【不動産の表示登記の基本(登記事項など)】
1 不動産登記の表題部には物理的状況が記録される
2 表示登記の登記事項は細かく定められている
3 表題部の『所有者』は所有権登記の効力はないが,証明の1つになる
4 新築建物の表示登記申請では,『所有者であることの裏付け』が必要とされる
5 表題部『所有者』に真実の所有者との齟齬があると好ましくない
6 形式的な所有者を登記する例
1 不動産登記の表題部には物理的状況が記録される
不動産については登記システムによりいろいろな情報が記録→公開されることになっています。
登記される情報を分類してみます。
表示の登記はその一部なのです。
<不動産登記事項の分類(参考)>
あ 表示に関する登記
対象=物理的状況の情報(後記※1)
『表題部』に記録されます。
『表題部登記』や『表示の登記』と言うこともある
い 権利に関する登記
対象=権利の情報
具体例=所有権・担保権(抵当権など)・用益権(地上権など)
所有権は『甲区』,その他の権利は『乙区』に記録される
2 表示登記の登記事項は細かく定められている
表題部は物理的状況に関する情報が登記されます。
例外的に所有者も登記事項です。
登記事項をまとめると次のようになります。
<主要な表題部登記事項(※1)>
あ 土地
・所在
・地番
・地積
・地目
・所有者
い 建物
・所在
・家屋番号
・床面積
・構造
・所有者
表題部は権利関係を記録するセクションではありません。
しかし,『所有者』の欄はあり,登記することになっています。
ただし,あくまでも参考という趣旨です。
3 表題部の『所有者』は所有権登記の効力はないが,証明の1つになる
『所有権の登記』は多くの場合,所有権の強力な裏付けとなります(対抗力;民法177条)。
現実に,不動産売買で代金と交換に登記を移転するのが一般的です。
ここでの所有権の登記は,あくまでも『甲区』のものです。
『表題部の所有者』は所有権の登記ではありません。
ただし,まったく無意味かというとそんなこともありません。
実際に,甲区の登記がなされていないケースや,甲区に所有権登記がなされていても,不正であると思われるようなケースにおいては,紛争となり,所有権の証明が必要となります。
こんな場合は,表題部所有者が証明の有力な証拠の1つとして使われることになります。
逆に言えば,表題部所有者となっているだけでは所有権の証明として成立しない可能性もあります。
また,甲区に正式に所有権の登記(保存登記)を行う場合は,原則として表題部所有者だけが申請できることになっています(不動産登記法74条1項1号)。
なお,借地上の建物に,表題部所有者が登記されていれば,借地権の対抗要件になるという判例もあります。
※最高裁昭和50年2月13日
別項目;借地権の対抗要件
4 新築建物の表示登記申請では,『所有者であることの裏付け』が必要とされる
表題部の登記を行う場合,『所有者であること』について簡易的な資料が必要とされます。
通常,表示の登記を新たに行うのは,新築建物の場合です。
この場合,所有者であることの一定の裏付けとして次のような資料が必要とされます。
<建物新築の表示登記申請の必要書類の例>
・建築確認申請書
・確認済証
・検査済証
・工事完了引渡証明書
・火災保険の保険証書
5 表題部『所有者』に真実の所有者との齟齬があると好ましくない
実際に,表題部所有者が,実際の所有者とは異なる場合は実在します。
親族間や借地の場合で,形式的に名義を貸す,といったケースです。
このような場合,後から,複数の者が実際の所有者であると主張して紛争になることがあります。
当初は仲が良くても,長期間が経過したり,相続で代が変わった時に問題が発生することが多いです。
<表題部所有者と真実の所有者の齟齬>
あ 発想
後から相続や売買の予定があるので,登記手続を短縮したい
表示の登記の『所有者』と一時的に,実際の所有者と違う人にしておきたい
い リスク
実際の所有者が不明確になる
次のようなリスクにつながる
複数の者が所有者であると主張する=トラブルになる
う 刑事罰
ア 構成要件
意図的に真実とは異なる登記をした
→公正証書原本不実記載等の罪に該当する
イ 法定刑
懲役5年以下or罰金50万円以下
※刑法157条1項
6 形式的な所有者を登記する例
なお,実質的な所有者と登記上の所有者が食い違う合法的なケースもあります。
<形式的な所有者を登記する例>
・譲渡担保
・所有権留保
・仮登記担保
別項目;非典型担保;譲渡担保,所有権留保,仮登記担保