【所有権留保|設定方法・実行方法・利用例】
1 所有権留保の設定方法は特殊な売買契約である
2 一般的な『分割払いでの商品販売』→所有権留保となる|割賦販売法の推定規定
3 クレジットカードなどの立替払でも,求償権担保のための所有権留保が利用される
4 所有権留保の利用例は,消費者向け分割払い,建設機械や自動車への担保設定など
5 留保所有権の実行方法は解除通知+返還請求
6 所有権留保は『抵当権』などの担保権と同レベル|破産法の『別除権』扱い
7 自動車の所有権留保と運行供用者責任(概要)
1 所有権留保の設定方法は特殊な売買契約である
(1)所有権留保の設定方法
所有権留保は,債権を担保する方式の1つです。
非典型担保です。
つまり,法律の明文で規定されている制度ではありません。
主に用いられる場面は,売買契約において,代金を分割払いとしたケースです。
仮に完済前に支払が滞った場合,売主としては,売却した商品を取り戻したいと考えるのが自然です。
そこで,完済までは所有権が買主に移転しないという発想が生じます。
<所有権留保売買契約の内容>
売買契約の目的物の所有権移転時期を代金完済時とする特約付き売買契約
(2)通常の売買契約との違い
なお,所有権留保がない,通常の売買契約の場合は,所有権は買主に移っています。
代金支払が滞った場合でも,ストレートに取り戻すことはできません。
債権者として取れる回収手段は,差押え→競売,ということになります。
この場合,時間,費用が必要となってしまいます。
所有権留保の場合は,この不都合が回避されるのです。
2 一般的な『分割払いでの商品販売』→所有権留保となる|割賦販売法の推定規定
『所有権留保』という担保は,意識しないでも成立することがあります。
正確には『一定の販売については,法律上の推定が適用される』ということです。
<割賦販売法による所有権留保の推定>
あ 対象取引(販売)の対象物
指定商品・指定役務
→割賦販売法で指定された商品・サービスのこと
い 分割払いの方法
2か月以上,かつ,3回以上
※割賦販売法7条
う 『推定』のルール|『みなす』ではない
状況 | 『推定』規定の適用 |
契約書自体がない場合 | ◯ |
条項に『所有権の移転時期』が書いてない場合 | ◯ |
『所有権』や『担保』に関する合意(条項)がある場合 | ☓(合意が優先) |
<所有権留保の推定規定の趣旨>
分割払いで販売→払われなくなった,という場合
→商品を返すべきだ
という一般的な感覚がルール化されたもの
3 クレジットカードなどの立替払でも,求償権担保のための所有権留保が利用される
クレジットカードや,個別的分割払いを信販会社が介在することによって行うことがあります。
この場合,信販会社が買主に代わって売主に代金を支払っているのです。
信販会社が買主に求償権を有するわけです。
この求償権を担保するために,信販会社が立て替え金完済まで商品の所有権を獲得する(留保する)のが通例です。
一般的に,クレジットカードや立替払い(ローン)契約書の約款に,その旨の特約が記載されています。
これも所有権留保の1形態です。
クレジットカードやローンによる売買で,当然と言えるシステムです。
そこで,割賦販売法7条において,所有権留保の特約が推定される旨規定されています。
4 所有権留保の利用例は,消費者向け分割払い,建設機械や自動車への担保設定など
(1)不動産に所有権留保を活用する例は少ない
一般的に,不動産の売買でも所有権留保を利用することはできます(最高裁昭和58年7月5日;判例1)。
ただし,宅地建物取引業者は所有権留保の利用が禁止されています(宅地建物取引業法43条)。
不動産を所有権留保の対象とすることはあまり一般的ではありません。
(2)消費者向けサービスの一環として所有権留保が使われる
実務上は,動産において所有権留保が利用されています。
クレジットカード,個別消費の分割払い(ローン契約)のような消費者向け金融においては一律に約款で所有権留保特約が含まれています。また,割賦販売法7条で推定規定もあります。
(3)建設機械や自動車に所有権留保を活用すると効果的
建設機械や自動車の担保として,所有権留保が活用すると効果的です。
これらは,ある程度の耐久性があり,時間が経過しても換価価値があります。
つまり,売却して一定の値が付く,と言えます。
実質的に活用することの効果が大きいのです。
5 留保所有権の実行方法は解除通知+返還請求
所有権留保の場合,特約で,『代金完済までは売主に所有権がある』ことになっています。
滞納となったら,売主は『所有者として対象物(商品)の引渡しを請求する』,という非常に単純な手法を取ることになります。
ただし,売買契約が残ったままとなってしまいますので,売買契約の解除が必要と考えられています。
具体的には,売主から買主に,売買契約を解除するという通知を出すことになります。
なお,信販会社が立替払いをしている場合は,信販会社が買主に立替払い契約の解除の意思表示を行うことになります。
6 所有権留保は『抵当権』などの担保権と同レベル|破産法の『別除権』扱い
所有権留保は,条文上の『担保方式』ではありません。
『非典型担保』と呼ばれるカテゴリなのです。
所有権留保の法的性質・解釈については統一的なものはありません。
しかし,具体的・現実的な扱いについては,実務上,一定のルールがあります。
<所有権留保の法的扱い・現実的扱い>
あ 法的性質
『純粋な所有権』と『担保物権』の中間的な性質
い 具体的な効力=実行の結果
留保所有権者は『清算金の支払』を条件として,対象物の引渡を請求できる
う 『実行』の場面での扱いのまとめ
要するに抵当権や質権などの『担保物権(典型担保)』と同じ扱い,ということです。
破産法上の『別除権』と同じ扱いになる,ということです。
え 具体的な実行における運用
『所有者』としての無条件の引渡請求 | ☓ |
清算金と引換の引渡請求 | ◯ |
他の債権者よりも優先扱い | ◯ |
※札幌高裁昭和61年3月26日
<留保所有権実行の際の『清算金』>
あ 『清算金』の算定方法
対象物の評価額 − 残金(債務額)
い 現実的な方向性
通常,『評価額』は売買代金額よりも大幅に下がる
『清算金』ゼロ(清算義務なし)というケースが多い
7 自動車の所有権留保と運行供用者責任(概要)
自動車事故などの損害賠償では,運行供用者責任という特殊な扱いがあります。
通常は所有者が運行供用者として認められます。
しかし,所有権留保のケースでは実質的な担保権という性格が判断に影響します。
つまり,所有者は運行供用者として認められないのです。
詳しくはこちら|特殊な事情と運行供用者責任の判断(所有権留保・レンタカー・盗難車)
条文
[割賦販売法]
(所有権に関する推定)
第七条 第二条第一項第一号に規定する割賦販売の方法により販売された指定商品(耐久性を有するものとして政令で定めるものに限る。)の所有権は、賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは、割賦販売業者に留保されたものと推定する。
[宅地建物取引業法]
(所有権留保等の禁止)
第43条 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合には、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡すまで(当該宅地又は建物を引き渡すまでに代金の額の10分の3をこえる額の金銭の支払を受けていない場合にあつては、代金の額の10分の3をこえる額の金銭の支払を受けるまで)に、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。ただし、買主が、当該宅地又は建物につき所有権の登記をした後の代金債務について、これを担保するための抵当権若しくは不動産売買の先取特権の登記を申請し、又はこれを保証する保証人を立てる見込みがないときは、この限りでない。
2 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合において、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡し、かつ、代金の額の10分の3をこえる額の金銭の支払を受けた後は、担保の目的で当該宅地又は建物を譲り受けてはならない。
3 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の売買を行なつた場合において、代金の全部又は一部に充てるための買主の金銭の借入れで、当該宅地又は建物の引渡し後1年以上の期間にわたり、かつ、2回以上に分割して返還することを条件とするものに係る債務を保証したときは、当該宅地又は建物を買主に引き渡すまで(当該宅地又は建物を引き渡すまでに受領した代金の額から当該保証に係る債務で当該宅地又は建物を引き渡すまでに弁済されていないものの額を控除した額が代金の額の10分の3をこえていない場合にあつては、受領した代金の額から当該保証に係る債務で弁済されていないものの額を控除した額が代金の額の10分の3をこえるまで)に、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。ただし、宅地建物取引業者が当該保証債務を履行した場合に取得する求償権及び当該宅地又は建物につき買主が所有権の登記をした後の代金債権について、買主が、これを担保するための抵当権若しくは不動産売買の先取特権の登記を申請し、又はこれを保証する保証人を立てる見込みがないときは、この限っでない。
4 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の売買を行なつた場合において、当該宅地又は建物の代金の全部又は一部に充てるための買主の金銭の借入れで、当該宅地又は建物の引渡し後1年以上の期間にわたり、かつ、2回以上に分割して返還することを条件とするものに係る債務を保証したときは、当該売買に係る宅地又は建物を買主に引き渡し、かつ、受領した代金の額から当該保証に係る債務で弁済されていないものの額を控除した額が代金の額の10分の3をこえる額の金銭の支払を受けた後は、担保の目的で当該宅地又は建物を譲り受けてはならない。
判例・参考情報
(判例1)
[最高裁判所第3小法廷昭和57年(オ)第452号所有権移転登記請求本訴、所有権移転請求権保全仮登記抹消登記請求反訴事件昭和58年7月5日]
不動産の売買の遡及的合意解除の場合においても、法定解除の場合と同様、第三者の権利を害することができないが、右第三者についても民法一七七条の適用があるから、右不動産の所有権の取得について対抗要件としての登記を経由していない者は、たとえ仮登記を経由したとしても、右第三者として保護されないものと解するのが相当である