【建物・マンション売買における水害・浸水リスクの責任】
1 建物売買における浸水リスクの責任(総論)
2 建物売買における浸水リスクと瑕疵の判断
3 マンション売買×浸水|事案
4 マンション売買×浸水|裁判所の評価
5 マンション売買×浸水|裁判所の判断
6 マンション売買×駐車場の浸水|事案
7 マンション売買×駐車場の浸水|裁判所の判断
8 過去の浸水の説明義務と仲介業者の行政責任
1 建物売買における浸水リスクの責任(総論)
浸水リスクは建物の活用に大きな影響があります。
売買の対象建物に水害や浸水リスクがあったケースでは売主や仲介業者の責任が認められることがあります。
また,建築した業者の責任が生じることもあります。
本記事では,不動産の浸水リスクによる責任について説明します。
なお,土地の浸水リスクについては,瑕疵が否定される傾向が強いです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地売買と場所的・環境的要因(浸水リスク)に関する瑕疵
2 建物売買における浸水リスクと瑕疵の判断
建物の売買における浸水リスクは『瑕疵』として認められることもあります。
<建物売買における浸水リスクと瑕疵の判断>
あ 『瑕疵』判断基準|概要
『建物』の性状と言えることが多い
浸水対策の施工・設備の状況・完成度により判断する
い 瑕疵担保責任|主体
ア 売主・建築請負人
『瑕疵』と認められた場合責任を負う
イ 設計者
設計の決定・判断は施主にある
→設計者に最終判断の権限はない
→原則的に責任を負わない
※東京地裁平成15年4月10日
3 マンション売買×浸水|事案
分譲マンションの売買に関して『浸水』が問題になったケースです。
<マンション売買×浸水|事案>
あ 事案・概要
マンションを新築した
マンションの完成直前に,大雨が降った
1階部分が浸水した
そこで,建築業者はマンションの玄関に防潮板を設置した
建築業者はマンションを分譲・販売した
購入者Aは,浸水の経緯を知った
Aは建築業者・設計業者に対して損害賠償を請求した
い 近隣の状況
近隣にある類似のマンションでは,盛土=地表面のかさ上げを施工している
上記の大雨で浸水被害は生じていない
※東京地裁平成15年4月10日
4 マンション売買×浸水|裁判所の評価
前記の事案について,裁判所の認定をまとめます。
<マンション売買×浸水|裁判所の評価>
あ 防潮板の設置
マンションの居住者に不便を強いる
美観を損ねる
→ひんしゅくを買うような対応である
=浸水被害の対策として杜撰である
い 要因=責任
設計段階に,建築業者が立地条件を把握していなかった
→盛土を行わずに施工を始めた
→泥縄式に防潮板を設置した
※東京地裁平成15年4月10日
最終的な結論は次にまとめます。
5 マンション売買×浸水|裁判所の判断
前記の認定を前提にして裁判所が判断した結論をまとめます。
<マンション売買×浸水|裁判所の判断>
あ 瑕疵についての判断
『瑕疵』に該当する
い 責任の主体
ア 建築業者
損害賠償責任を認めた
イ 設計業者
責任を否定した
※東京地裁平成15年4月10日
ポイントは『売却されたマンションに居住している』ということです。
土地ではなくて『建物』の性状=品質,として考慮されたのです。
その結果『浸水しやすい』ことは建物の品質として重大であると評価されました。
6 マンション売買×駐車場の浸水|事案
分譲マンションの『駐車場』の浸水が問題になったケースを紹介します。
<マンション売買×駐車場の浸水|事案>
あ 事案・概要
浸水しやすいエリアに,Aがマンションを建築した
Aはマンションを分譲して売却した
その後,降雨の際,駐車場部分が冠水した
浸水は駐車車両のナンバープレートの下付近まで達した
い 浸水の程度
建物に床下浸水をもたらす程度にまでは至っていない
浸水対策が取られれば,いずれ解消されると言える
例;雨水管・雨水桝の整備
※東京高裁平成15年9月25日
7 マンション売買×駐車場の浸水|裁判所の判断
前記事案について,裁判所の判断内容をまとめます。
<マンション売買×駐車場の浸水|裁判所の判断>
う 裁判所の判断|瑕疵
『浸水・冠水しやすい状況』
→居住自体を困難とするものではない
→一般的な『場所的・環境的要因』の範囲内である
→『瑕疵』とは認めない
え 裁判所の判断|説明義務
売主は具体的な浸水リスクを知らなかった
→『説明義務』があったとは認めない
※東京高裁平成15年9月25日
ポイントは『マンション本体・居住部分』には支障がなかったことです。
一般的な『マンションの浸水』(前記)とは違うのです。
8 過去の浸水の説明義務と仲介業者の行政責任
『説明義務違反』については民事以外の責任もあります。
仲介業者の行政的な責任に関するものを紹介します。
<過去の浸水の説明義務と仲介業者の行政責任>
あ 説明義務
浸水・冠水リスクが高い場合
ア 物件所在エリアが降雨によって浸水or冠水のおそれがある場合イ 過去に降雨によって浸水したことがある場合
い 調査義務
明らかに浸水のおそれがない場合以外
対象物件が,降雨によって浸水するリスク
→調査する義務がある
う 不明な場合の対応
浸水or冠水が数年に1回しかない場合
→『浸水or冠水が2,3年に1回あった』と説明する努力義務がある
明確に否定できる場合でなければ説明義務がある
え 違反への対応
『行政指導』の対象となる
→強制的・正式な罰則,という意味ではない
※国交省の見解;非公式ヒアリング