【改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)】
1 改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)
賃料増減額請求によって改定する賃料(継続賃料)の算定をすることがあります。
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本
適切な賃料の算定は単純ではありません。
算定手法には多くのものがあります。最終的には複数の手法による試算額を総合的に考えて判断します。
本記事では、算定手法の全体的な種類を説明します。
2 継続賃料の算定手法の種類
まずは継続賃料の算定手法の種類をまとめます。
継続賃料の算定手法の種類
正式な算定(鑑定)では原則的に『ア』〜『エ』の4つを組み合わせて使います(後記)。
『エ』〜『カ』は主に簡略的に目安を算定する時に使います。
以下、主な算定手法の概要を順に説明します。
3 不動産鑑定評価基準で用いる継続賃料算定方法
(1)差額配分法(概要)
賃料算定方法のうち差額配分法の概要をまとめます。大雑把にいうと現在の賃料と適正な新規賃料の間のどこかを改定賃料とするというものです。
差額配分法(概要)(※2)
あ 基本的考え方
『適正な新規賃料』と『従前賃料』との『差額部分』を貸主・借主に配分する
い 算定方法
改定時の正常支払賃料
=改定時の土地の基礎価格 × 正常な期待利回り + 改定時の必要諸経費等
=実際支払賃料+(正常支払賃料−実際支払賃料)×配分率
=実際支払賃料+(差額×配分率)
う 配分率の相場
『2分の1』や『3分の1』
※不動産鑑定評価基準p34(第7章第2節Ⅲ1)
詳しくはこちら|差額配分法の基本(考え方と算定式)
(2)利回り法(概要)
賃料算定方法のうち利回り法の概要をまとめます。大雑把にいうと、従前の賃料を不動産(土地)の価格の変動に合わせて変動させるというものです。
利回り法(概要)(※3)
あ 基本的考え方
利回りが固定される
賃料が地価に連動する(比例する)
い 算定式(概要)
改定賃料
=現在の地価(基礎価格)×継続賃料利回り+現在の必要経費など
※不動産鑑定評価基準p34、35(第7章第2節Ⅲ2)
詳しくはこちら|利回り法の基本(考え方と算定式)
(3)スライド法(概要)
賃料算定方法のうちスライド法の概要をまとめます。大雑把にいうと、従前の賃料を物価の変動に合わせて変動させるというものです。
スライド法(概要)(※4)
あ 基本的考え方
直近合意時の利回りを固定する
この利回りを物価変動率でスライド(比例)させる
い 改定賃料の算定式(概要)
改定賃料
=直近合意時の純賃料×物価変動率+現在の必要諸経費など
※不動産鑑定評価基準p35(第7章第2節Ⅲ3)
詳しくはこちら|スライド法の基本(考え方と算定式)
(4)賃貸事例比較法(概要)
賃料算定方法のうち賃貸事例比較法の概要をまとめます。これは単純で、別の賃貸借契約の賃料を参考にするというものです。
賃貸事例比較法(概要)(※5)
本来は『新規賃料』の算定で用いる時に適した方法である
※不動産鑑定評価基準p35(第7章第2節Ⅲ4)
詳しくはこちら|賃貸事例比較法の基本(個別事情による修正や不採用)
4 総合方式による継続賃料の算定(概要)
以上の4つの算定手法が実際の算定(鑑定)で用いられる主なものです。
これらの4つの試算結果は、総合的に考慮し判断されます。
これを総合方式と呼びます。
総合方式による継続賃料の算定(概要)
あ 総合方式の基本
鑑定や裁判所の判断において
一般的に総合方式が採用されている
『い』の4つの手法による試算賃料を組み合わせる
例;各試算賃料について適切な比重を設定する
い 試算の手法(前記※1)
ア 差額配分法イ 利回り法ウ 賃貸事例比較法エ スライド法 詳しくはこちら|改定賃料算定の総合方式(一般的な比重配分の傾向や目安)
5 参考となる継続賃料算定方法
(1)公租公課倍率法
公租公課倍率法は、正式な継続賃料の鑑定では使わないけれど、土地の賃料を定める場合に使われることがとても多い算定方法です。たとえば固定資産税(と都市計画税の合計額)の2.5倍を賃料とする、という単純でわかりやすい算定方法なのです。
正式な鑑定では使わないけれど、目安、参考としてはよく使う算定方法です。
公租公課倍率法(概要)(※8)
詳しくはこちら|公租公課倍率法の基本(裁判例・倍率の実情データ)
(2)積算法(新規賃料の積算賃料)
積算法という賃料算定手法があります。
これは継続賃料ではなく、適切な新規賃料を算出するためのものです。
しかし、継続賃料の算定手法(前記)の中で使われることもあります。
積算法(新規賃料の積算賃料)(※6)
あ 計算式
積算賃料=基礎価格×期待利回り+必要諸経費など
※不動産鑑定評価基準p32、33(第7章第2節Ⅱ1)
い 地価と地代の関係性
資産の種類 元本 果実 不動産 地価 地代 預貯金(比較) 元金 利息
(3)平均的活用利子率法
地代の相場を算出する簡略な方法として平均的活用利子率法があります。
要するに、地価をベースにした利回りに着目するものです。
相場として統計上の割合(利子率)が公表されています。
正式な算定手法ではありませんが、目安をすぐに知るためには有用です。
平均的活用利子率法(※7)
あ 計算式
地代(賃料)
=対象地の地価×平均的活用利子率
い 算定手法の位置付け
表面利回りによる算定である
積算賃料(前記※6)を簡略化したものといえる
う 平均的活用利子率の実情
エリア
平均的活用利子率
サンプル数
東京都23区・商業地
1.19%
185件
東京都23区・住宅地
0.72%
335件
※平成27年1月1日現在
※更地価格=公示地価ベース
外部サイト|日税不動産鑑定士会|会の調査研究|継続地代の実態調べ
え 具体的利用方法
基準時の地代を求める
例;『う』であれば平成27年
→時点修正をして評価した時期の地代を求める
詳しくはこちら|時点修正・地点修正の算定の方法と典型例
※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p580
6 建物賃貸借における継続賃料の算定(概要)
以上の説明は、借地と建物賃貸借に共通する継続賃料(相当賃料)の算定についてのものでした。この点、継続賃料の算定の中で、建物賃貸借に特有のものについては、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の相当賃料(継続賃料)算定の基本(特徴と総合方式)
本記事では賃料増減額請求の際に問題となる継続賃料(相当賃料)の算定の基本的事項を説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に借地や建物賃貸借の賃料の金額に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。