【不動産売買・賃貸×過去の人の死|告知義務・損害賠償|包括的判断基準】

1 不動産の売買・賃貸×『人の死』の告知義務|判断要素の抽出
2 『人の死』の告知義務|主要な要素の『嫌悪度傾向』
3 複数事情の『嫌悪度』を合計して『トータル嫌悪度』を特定する
4 『トータル嫌悪度』から『告知義務・損害賠償』を判断する|基準
5 『判断基準』の使用例|『売買』における『告知義務』の範囲
6 『判断基準』の使用例|『賃貸』における『賃料ディスカウントレート』

1 不動産の売買・賃貸×『人の死』の告知義務|判断要素の抽出

不動産の売買・賃貸では『過去の人の死』が法的責任につながることがあります。
本記事では法的責任の判断基準を包括的にまとめます。
まずは『告知義務の有無』の判断要素を分析します。
これは『不動産の評価額の減少があるかどうか』と関連します。
いずれにしても,判断要素は多くの裁判例の蓄積があります。
抽出した判断要素を整理した上で,定量的,再現性を求めて,可能な限りまとめます。

<告知義務の有無の判断要素>

あ 事故からの経過年数
い 事故後の利用状況
う 近隣住民との関係性(付き合いの程度)

ア 一棟の建物の規模イ 当該貸室の居住形態(単身用かファミリー向けか等)ウ 所在地の地域特性(人の流動性が高い都心部か低い地域か)

え 事故の有名性・話題性

※東京地裁平成19年8月10日
※東京地裁平成13年11月29日
※他裁判例多数

2 『人の死』の告知義務|主要な要素の『嫌悪度傾向』

告知義務の有無,損害賠償のいずれも,常識的に嫌悪する程度を軸に考えると整理できます。
嫌悪する程度が高いほど『告知義務肯定』『損害賠償が大きい』という方向の判断につながります。
次に主要な類型的要素ごとに『嫌悪度傾向』をまとめます。

嫌悪度傾向のまとめ>

嫌悪度
契約形態 賃貸 売買
対象物件(売買) 土地 建物
用途 店舗,事務所 居住用
死の場所 敷地外 共用部分など 物件内
死因 自然死 事故死,自殺 殺人
物件の流動性 高い 低い

※『大・小』=『嫌悪度』の程度
※特殊要因;『介在者』による嫌悪度減少現象
『1年以上の入居』がある場合→『年数』を半分にする

3 複数事情の『嫌悪度』を合計して『トータル嫌悪度』を特定する

前記の『事情(判断要素)』の組み合わせによって『嫌悪度の合計』を特定します。
具体例として3つの組み合わせの判断の例を次に挙げます。

<トータル嫌悪度が『大』,『小』となる具体例>

あ 『自然死』

原則的にトータル嫌悪度=なし→告知義務,損害賠償なし

い 賃貸・居住用・自殺・物件内・流動性高い

トータル嫌悪度=小

う 賃貸・殺人・物件内・流動性低い

トータル嫌悪度=大

4 『トータル嫌悪度』から『告知義務・損害賠償』を判断する|基準

事案による『トータル嫌悪度』を特定したら『告知義務・損害賠償』が判断できるようになります。
対応を次にまとめます。

<告知義務の有無・損害賠償算定のまとめ>

トータル嫌悪度 トータル嫌悪度 告知義務の有無 損害算定 賃料相場 告知義務の有無
1年後まで 3年後まで 告知義務あり 全額 ゼロ あり
1〜2年後 3〜7年後 告知義務あり 半額 半額 あり
2年以降 7年以降 告知義務なし ゼロ 通常どおり なし

※事情によって,この『年数』を上下に調整します(次表参照)。

5 『判断基準』の使用例|『売買』における『告知義務』の範囲

以上の判断基準を使って『判断』した例をいくつか示します。

売買における類型的事情→告知義務の範囲>

死の種類 心理的瑕疵残存期間
自然死,病死(寿命,大往生) 該当しない
自殺 7年
火災による死亡(事故死) 7〜10年
殺人事件(他殺) 10年

6 『判断基準』の使用例|『賃貸』における『賃料ディスカウントレート』

事情を元に『賃料の減額』を判断・算定した例をいくつか示します。

賃貸における死因別賃料ディスカウント目安

死の種類 賃料ディスカウント率(目安)
自然死,病死(寿命,大往生) 0〜10%
不慮の事故死 20〜50%
自殺 30〜50%
殺人事件(他殺) 70〜80%

※前提=死後2年以内,他の事情には特殊なものはない。
多くの賃貸市場や裁判例から読み取れるものをまとめたものです。
実際には,他の需給という一般的な賃料相場へ影響を与える要素で大きく変わります。

なお,『賃貸借』ではなく『旅館業』の場合は『人の死』の告知義務は一般的にありません。
詳しくはこちら|旅館業×『過去の人の死』告知義務|賃貸借との違い・ワケあり物件有効活用

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