5300万円
イ 仲介業者の責任 『軟弱地盤である』ことは、購入するかどうかの意思決定に際して決定的に重要な事項である
→仲介業者は『軟弱地盤である』ことについて説明義務がある
→説明義務違反を認めた
慰謝料額=約500万円

(4)『調査・告知義務違反』については損害賠償請求が認められる

調査義務や告知義務に違反があった場合、一定の範囲で買主の損害賠償請求が認められます。
別項目|『調査義務』違反により、売主・仲介業者の損害賠償責任が生じる

6 中古住宅購入者が建築業者に損害賠償を請求できることもある

建築工事の注文者が建築業者瑕疵担保責任などの損害賠償を請求するのが普通です。
この点、建物完成後に、中古住宅として販売されることもあります。
そして、中古住宅として購入した者は、『建築業者』とは契約関係はありません。
瑕疵担保責任については、『売主』に対しては請求できますが、『建築業者』には請求できません。
しかし、売主に資金力がない→賠償請求の実効性がない、ということも多いです。
ここで、『中古住宅の購入者』が『建築業者』に不法行為としての損害賠償を請求できることもあります。

軟弱地盤に関する建築業者の不法行為責任

あ 建築業者の負う義務

建物建築に当たり、土地の地盤を調査し、これに対応した安全性を備える建物を建築する義務がある

い 不法行為責任を認めた判例

福岡地方裁判所平成9年(ワ)第3440号損害賠償請求事件平成11年10月20日
京都地方裁判所平成9年(ワ)第1271号損害賠償請求事件平成12年10月16日

う 参考情報

論点体系判例民法6、51頁

7 地盤の強度|液状化の要因・地盤強度を調べるサイト

地盤の強度によっては、以上のような法的責任が生じます。
地盤の強度を調べるためのサイトや液状化の要因については別に説明しています。
詳しくはこちら|地盤の強度|液状化の要因・地盤強度を調べるサイト

8 関連テーマ

地すべり危険エリアの避難要請よりも『私有財産制』が優先
詳しくはこちら|不動産売買・建築請負における欠陥の典型例
詳しくはこちら|売買契約に関する責任の種類(瑕疵担保・債務不履行・不法行為)
詳しくはこちら|建物の建築工事の欠陥・瑕疵による不法行為責任

本記事では、土地の地盤沈下が生じた場合の法的責任を全体的に説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に地盤沈下に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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