【不動産競売における一括売却の基本(複数不動産をまとめて売却)】

1 不動産競売における一括売却の基本(複数不動産をまとめて売却)

不動産の競売では、裁判所が不動産を売却します。この売却の方法の1つとして、複数の不動産をセットにして売却する、というものがあります。これを一括売却といいます。
本記事では、一括売却の基本的事項を説明します。

2 一括売却が望まれる状況の具体例

もともと、複数の不動産をセットにして売却した方が、バラバラで売った(個別売却)合計額よりも高く売れるということはよくあります。このような発想を制度にしたものが一括売却なのです。

一括売却が望まれる状況の具体例

ある会社Aに融資している
複数の不動産(土地や建物)に担保を設定してある
今回、Aが支払不能となったので、競売にして回収しようと思う
ただ、全体を一体として売らないと、トータルの価値は下がってしまう
裁判所に全体をセットで売却して欲しい

3 一括売却の制度趣旨

一括売却の制度の趣旨は、前述のように、セットで売った方が高く売れるということや、土地と建物のように、片方だけを売ると利用権原の問題が表面化してしまうことを避けるということもあります。

一括売却の制度趣旨

不動産は各別に売却するのが原則であるが、一括して売却する方が高価に売却できるのであれば、それは債権者・債務者双方の利益となるし、利用上の牽連性があれば買受人の便宜にも資するため、例外的に一括売却を認めたものである
※上原敏夫ほか『民事執行・保全法 第2版補訂』有斐閣p127

4 一括売却の要件(概要)

一括売却をするかどうかは、執行裁判所が職権で判断、決定します。では、どのような状況であれば裁判所が一括売却を採用するのでしょうか。これについては条文上は相当とするというように、具体的な判断基準は記述されていません。これに関する解釈は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産競売における一括売却(民事執行法61条)の要件

5 一括売却の職権主義と申立人の意見書

一括売却の判断は裁判所の職権ですので(前述)、当事者が申し立てることはできません。ただし実際には裁判所が自発的に判断するというわけではなく、当事者が一括売却を希望することやその理由(合理性)を意見書として作成して裁判所に提出する手法をとります。

一括売却の職権主義と申立人の意見書

あ 一括売却の職権主義

一括売却の決定は、執行裁判所が職権で行うことができる
利害関係人の申立は必要ではない
利害関係人は申立権をもたない
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p588

い 意見書提出

実務では、申立人が一括売却の希望や理由を意見書として裁判所に提出する方法がとられている

6 一括売却の裁判(形式・裁量)

競売でも一般的な売却でも、複数の不動産を売却する時に、セットで売却(一括売却)した場合と、バラバラに売却(個別売却)した場合とで、どちらが有利(高く売れる)か、ということは一概にはいえません。競売手続で裁判所が一括売却にするかどうかの判断でも、個別的に裁判所が決める、つまり裁判所に裁量があるということになっています。

一括売却の裁判(形式・裁量)

あ 形式

裁判は、決定の形式によって行う
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p588

い 裁判所の裁量

利用上の牽連性が認められるとしても、一括売却に付すとなると売却基準価額が高くなり、その結果買受希望者を減少させるという面がある
一括売却と個別売却のいずれが好ましいかは微妙な判断を要する
→一括売却の要件が充足されている場合も常に一括売却をしなければならないわけではなく、一括売却をするか否かは原則として執行裁判所の裁量に委ねられる
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p589

7 一括売却の効果

裁判所が一括売却の決定をした場合、セットでの売却が行われます。手続としては併合された扱いです。
一括売却の場合、売却代金も経費(執行費用)についても、複数の不動産の合計の金額として定まることになります。そこで、売却代金や執行費用について、合計金額を複数の不動産に割り付けることになります。

一括売却の効果

あ 売却手続

一括売却の決定がなされれば、一括売却の対象となる不動産に係る強制競売または競売事件については、売却基準価額売却各事件で共通のものとなるという意味で、併合されたものとして進行する
各不動産は1個の売却単位となる
売却基準価格の決定や売却許否の決定などが一括して行われる
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p588

い 売却代金・執行費用の割付(概要)

売却代金、執行費用は、一括売却の対象(複数の不動産)に、売却基準価額(評価額)で按分して割り付ける
詳しくはこちら|一括売却における売却代金・執行費用の割付

8 一括売却の決定に対する不服申立

一括売却にすることによって、合計の売却金額が下がる、つまり不利になることもあります。それなのに裁判所が一括売却を決定した場合、当事者は不服申立ができます。通常、執行異議を行いますが、売却を不許可とするよう要請する対応や執行抗告もあります。

一括売却の決定に対する不服申立

あ 執行異議

一括売却の決定は、執行裁判所の執行処分であり、執行抗告を許す特別の規定もない
執行異議の対象となる
配当を受けるべき債権者および債務者は執行異議により、不服を申し立てることができる

い 売却決定期日における意見陳述

一括売却の決定に重大な誤りがあることは、売却不許可事由である
※民事執行法71条7号
配当を受けるべき債権者および債務者は、一括売却の判断についての意見売却決定期日において陳述することができる
※民事執行法70条

う 執行抗告

配当を受けるべき債権者および債務者は、売却許可決定に対する執行抗告の理由とすることもできる
※民事執行法74条2項
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p589

9 一括売却の決定がないことに対する不服申立

前述のように、一括売却の決定は裁判所の職権です。当事者が希望しても裁判所が一括売却をしない(個別売却とする)ということもあり得ます。
裁判所の裁量は完全に自由というわけではないので、一括売却の不採用が不合理であれば売却不許可の理由となることがあります。

一括売却の決定がないことに対する不服申立

あ 原則

個別売却が原則であり、個別売却をすることに特段の執行処分は必要ない
一括売却の決定がないことに対して執行異議により不服を申し立てることはできない

い 例外=裁量逸脱

一括売却の決定をしないことが裁量の逸脱と評価できる場合
売却の手続に重大な誤りがある場合に該当しうる
※民事執行法71条8号

う 売却決定期日における意見陳述

配当を受けるべき債権者および債務者は、一括売却の不採用についての意見売却決定期日において陳述することができる
※民事執行法70条

え 執行抗告

配当を受けるべき債権者および債務者は、売却許可決定に対する執行抗告の理由とすることもできる
※民事執行法74条2項
※東京高決平成21年6月30日(執行抗告の余地を認めている)
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p590

10 一括競売との違い(概要)

以上は「一括売却」についての説明でしたが、よく間違える用語として「一括競売」というものもあります。日本語としては同じように思えますが、専門用語としてはまったく別のものです。抵当権実行の時に、抵当権が設定されていない不動産も、便宜的に売却する、という制度です。
詳しくはこちら|土地のみの抵当権で建物も競売できる制度;一括競売

本記事では、競売手続における一括売却の基本的事項について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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