【土地・建物明渡の強制執行における目的外動産の処理(執行官保管・廃棄処分)】

1 土地・建物明渡の強制執行における目的外動産の処理(執行官保管・廃棄処分)

土地や建物の明渡請求を認める判決を獲得した後、強制執行をする局面では、残置されている動産の処理が問題となります。最終的には執行官が売却するか、廃棄処分をすることになりまうす。
本記事ではこのような目的外動産の処理について説明します。

2 目的外動産の執行官保管(保管替え・断行日決定・告知)

目的外動産の処理の選択肢のうち、最も通常のものは、執行官保管です。いったん、執行官が保管するのです。動産をどかすところまでは明渡の実現に含まれますが、廃棄するとしたら動産の所有権を侵害してしまうのでできないのです。

目的外動産の執行官保管(保管替え・断行日決定・告知)

あ 搬出→保管替え

執行官が執行補助者に『整理・梱包・搬出・保管』を指示する
『保管替え手続』により、占有を執行官に移す
※民事執行法168条6項

い 断行日の執行官の決定|概要

執行官が保管に関する事項を指定する

う 執行官の決定|決定・告知事項

ア 保管場所イ 保管料ウ 保管期限エ 売却実施日or廃棄予定日 債務者が期限内に引き取らない場合
オ 『保管人』(を選任する)

え 執行官の告知|方法

ア 執行場所での掲示 『告知書』を執行場所に掲示する
・告知書の記載内容
『執行官が保管している』ことなど
・掲示場所
例;玄関・入口などの見やすいところ
イ 債務者への告知 債務者に文書で告知する

法律上は『執行官の判断・権限』がほとんどです。
実務上は、大きな利害を持っている『債権者』の意向が尊重されます。

実務上の『債権者の関与』

『目的外動産の保管場所・保管人推薦』の上申書
債権者(代理人)が断行日までに書面を提出する

3 執行官保管|保管人・保管料・保管期間|執行官が決定する

『執行官保管』の場合には次のような条件が執行官に決定・指定されます。

執行官保管|保管人・保管料・保管期間

いずれも執行官が判断・選任する
あ 保管人

執行補助者である
善管注意義務をもって管理する
※執行官規則12条

い 保管料

倉庫の賃料・住居の賃料を基準にする

う 保管期限

ア 法律上の規定;『競り売り期日』指定 保管から1週間以上1か月以内の日
※民事執行法規則154条の2第1項、115条
イ 実務の標準 2週間〜1か月

4 執行官保管|保管場所|対象物の種類によって異なる

執行官保管における保管場所の具体例などをまとめます。

執行官保管|保管場所

あ 家財道具

例;債権者が契約した営業倉庫・債権者自身の倉庫・住居内
例外的に『目的建物内の保管』が認められることもある

い 自動車

自動車本体 原則;屋根付きガレージ 車検証・損害保険証書 執行官室で領置 保管人が管理

う 現金

執行官名義で法務局に供託する

え 絵画などの美術品

専門倉庫に委託(保管)する

5 執行官保管→債務者に引き渡す義務

執行官保管での『保管』というのは一時的なものです。
最終的には『債務者に引き渡す』こととされています。

執行官保管→債務者に引き渡す義務

債務者・代理人・同居の親族or使用人・従業員で相当のわきまえのある者に引き渡す
→債務者は、期限までは債務者は引き取ることができる
※民事執行法168条5項

一方、債務者が引き取らない場合は『売却』します。
売却の方法などについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|目的外動産の特殊な売却手続(即時・即日・近接日売却・緊急換価)

6 価値なしの動産→廃棄処分

執行官が目的外動産の価値がないと判断した場合には、廃棄することになります。
なお、債務者に引き渡そうとして、債務者が引き取らないと表明した場合にも、廃棄することになります。

価値なしの動産→廃棄処分

客観的な換価価値が認められない動産は、廃棄することができる(不動産明渡実務419頁、基本法コンメ493頁〔小林=榎本〕)。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1579

この場合は、執行官が執行補助者に搬送・廃棄を指示します。
実際には廃棄物処理業者に発注します。
この費用も執行費用として、現実には債権者が負担することになります。
債権者が引き取るから費用をかけて廃棄処分をしなくて良いという発想も生じます。
しかし廃棄処理明渡執行(=債権者への占有移転)の内容の1つです。執行官の判断でアレンジすることは通常できません。

7 目的外動産|特殊な廃棄方法|位牌・遺骨・PC・HDDなど

目的外動産における廃棄方法について、特殊なフローもあります。

目的外動産|特殊な廃棄方法

あ 位牌や遺骨

寺社に供養を依頼する

い PC・HDD・サーバー

売却は控え、廃棄する
内蔵されているデータの漏洩ケアのため

<参考情報>

最高裁判所事務総局民事局監修『執行官提要』第5版 法曹会p277〜

本記事では、土地・建物の明渡の強制執行における目的外動産の処理について説明しました。
実際には、具体的な状況によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地や建物の明渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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