【共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)】
1 共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
共有物分割が完了した後に、対象となった不動産に欠陥が発覚することもあります。この場合には、契約不適合責任(瑕疵担保責任)が発生することがあります。
本記事では、共有物分割の法的性質が有償契約であり、契約不適合責任が適用される、ということを説明します。
2 共有物分割の法的性質→交換・売買
共有物分割の法的性格について、昭和42年最判は、持分の交換や売買である、と判断しました。これは、どのような登記をするか、ということが問題となった事案で、前提理論として判断したものです。
共有物分割は交換や売買の性質があるということは、有償契約の性質があるということになります。このことが後述の担保責任と関係してきます。
共有物分割の法的性質→交換・売買
あ 昭和42年最判
ア 共有物分割び法的性質
・・・共有物の分割は、共有者相互間において、共有物の各部分につき、その有する持分の交換又は売買が行なわれることであつて(民法二四九条、二六一条参照)、所属のごとく、各共有者がその取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではない。
イ 現物分割における登記の方法
したがつて、一箇の不動産が数人の共有に属し分割の結果各人がその一部ずつについて単独所有者となる場合には、まず分筆の登記手続をしたうえで、権利の一部移転の登記手続をなすべきである。
※最判昭和42年8月25日
い 一般的な契約との対応
分割類型
該当する契約
現物分割
交換契約
換価分割
売買契約
全面的価格賠償(後記※1)
売買契約
(※1)この判例の当時は全面的価格賠償は認められていなかった
3 共有物分割における担保責任(民法261条)
(1)有償契約における担保責任(概要)
一般的に有償契約については契約不適合責任(瑕疵担保責任)が適用されます。簡単にいうと、契約の後で欠陥が発覚した場合に、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求や解除をすることを認めるルールです。
詳しくはこちら|売買・請負の契約不適合責任(瑕疵担保責任)の全体像
契約不適合責任のうち、権利の不適合(瑕疵)については、担保責任の前段階で支払拒絶権もあります。
詳しくはこちら|抵当権や仮登記の負担つきの不動産売買(担保責任・支払拒絶権)
(2)民法261条の条文
共有物分割における担保責任については、民法261条が規定しています。最初に条文を押さえておきます。
条文には、「売主と同じ」担保責任がある、と定められています。簡単にいうと、前述のように共有物分割は有償契約の性質があるので、売買(売主)と同じ扱いになる、ということです。
民法261条の条文
第二百六十一条 各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。
※民法261条
(3)民法261条の性質→注意(確認)的・創設的の両方あり
前述のように、共有物分割は有償契約の性質なので、民法261条がないとしても担保責任の規定が適用される、つまり民法261条は確認的(注意的)規定である、という見解があります。しかし、それはあくまでも「性質」であって、「売買契約」や「交換契約」そのものではありません。そこで、民法261条があって初めて担保責任が適用される、つまり民法261条は創設的な規定である、という考えもあります。さらに、共有物分割が合意(協議)によって成立した場合と裁判によって成立した場合とで違う、という見解もあります。
ただ、どの見解を採用しても、実際の適用結果に違いが出るわけではないと思います。
民法261条の性質→注意(確認)的・創設的の両方あり
あ 新版注釈民法→協議分割では注意的、裁判分割では創設的
なお民法559条によると売買の規定が他の有償契約に準用されることとなっている。
共有物の分割の中、協議によるものは一種の有償契約とみられなくはないので、その場合には本条は注意的規定という意味しかもたなくなる。
しかし裁判による分割の場合には559条を適用する余地がないから、本条による扱いを必要とすることとなる。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p486
い 新注釈民法民法→創設的
分割の効果は、共有者間の売買ないし交換そのものではないが(→§256Ⅱ2)、本条は、「売主と同じく」と明記することによって、売買の担保責任の規定が適用されることを示すものである
(法典調査会民法議事10巻117丁)。
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p612
う コンメンタール民法→注意的
現物の分割は、これを理論的に見れば、共有者各自が有した持分の一部を相互に交換したことになる。
また、共有者の一人が目的物の全部を取得し、他の共有者に対して償金を与える方法による分割は、あたかも持分の売買に該当する。
したがって、一人の取得した部分に原始的に瑕疵があったり、あるいは分量が不足していたりすれば、他の者は売主と同様の担保責任(改正前§§561~)を負担すべきであるのはむしろ当然であり(§559参照)、本条は注意的な規定である。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p498
え 松岡久和氏見解→協議分割では注意的、裁判分割では創設的
協議による分割なら当事者の合意によるから、561条以下の担保責任の規定が適用されるのは当然であり、261条はなくてもよい当然の規定である。
これに対して、裁判上の分割は当事者の意思に基づかない。
この場合にも担保責任が生じることを定める点に、261条の存在意義がある。
※松岡久和著『物権法』成文堂2017年p57
(4)民法261条の強行性→否定(任意規定)
ところで、民法261条は任意規定であるという解釈が一般的です。つまり、担保責任は発生しない、という合意も有効ということです。
民法261条の強行性→否定(任意規定)
共有物の分割の場合に担保責任を負わない旨を共有者が約したときも民法572条と同様に扱ってよい。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p486
(5)解除の適用範囲→合意は肯定・判決は否定
担保責任の具体的な中身は、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求と解除です。この中の解除については、裁判による分割では適用できない、という見解が一般的です。解除は合意や契約を解消するものであり、裁判所の判決としての形成結果を解消することは「解除」の対象外である、という考えです。
なお、共有物分割の合意を解除する場合は、解除の不可分性が適用されるので、契約不適合が特定人間だけにとどまる場合は解除できないと思います。これについては債務不履行解除(後述)に関して指摘されています。
解除の適用範囲→合意は肯定・判決は否定
あ 新版注釈民法
ア 一般論→解除可能
売主の担保責任の諸規定が準用される結果、損害賠償、代金減額、解除が認められる。
イ 判決による分割→解除否定
ただし裁判所による分割の場合にも解除が認められるか否かは問題である。
近時の学説はこぞってこの場合に解除を認めるべきではなく、代金減額、損害賠償にとどめるべきだという(我妻=有泉334、舟橋392、林141、等)。
裁判所による分割が通常の法律行為でないため、法律行為についての解除は排斥されるとみて、上記学説は支持されるべきである。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p486
い 新注釈民法
ア 一般論→解除可能
現行法は、担保責任の効果として追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権そして解除権を認めている。
イ 判決による分割→解除否定
改正前は、裁判分割(かつては裁判分割について本条を適用すべきか否かが論じられたが今日では本条の適用があることが前提とされている)について解除権行使を認めるべきでなく、代金減額、損害賠償にとどめるべきだと解されていた(新版注民(7)486頁[川井〕、広中447頁)。
現行法においても同様に考えてよいだろう。
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p613
う コンメンタール民法
ア 合意による分割→解除可能
売主の担保責任の内容は、代金減額・損害賠償および解除である。
当事者の協議による分割の場合に、この3種の責任を認めることができるのはもちろんであるが、
イ 判決による分割→解除否定
裁判による分割の結果について解除を認めることができるかどうかは、はなはだ疑問である。
この場合には、解除をすることはできず、単に代金減額または損害賠償の請求をすることができるにとどまると解すべきであろう。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p498
4 共有物分割の担保責任の内容(まとめ)
担保責任の中身について、根拠(民法の条文)や、それが使える状況について整理しておきます。
共有物分割の担保責任の内容(まとめ)
あ 瑕疵担保責任における瑕疵の分類
瑕疵の種類 根拠・民法 権利の瑕疵 民法565条(改正前民法561条) 物の瑕疵 民法562、563条(改正前民法570条)
い 瑕疵担保責任の分類
責任の種類 協議による分割 裁判による分割 損害賠償・代金減額 ◯ ◯ 解除 ◯ ×
5 関連テーマ
(1)共有物分割における妨害的な用益権・抵当権設定
実際の共有物分割の紛争では、交渉や訴訟の途中で妨害的に共有不動産に用益権を設定する、持分に抵当権を設定する、ということが起きるケースもあります。担保責任が使われる状況の1つです。
詳しくはこちら|共有物分割の結果と抵触する処分(妨害行為)の効力
(2)「債務不履行」による共有物分割の解除
ところで「解除」には「担保責任(契約不適合責任)」としての解除と、「債務不履行」による解除があります。
以上で説明したのは、担保責任としての解除です。担保責任としての解除は合意ならば適用される(解消できる)が、判決には適用されない(解消できない)という結論になっていました。
この点、債務不履行による解除については、判決はもちろん、合意についても適用されないという見解もあります。また、適用されたとしても解除の不可分性が適用されるという指摘があります。
詳しくはこちら|成立した共有物分割の解消(無効・取消・解除・詐害行為取消)
平成29年の民法改正で担保責任としての解除と債務不履行による解除の性質は同じとする扱いに統一されています。
詳しくはこちら|平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化(性質・用語)
2種類の解除は同じ性質なのに適用範囲が違うという結論でよいのか、という疑問が残ります。
本記事では、共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)の説明をしました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物分割など、共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。