【準共有の基本(具体例・民法と特別法の規定の適用関係)】

1 準共有の基本(具体例・民法と特別法の規定の適用関係)

民法上の『共有』は所有権を対象とするのが原則です。
この点所有権以外の権利が複数の者に帰属することを準共有といい、これについても共有の規定が準用されます。
本記事では、準共有の基本的なことを説明します。

2 準共有を定める条文規定

最初に、準共有を規定する条文を押さえておきます。

<準共有を定める条文規定>

(準共有)
第二百六十四条 この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
※民法264条

3 準共有が認められる権利の種類

準共有が認められる権利の種類としては、物権、債権、無形財産権ととても広いです。

準共有が認められる権利の種類

次のような権利について、準共有が認められる
ア 物権(後記※1イ 債権(後記※2ウ 無形財産権(後記※3 これら以外に、契約上の地位の準共有もある

4 物権の準共有の具体例

物権についての準共有の具体例は多くあります。民法上の用益権・担保物権、特別法上の物権、慣習法上の物権など、幅広いです。

物権の準共有の具体例(※1)

あ 基本

次の『い〜え』のような物権について
→準共有が認められる

い 用益権・担保物権

民法に規定される用益権・担保物件
例=地上権・永小作権・地役権・抵当権
※大判昭和15年5月14日(抵当権につき)
詳しくはこちら|抵当権の準共有(可否の議論とパターン)

う 特別法上の物権

鉱業権・漁業権
詳しくはこちら|鉱業権・漁業権の準共有|抵当権設定・分割請求は制限される

え 慣習上の物権

水利権・温泉権
詳しくはこちら|温泉権、温泉地役権は登記等の公示方法が認められる

5 債権の準共有の具体例

たとえば金銭債権を数人で有する場合は、多数当事者の債権債務関係の規定が適用され、準共有としては扱われません。一方、数人で有する形態が適しているものについては準共有として扱われます。土地賃借権、予約完結権などは準共有が認められます。

債権の準共有の具体例(※2)

あ 原則論

債権に関する準共有の適用について
→性質によって適否が異なる

い 土地賃借権→肯定(概要)

土地賃借権について
→準共有を認める
※大判大正11年2月26日
※大判昭和8年11月22日
詳しくはこちら|賃借権(借地権)の準共有の全体像(明渡請求・分割請求)

う 予約完結権→肯定

予約完結権について
→準共有を認める
※大判大正12年7月27日

6 無体財産権の準共有(概要)

物権・債権以外の権利でも準共有が認められます。
知的財産権などを含む無体財産権が典型的です(※3)
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|無体財産権の準共有の具体例とこれに関する訴訟の当事者適格(共同訴訟形態)

7 契約上の地位の準共有

条文では財産権を数人で有するという記述になっていますが、契約上の地位を数人で有することも準共有として扱います。

契約上の地位の準共有

あ 準共有の適用

契約上の地位が複数の者に帰属する、という準共有がある

い 預金契約上の地位の準共有の例

ア 判決文引用 預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法(民法)264条、252条ただし書)というべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
※最判平成21年1月22日
イ 判例解説(参考) 本判決が、原判決と異なり、預金債権の帰属とは別に、共同相続人全員における預金契約上の地位の準共有をわざわざ観念した上、その保存行為として取引経過開示請求権の単独行使を肯定するという理論構成を採用したのは、相続紛争の実情に鑑みると、共同相続人の一人による取引経過開示請求権の単独行使を預金債権の帰属をめぐる紛争と切り離して認めることが妥当であり、かつ、開示の相手方が預金契約上の地位の準共有者である共同相続人にとどまる限りにおいては、プライバシー侵害や守秘義務違反の問題を容易に回避し得ると考えたためではないかと思われる。
※田中秀幸稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成21年度』法曹会2012年p65、66

8 準共有への民法・特別法の規定の適用(基本)

準共有について適用される法律の規定について説明します。
この点、民法上の共有の規定と特別法が重複することがあります。
この場合の優劣関係をまとめます。

準共有への民法・特別法の規定の適用(基本)

あ 前提事情

準共有の権利について
次の『ア・イ』の規定内容が重複する
ア 民法上の共有の規定イ 特別法の規定

い 原則

『共有の規定』よりも『特別法の規定』が優先される

う 例外

特別法の規定や性質による解釈として
→特別法が優先されることもある
※民法264条

結局、対象となる権利・財産ごとに扱いが決まるのです。

9 債権の準共有に適用される民法・特別法の規定

債権の準共有については、民法上の規定(多数当事者の債権債務関係)が優先的に適用されます。

債権の準共有に適用される民法・特別法の規定

債権の準共有について
債権の規定が優先される
※民法427条以降

10 鉱業権の準共有に適用される民法・特別法の規定(概要)

鉱業権の準共有でも規定の優劣関係が問題となります。
ちょっと複雑な解釈論があります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|鉱業権の準共有|性質論・抵当権設定・分割請求

11 土地賃借権の準共有に関する解釈(概要)

準共有で準用されるのは法律そのもの、だけでなく、判例の解釈も含まれます。判例法も準用されるともいえます。
賃借権の準共有に関する解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃借権(借地権)の準共有の全体像(明渡請求・分割請求)

12 「準共有持分権」という用語の誤り(概要)

用語レベルの話しですが、「準共有持分権」という用語は誤っていると思われます。通常の共有(所有権の共有)であれば「持分権」という用語は誤りとまではいえませんが、「準共有」の場合は「持分」は誤りで、「持分」というのが正しいと考えられます。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|「共有持分権」「準共有持分権」という用語の意味や適否

本記事では、準共有の基本的なことを説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際にいろいろな権利を複数の者でもっている(準共有となっている)ことに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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