【対抗関係(登記欠缺の正当な利益を有する第三者)にあたるかの判断の具体例】
1 対抗関係(登記欠缺の正当な利益を有する第三者)の判断の具体例
対抗関係という状況では、登記などの対抗要件で権利の優劣が判断されます。
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
この点、対抗関係といえるためには、対立する者が、民法177条の第三者に該当している必要があります。
詳しくはこちら|民法177条の適用範囲(『第三者』の範囲・登記すべき物権変動)の基本
実際には、対抗関係かどうか(民法177条の第三者に該当するかどうか)がはっきりしない状況もあります。
そこで、本記事では、いくつかの具体的な状況について、対抗関係に該当するかどうかの判断を説明します。
2 対抗関係に立つ『第三者』の範囲(概要)
『対抗関係』といえるかどうか、の解釈が問題となることがあります。
条文で言うと、民法177条の『第三者』の範囲、ということになります。
判例における、根本的な解釈をまとめます。
対抗関係に立つ『第三者』の範囲(概要)
ア 当事者もしくはその包括承継人以外の者イ 登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者 ※大連判明治41年12月15日
詳しくはこちら|民法177条の適用範囲(『第三者』の範囲・登記すべき物権変動)の基本
実際に正当の利益があるかどうか、が次に問題となります。
状況をカテゴライズして説明します。
3 相続に関する対抗関係となるかならないかの判断
相続に関係する場面で、登記をしなくても権利取得を対抗できる(対抗関係とならない)場合と登記がないと対抗できない(対抗関係となる)場合があります。整理します。
相続に関する対抗関係とならない権利取得
あ 法定相続分の取得→対抗関係否定
登記をしなくても第三者に対抗することができる
→常に相続人が優先となる
※最高裁昭和38年2月22日
い 遺言による法定相続分を超える権利取得
ア 平成30年改正民法施行前→対抗関係否定
2019年7月1日より前に開始した相続について
登記をしなくても第三者に対抗することができる
→常に相続人が優先となる
※最高裁平成14年6月10日
イ 平成30年改正民法施行後→対抗関係肯定
2019年7月1日以降に開始した相続について
登記をしなければ第三者に対抗することができない
→登記により第三者との優劣を判断する
※民法899条の2
詳しくはこちら|『相続させる』遺言(特定財産承継遺言)の法的性質や遺産の譲渡との優劣
う 遺産分割による権利取得
ア 分割後の第三者との関係→対抗関係肯定
法定相続分を超過する部分に限り
→登記をしなければ第三者に対抗することができない
→登記により第三者との優劣を判断する
※最高裁昭和46年1月26日
イ 分割前の第三者との関係→第三者保護規定による処理(概要)
対抗要件を得た第三者は保護(優先)される
※民法909条ただし書
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)相続(2)補訂版』有斐閣2013年p430
詳しくはこちら|遺産分割『前』の第三者と遺産分割の優劣(権利保護要件としての登記)
え 相続放棄による権利喪失
(一般論としては、権利の喪失も登記をしなければ第三者に対抗することができない)
相続放棄は絶対的に無権利となる
→登記をしなくても第三者に対抗することができる
※最高裁昭和42年1月20日
お 特定遺贈・包括遺贈による権利取得(概要)
登記をしなければ第三者に対抗することができない
→登記により優劣を判断する
詳しくはこちら|生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断(対抗要件or遺言の撤回)
4 生前処分と遺言が抵触するケースの優劣(概要)
生前の処分と遺言の内容が衝突するケースもあります。
この場合、遺言の撤回として扱われれば、結果的に生前処分が効力を持ったままとなります。
しかし、対抗関係として先に登記を得たほうが優先される(権利を得られる)ということもあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|生前処分と遺言の抵触|前後関係・遺言条項の種類・登記などで優劣が決まる
5 取得時効に関する対抗関係となるかならないかの判断
取得時効に関係する場面で『対抗関係』と言えるかどうかの判断をまとめます。
取得時効に関する対抗関係となるかならないかの判断
あ 時効完成『前』の権利取得者
『第三者』に該当しない
=常に時効取得が優先となる
※最高裁昭和41年11月22日
い 時効完成『後』の権利取得者
『第三者』に該当する
→登記により優劣を判断する
※大連判大正14年7月8日
※最高裁昭和33年8月28日
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当する者の具体的類型
6 共有に関する対抗関係となるかならないかの判断(概要)
共有持分が移転(帰属が変更)した場合に、これを第三者に主張するには登記が必要か、必要ではないか、という問題があります。持分の譲受は原則そのものなので登記が必要です。
共有持分割合についても、第三者(共有者Aと、共有者Bから持分を譲り受けた者の相互の関係)に対して主張するには登記が必要です。
共有持分放棄による権利の変動の性質は、譲渡とは違って原始取得ですが、第三者に主張するには登記が必要です。
共有物分割による権利の変動は、たとえば全面的価格賠償でA持分がBに移転した場合、持分の売買(譲渡)の性質があることから、第三者に主張するには登記が必要だと思ってしまいますが、民法254条が適用され、持分の譲受人も「当事者」扱いとなる、つまり、登記がなくても主張できる、ということになっています。
共有に関する対抗関係となるかならないかの判断(概要)
あ 共有持分の譲受→対抗関係肯定
ア 対抗関係(『第三者』該当性)
共有持分の譲受があった場合、他の共有者は「第三者」に該当する
譲受人は、持分移転登記がないと他の共有者に持分取得を対抗できない
※大判大正5年12月27日
イ 対抗関係が具体化する典型例
・共有物分割請求における相手方(共有者)の特定
・共有物の使用方法の協議(合意)の当事者(共有者)の特定
い 共有持分割合(対他の共有者からの持分譲受人)→対抗関係肯定
共有者Aの共有持分割合について、Aと、他の共有者からの持分の譲受人は対抗関係にある
詳しくはこちら|共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)
う 共有持分放棄→対抗関係肯定
実体法上は放棄者の共有持分が消滅し、他の共有者が共有持分を取得する
登記手続は持分移転登記となる
共有持分放棄による取得と持分譲渡は対抗関係となる
※最高裁昭和44年3月27日
詳しくはこちら|共有持分放棄の登記と固定資産税(台帳課税主義・登記引取請求)
え 共有物分割→否定
分割契約上の債権は民法254条により、持分の譲受人に承継される
持分の譲受人は、共有物分割の合意についての「当事者」という扱いになると思われる
(共有物分割訴訟の判決も同様であると思われる)
詳しくはこちら|民法254条が共有物分割契約上の債権に適用されるか否かの判例・学説
7 賃貸中の不動産の譲受人の賃貸人たる地位の取得(肯定・概要)
借地に関して『対抗関係』が生じます。
賃貸中の不動産の譲受人の賃貸人たる地位の取得(肯定・概要)
あ 前提事情
対抗力ある賃借権の目的となっている不動産が譲渡された
→新所有者は賃貸人たる地位を承継する
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
い 対抗関係
新所有者の賃貸人たる地位の承継と賃借人は対抗関係となる
=賃借人は民法177条の『第三者』に該当する
※最高裁昭和49年3月19日
詳しくはこちら|賃貸人たる地位の承継と所有権移転登記の関係(判例=対抗要件説)
8 虚偽取引に関する対抗関係となるかならないかの判断
虚偽の取引・仮装した登記、という場合の対抗関係の判断をまとめます。
虚偽取引に関する対抗関係となるかならないかの判断(概要)
あ 虚偽表示による譲受人
通謀虚偽表示による譲渡は無効である
→譲受人は民法177条の第三者に該当しない
→常に実体上の所有者が優先となる
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例
い 虚偽表示の後の悪意の転得者
通謀虚偽表示による譲受人から悪意で譲り受けた者(転得者)は民法177条の第三者に該当しない
転得者が善意であれば民法177条の第三者に該当する
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例
う 虚偽表示の後の善意の転得者
通謀虚偽表示による譲受人から善意で譲り受けた者(転得者)は権利を取得する結果となる
※民法94条2項
→転得者は民法177条の第三者に該当する
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当する者の具体的類型
9 登記取得者の主観の影響(背信的悪意者理論・概要)
以上のように、民法177条の『第三者』に該当するかどうかは、取引の内容や時期によって判断します。当事者の主観は原則的にこの判断に影響しません。
しかし、悪質性が高いようなケースでは例外的な扱いがなされます。背信的悪意者排除理論と呼ばれるものです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|登記を得た者の主観による対抗力への影響(背信的悪意者排除理論)
10 実質的無権利者は第三者に該当しない(概要)
以上で説明した分類の中には、実質的無権利者であるために民法177条の第三者に該当しないというものも含まれています。
この点、別の記事で、実質的無権利者の具体例だけを集めて説明しています。
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例
11 土地不法占有の責任を負う者と建物登記(概要)
土地の占有権原のない者が建物を所有している、つまり不法占有している場合、土地所有者は建物収去・土地明渡や損害賠償を請求できます。誰に対して請求できるか、つまり、不法占有の責任を負う者は実体上の建物所有者なのか、所有権登記名義を有している者なのか、という問題があります。判例は実体上の所有者であるという見解をとっています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地不法占有の責任を負う者と建物登記
12 土地工作物責任と対抗要件(概要)
対抗要件が関係してくるイレギュラーな状況として『土地工作物責任』があります。
責任を負う所有者とは、登記を持つ者(けれど実際には権利がない者)が含まれるかどうかという解釈論があります。
最高裁の確定的な判断がありません。見解が分かれている状態です。
土地工作物責任と対抗要件(概要)
あ 対抗要件否定説
登記は関係ない
純粋に実体上の所有権者が『所有者』としての責任を負う
い 対抗要件肯定説
登記上の所有者も『所有者』としての責任を負う
詳しくはこちら|土地工作物責任の全体像(条文規定・登記との関係・共同責任)
本記事では、対抗関係が生じるかどうかについての具体的状況を説明しました。
実際には、細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に対抗関係(権利の対立)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。