【サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)】
1 サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)
サブリースは収益物件(賃貸用建物)の運用の方式として多くの場面で活用されています。
本記事では、サブリースの基本的事項を説明します。
2 サブリース契約の仕組み・特徴
サブリースといっても、実際には多くのバリエーションがあります。共通することは、サブリース事業者がオーナーから建物全体を一括して借り上げて、サブリース事業者が入居者を募集して賃貸する、という仕組みです。
オーナーとしては、賃貸管理の業務をしなくて済むとともに、空室リスクを避けることができます。つまり、空室があってもなくても一括借上げの賃料が確実に入ることになるのです。
一方、サブリース事業者は入居者の募集を含む管理業務を行い、入居者から賃料収入を得ます。一方、賃料収入が大きいか小さいかに関わらず、オーナーに賃料を払うことになります。得る賃料と支払う賃料の差額が実質的なサブリース事業者の収入となります。いわゆる利ざやです。
サブリース契約の仕組み・特徴
あ サブリースの仕組み
サブリース事業者が賃貸住宅・オフィスを一括して借り上げる
サブリース事業者は入居候補者=エンドユーザーを探して転貸する
サブリース事業者が自ら使用(入居)するわけではない
い オーナーの立場
賃料収入が一定になり安定する
賃料が保証された状態となる
う サブリース事業者の立場
ア 業務としての整理
管理・維持のノウハウを活用する
転貸による収入を確保するよう努力する
イ 経済的な整理
空室リスクを負担する一方、転貸利益のを得る
え ファンド組成におけるサブリースの活用
ファンドの投資対象とする前提として、サブリースを設定するケースがある
ファンドにとって、将来の利益のぶれを回避(抑制)できる
3 サブリースの利ざやの実質と相場
サブリース事業者の収入となる利ざやとしては、入居者から得る収入の10%程度ということがよくあります。この点、サブリースの仕組みに、建物建築の費用の貸付などが関わることもあります。このように特殊性が強い場合には、利ざやが、この相場から大きく離れるということもあります。
サブリースの利ざやの実質と相場
あ 利ざやの意味
転貸賃料の方が原賃料よりも高い
この差額はサブリース業者(原賃借人・転貸人)が取得する
管理業務や空室リスクなどの対価である
い 利ざやの相場
ア 一般的な相場
転貸賃料の10%前後が利ざやとなっていることが多い
詳しくはこちら|サブリースの逆ざやによる賃料減額を否定した裁判例(平成20年千葉地判)
事案によっては大幅に異なる構造となっていることもある
イ 特殊な事例
サブリース事業者の行う業務の価値が大きいケースでは、転貸賃料の86%が利ざやとなることもある
詳しくはこちら|サブリースの賃貸借該当性・暴利性(7倍の賃料)を判断した裁判例(イクスピアリ事件)
4 サブリース契約の性質に関する解釈論(概要)
サブリースに関する法的な問題として、賃貸借にあたるかどうかという解釈論があります。以前は見解が分かれていましたが、平成15年判例で賃貸借にあたるという見解に統一されました。
サブリース契約の性質に関する解釈論(概要)
あ 従前
(サブリースの仕組みの中のマスターリースについて)
賃貸借契約に該当するかどうかという解釈に統一的見解がなかった
賃貸借契約ではなく、賃貸事業に関する共同事業・パートナーシップである、という見解もあった
賃貸借契約にあたらない場合、民法・借地借家法が適用されなくなる
い 平成15年最高裁判例
平成15年判例により、法解釈・見解が統一された
関係
契約の俗称
法的な契約の種類
オーナー・サブリース事業者間
マスターリース(原賃貸借)
賃貸借契約
サブリース事業者・エンドユーザー(居住者)間
サブリース(転貸借)
賃貸借契約
※最高裁平成15年10月21日
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
5 サブリースに適用されるルール
前述のように、サブリースはふたつの賃貸借という捉え方をします。ふたつの賃貸借のうちマスターリース(原賃貸借)も賃貸借ということになるので、民法や借地借家法で(建物の)賃貸借を前提とする規定が適用されます。
具体的には、対抗要件(登記)や賃料増減額請求、法定更新(更新拒絶のためには正当事由が必要)といった規定が適用されます。
サブリースに適用されるルール
あ 対抗要件(概要)
転借権(転貸借の権利)は、対抗要件を得ると第三者に対抗できる(後記※1)
い 賃料増減額請求(概要)
建物賃貸借であるため、賃料増減額請求が認められている
賃料増減額を認めるかどうかの判断では、サブリースの特徴である賃料保証の目的が尊重される
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
う 法定更新(更新拒絶)
賃貸人が更新拒絶をするには正当事由が必要である
サブリース(のマスターリース)の更新拒絶は、(一般的な事案よりは)正当事由が認められやすい(後記※3)
6 サブリースの終了における正当事由(概要)
前述のように、サブリース契約も賃貸借契約として借地借家法の適用があります。そこで、賃貸人から契約を終了することは制限されることになります。具体的には、明渡料の提供などの正当事由が必要になります。ただし、一般的な建物賃貸借契約とは違う特殊性があるので、正当事由は認められやすい傾向があります。
サブリースの終了における正当事由(概要)(※3)
あ 正当事由の要否→必要
サブリース(のマスターリース)について
賃貸人が更新拒絶をするには正当事由が必要である
い 正当事由の判断の傾向(概要)
サブリース(のマスターリース)の更新拒絶は、一般的な事案よりは、正当事由が認められやすい
通常、一定の明渡料が必要になる
詳しくはこちら|サブリースの終了(更新拒絶)における正当事由の判断と明渡(占有移転)の方式
7 転貸借の対抗要件(概要)
前述のように、転貸借も賃貸借のひとつです。そこで、対抗要件の制度(規定)が適用されます。
たとえば、賃貸借の対象物(建物)が譲渡された、または抵当権が実行されたことによって第三者が所有者となった場合でも、優先する対抗要件があれば、新所有者は転貸借を受け入れることになります。
転貸借の対抗要件とは、単純に考えると転借権の登記になりますが、実際には所有者がそのような登記をさせないのが通常です。この点、原賃貸借(賃借権)の対抗要件があり、かつ、適法な転貸(承諾を得ている)であれば、転借権の対抗要件がある扱いになります(※1)。
詳しくはこちら|適法な転貸借の基本(民法613条・適法扱いとなる状況・効果の全体像)
本記事では、サブリースの基本的事項を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリースに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。