【ローン特約|解除通知|不承認の連絡・解除期限切れ・期限延期】
1 『不承認』の連絡が不十分→解除NG|事例
2 不承認→次の融資申込×解除期限切れ|事例
3 解除期限の延期vs支払期限の延期|認定|事例
4 解除期限に『内定』だけ→解除OK|事例
5 解除期限なし→2年後の解除OK+過失相殺|事案
6 解除期限なし→相当期間経過で解除NG|事案
1 『不承認』の連絡が不十分→解除NG|事例
ローン特約では『解除通知』の部分でトラブルが生じることがあります。
まずは『解除』の通知・連絡が不十分であったケースを紹介します。
<『不承認』の連絡が不十分→解除NG|事例>
あ 売買契約締結
売買契約が締結された
ローン特約が付いていた
い 融資申込
買主は融資申込をした
融資承認を得られなかった
う 『不承認』の連絡
買主は『売主Aの仲介業者Bの担当者C』にこの経緯を伝えた
Cは売主に『不承認』や『解除』について伝えなかった
買主は売主Aから手付金の返還を受けられなくなった
※東京地裁平成22年8月25日
<裁判所の判断>
買主の連絡は『解除の意思表示』とは認められない
明確な『解除の意思』が表示されたものとは言えない
Cには任務懈怠行為はなかった
Bにも使用者責任は生じない
※東京地裁平成22年8月25日
2 不承認→次の融資申込×解除期限切れ|事例
ローン特約では一般的に『解除期限』が設定されます。
この場合『期限切れ』かどうかが曖昧なこともあります。
トラブルになったケースを紹介します。
<不承認→次の融資申込×解除期限切れ|事例>
あ 売買契約締結
売買契約が締結された
ローン特約が付いていた
い 融資申込|初回
買主は金融機関に融資申込をした
融資は承認されなかった
買主は仲介業者にこれを伝えた
う 融資申込|2回目
買主は別の金融機関に融資を申し込むこととなった
今度は融資の承認が得られた
え 売主からの解除
売主は『決済日を超過している』ことを理由に解除を主張した
※東京地裁平成22年3月16日
<裁判所の判断>
あ ローン特約による解除
不承認後,買主は別の金融機関の融資に向けて活動していた
→ローン特約による解除は無効である
い 売主による解除
売主は買主に『催告』をしていなかった
→解除は無効である
※東京地裁平成22年3月16日
ローン特約による解除は『期限切れ』のために認められませんでした。
一方で売主による解除も認めませんでした。
結果だけみると『中間を取った』ような内容になっています。
3 解除期限の延期vs支払期限の延期|認定|事例
ローン特約の『解除期限』が延期されることも多いです。
『解除期限』ではなく『支払期限』を延期することも多いです。
この部分で誤解や解釈の違いが表面化することもあります。
<解除期限の延期vs支払期限の延期|認定|事例>
あ 売買契約締結
売買契約が締結された
ローン特約が付いていた
い 最初の延期
ローン特約の『解除期限』を1か月延長する合意がなされた
延長期限までにローンの審査が承認されなかった
う 2回目の延期
さらに『残代金支払期日=決済日』の延期が合意された
『解除期限』の延期ではなかった
延期された決済日までに融資が受けられなかった
え 解除通知
買主がローン特約による解除を通知した
お 売主・買主の主張
売主は『解除期限を過ぎている』と主張した
買主は2回目の延期の際『解約の意向を伝えた』と主張した
※神戸地裁平成11年5月28日
<裁判所の判断>
2回目の延期の連絡時に『解約の意向の連絡』は認定できない
→ローン特約による解除はできない
※神戸地裁平成11年5月28日
4 解除期限に『内定』だけ→解除OK|事例
ローン特約の解除は『期限まで』に通知する必要があります。
解除通知はあったけれど『融資不承認となった』ことが前提です。
『融資不承認』の解釈について争われたケースを紹介します。
<解除期限に『内定』だけ→解除OK|事例>
あ 売買契約締結
売買契約が締結された
ローン特約が付いていた
い 融資申込
買主は融資申込をした
解除期限には融資の『内定』が出ていた
しかし『承認』には至っていなかった
う 解除通知
買主はローン特約による解除を通知した
売主は『内定』があるので解除はできないと主張した
※福岡高裁那覇支部平成11年8月31日
<裁判所の判断>
改めて期限の猶予・延長などの合意がない場合
→期限をもって契約は解除できる
→ローン特約による解除を認めた
※福岡高裁那覇支部平成11年8月31日
5 解除期限なし→2年後の解除OK+過失相殺|事案
ローン特約の『解除期限』が設定されないこともあります。
この時点で曖昧な状態になるのでトラブルになりやすいです。
典型例は『長期間経過後の解除』というケースです。
<解除期限なし→2年後の解除OK+過失相殺|事案>
あ セールストーク
仲介業者が『短期の転売で利益が出る』と説明した
い 売買契約締結
売買契約が締結された
ローン特約の条項が付いていた
解除期限は設定されていなかった
う 買主から売主へ暫定的支払
売主は別不動産の『ローンの支払』の原資が不足していた
仲介業者は次のように提案した
提案内容=『買主が売主にローン返済資金』を支払う』
買主は売主に,約1年間で合計約500万円を支払った
え 不承認→解除通知
契約締結から約2年後に,融資が不承認となった
買主はローン特約による解除を通知した
売主は解除を認めなかった
買主は手付金・既払金の返還を請求した
※東京地裁平成7年10月19日
<裁判所の判断>
あ 暫定的支払の性格
契約締結後の支払は『代金の分割払い』ではない
『立替金』である
い ローン特約解除の有効性
『立替金』支払はローン特約による解除を否定しない
う 解除通知までの時期
解除までの期間が長かった
物件の価値下落について買主に『過失』がある
過失相殺を認める
※東京地裁平成7年10月19日
最終的に『解除可能』となり,買主が救済されました。
一方で過失相殺で,買主も一定の負担をすることになったのです。
6 解除期限なし→相当期間経過で解除NG|事案
ローン特約の解除期限の設定がなかった別のケースを紹介します。
<解除期限なし→相当期間経過で解除NG|事案>
あ 売買契約締結
売買契約が締結された
ローン特約が付いていた
『解除期限』が定められていなかった
い 融資申込
買主は金融機関に融資申込をした
融資承認が得られなかった
う 『支払期限』延長
残代金の『支払期限』を約3か月延期する合意をした
買主は別の金融機関に融資申込を行った
この金融機関でも融資の承認は得られなかった
この時点で支払期限まで2か月程度が残っていた
買主は他の手段で資金調達を試みたが調達できなかった
え 『支払期限』経過
『支払期限』が経過した
買主はローン特約による解除を通知した
※東京高裁平成7年4月25日
<裁判所の判断|基準>
あ 買主の選択義務|前提事情
資金調達の可能性がなくなった
例;融資承認を得られなかった
い 買主の選択義務|内容
買主は次のいずれかを選択をするべきである
ア 他の方法で資金を調達するイ 契約を解除する
う 解除権消滅
ローン特約による解除をしないで相当期間が経過した場合
→解除権は消滅する
※東京高裁平成7年4月25日
<裁判所の判断|結論>
買主は資金調達の可能性がなくなった後,相当期間が経過した
→解除権は消滅した
→ローン特約による解除は無効である
※東京高裁平成7年4月25日
結論として解除が認められませんでした。
売買契約締結後に『期限の延長』が繰り返されていました。
このことが『支払う期待を大きくした』と言えるでしょう。
そのために類似判例(上記)と別の結論につながったと思われます。