【不動産譲渡所得税・贈与税|交換契約・借地と底地の交換・借地明渡】
1 借地権と底地の交換|譲渡所得税の負担が重い
2 交換契約|借地権と底地など|交換特例→非課税
3 交換契約|借地権と底地など|買換特例→課税繰り延べ
4 明渡料の支払による借地明渡|『譲渡所得税』の対象となる
5 無償での借地明渡|地主には多額の『贈与税』が課税される
本記事では『交換』契約における『譲渡所得税』『贈与税』について説明します。
『借地・底地の交換』がその典型例です。
なお,譲渡所得税の基本事項は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産譲渡所得税の基本|譲渡所得額・取得費・譲渡費用の内容・税率
1 借地権と底地の交換|譲渡所得税の負担が重い
借地における取引・紛争解決として『借地権と底地の交換』がよく行われています。
『等価交換』と言われることもあります。
ここで『交換』という契約も『譲渡所得税』の対象となります(前述)。
税務上の扱いはある意味単純です。
<『交換』における『譲渡所得税』|考え方>
『相当額での金銭(価格)』での売却とみなす
この『売却』が2つセットになっている
『有償での所有権移転(譲渡)』という性格に着目した『仮想』です。
<『交換』における『譲渡所得税』|現実の困惑>
『現金の授受(収入)』がない
それなので『納税資金(現金)』が必要となる
通常の売買であれば『値上がり』が生じたら『売却代金(のうち値上がり分)』の一部を納税すれば良いのです。
しかし『交換』の場合は『値上がり』は仮想です。
利益の『現金化』がなされません。
そこで『納税資金不足』が生じがちなのです。
民事的な紛争解決で『後から気付くと遅い(深刻)』というマターです。
2 交換契約|借地権と底地など|交換特例→非課税
借地権と底地などの『交換』契約においては『譲渡所得税の納税資金』の配慮が必要です(前述)。
ここで活用できるのが『交換特例』です。
<固定資産の『交換特例』>
あ 交換特例の概要
個人が,土地(借地権)・建物などの固定資産を『同じ種類』の固定資産と交換した場合
→譲渡がなかったものとする=非課税
い 『借地』に関連する注意
『底地と借地』は『土地と土地』という扱い
→『同じ種類』に該当する
外部サイト|国税庁|タックスアンサー|土地建物の交換をしたときの特例
3 交換契約|借地権と底地など|買換特例→課税繰り延べ
ケースによっては,要件に該当せず『交換特例』が適用できない場合があります。
例えば『個人ではなく法人』が当事者である場合などです。
このような場合は『非課税』は無理ですが『課税繰り延べ』は使えることもあります。
『買換特例』の活用です。
『買い換え』というネーミングから,発想しにくいです。
実際に借地トラブルを扱う弁護士でも知らない人が多いです。
『交換』でも,税務上の扱いは『2つの売却』なのです(前述)。
そこで税務上は『買い換え』のカテゴリに含まれるのです。
<『交換』→買換特例の適用>
一定条件を満たせば,将来譲渡する時まで『課税繰り延べ』ができる
4 明渡料の支払による借地明渡|『譲渡所得税』の対象となる
借地の明渡では,通常『明渡料の提供』が行われます。
税務上は『譲渡(売買)』と同じ扱いとなります(前述)。
<明渡料の支払による借地明渡|税務上の扱い>
『借地権』を『金銭(明渡料)』で購入(売買)した
→『譲渡所得税』の課税対象となる
民法上は『借地契約の終了・解消』です。
税務上は『経済的な効果』に着目して解釈するのです。
5 無償での借地明渡|地主には多額の『贈与税』が課税される
借地明渡が『無償』で実現するケースも生じます。
この場合,地主としては多額の明渡料が不要とできたので,非常にラッキーと思えます。
しかし,税務上は結構重い負担がかかってきます。
<無償での借地明渡(借地の無償返還・概要)>
課税上は借地権相当の価値が無償で移転したと考える
→『贈与』や法人の利益として扱われることがある
→贈与税や法人税の課税につながる
詳しくはこちら|明渡料なしでの借地の明渡(借地の無償返還)における課税
要するに標準的には授受がなされたはずの明渡料が無償で移転したと捉えるのです。
贈与税は非常に重い税率です。
交渉などの解決プロセスでは常に税務面のケアが必要です。
この点,贈与税の納税義務は受贈者が負います。
しかし贈与者も連帯納付責任があります。
詳しくはこちら|税務上の連帯納付責任の基本(相続税・贈与税・固定資産税)
不動産の処理においては当事者間の問題の解決と同じくらいの大きさの税務面のケアが必要と言えます。