【消費者契約法|差止請求|適格消費者団体・公表・提訴前フロー】
1 適格消費者団体|差止請求|概要
2 適格消費者団体|定義
3 不当勧誘行為×差止請求
4 不当条項×差止請求
5 差止請求×公表
6 差止請求|従来フォーマット利用のリスク
7 差止請求×提訴前フロー
8 消費者契約法以外の同様の制度
1 適格消費者団体|差止請求|概要
事業者の対消費者の契約は特殊な『差止請求』の制度があります。
契約をした当事者ではない『適格消費者団体』が提訴する手続です。
まずは概要をまとめます。
<適格消費者団体|差止請求|概要>
あ 前提事情
事業者に『不当勧誘行為・不当条項の使用』があった
これらの内容は後述する
い 差止請求
適格消費者団体が『差止請求』を行うことができる
訴訟外での請求・提訴を行うことができる
解決結果・当事者などが公表される
う 特殊性・注意点
適格消費者団体は契約の当事者=被害者ではない
それなのに訴訟の原告となる
『日本版クラスアクション』と呼ばれることもある
適格消費者団体が『損害賠償請求』を行うことはできない
『適格消費者団体』については次に説明します。
2 適格消費者団体|定義
『適格消費者団体』の定義は次のとおりです。
<適格消費者団体|定義>
内閣総理大臣の認定を受けた消費者団体
不特定・多数の消費者の利益のために差止請求権を行使する
※消費者契約法2条4項
3 不当勧誘行為×差止請求
適格消費者団体の差止請求には大きく2種類があります。
『不当勧誘行為』についての差止請求の概要をまとめます。
<不当勧誘行為×差止請求>
あ 前提事情
事業者が消費者契約の締結を勧誘する場面
対象者=不特定かつ多数の消費者
事業者が『不当勧誘行為』を行うor行うおそれがある
い 不当勧誘行為|種類
種類 | 条文;消費者契約法 |
不実告知 | 4条1項1号 |
断定的判断の提供 | 4条1項2号 |
不利益事実の不告知 | 4条2項 |
不退去 | 4条3項1号 |
退去妨害 | 4条3項2号 |
う 差止請求|具体的内容
ア 行為の停止or予防イ 行為の提供物の廃棄・除去ウ その他の必要な措置 ※消費者契約法12条1項
4 不当条項×差止請求
適格消費者団体の差止請求には『不当条項』を対象とするものもあります。
『不当条項』についての差止請求の概要をまとめます。
<不当条項×差止請求>
あ 前提事情
事業者と不特定かつ多数の消費者が締結する消費者契約
『不当条項』を含む契約の申込or承諾を行うor行うおそれがある
い 不当条項|事業者の免責|種類
種類 | 条文;消費者契約法 |
債務不履行責任の全部免除 | 8条1項1号 |
債務不履行責任の一部免除 | 8条1項2号 |
不法行為責任の全部免除 | 8条1項3号 |
不法行為責任の一部免除 | 8条1項4号 |
瑕疵担保責任の全部免除 | 8条1項5号 |
う 不当条項|消費者の負担加重|種類
種類 | 条文;消費者契約法 |
解除に伴う損害賠償額の予定条項 | 9条1項 |
金銭支払義務の不履行に対する損害賠償額の予定条項 | 9条2項 |
消費者の利益を一方的に害する条項 | 10条 |
え 差止請求|具体的内容
ア 行為の停止or予防イ 行為の提供物の廃棄・除去ウ その他の必要な措置 ※消費者契約法12条3項
5 差止請求×公表
適格消費者団体の差止請求は『公表』の制度もあります。
<差止請求×公表>
あ 前提事情
適格消費者団体が『差止請求』を行った
次の形で解決に至った
ア 判決イ 裁判外・裁判上の和解
い 公表
次の情報が公開される
ア 解決内容
判決・和解の内容
イ 当事者
・事業者
・適格消費者団体
※消費者契約法23条4項7号,9号,39条1項
公表制度は,現実的に事業者が大きなダメージを受けるものです。
不当条項・不当勧誘行為があった場合のリスクと言えます。
6 差止請求|従来フォーマット利用のリスク
適格消費者団体の差止請求は特殊な性格があります。
借主との間で具体的な問題が生じなくても『差止請求』が可能なのです。
そして,差止請求は訴訟提起も可能です。
さらに,事案内容・当事者名が公表されるのです。
そこで『従来のサンプルを使い続ける』こと自体がリスクと言えるのです。
<差止請求|従来フォーマット利用のリスク>
あ よくある実態
以前から標準的な契約書フォーマットを利用していた
現在でも特に改良せずに継続的に使用している
い リスクの現実化
適格消費者団体から差止請求を受ける
→不当条項の内容・当事者名を公表される
う 大きなダメージ
応訴などの時間的・費用的・精神的コストが生じる
特に公表されたことにより評判が大きく悪化する
7 差止請求×提訴前フロー
適格消費者団体の差止請求の手続の流れを紹介します。
いきなり提訴できるわけではないのです。
<差止請求×提訴前フロー>
あ 対象となる手続
ア 差止請求訴訟イ 差止請求の仮処分
い 事前予告通知
提訴・申立前に事業者に対して書面により差止請求の通知をする
到達から1周間経過後に訴え提起・仮処分申立ができる
う みなし到達
到達しない場合
→『通常到達すべき時』に到達したものとみなす
え 例外=書面通知不要
事業者が差止請求を拒否している場合
→書面による事前予告通知は不要である
※消費者契約法41条
事業者としては事前予告の段階での対応が重要です。
しっかり対応すれば『提訴→公表』リスクを避けられます。
実際には解釈の違いが生じることもあるので判断は難しいことも多いです。
早めに弁護士などの専門家に相談することが推奨されます。
8 消費者契約法以外の同様の制度
以上は消費者契約法に規定されている適格消費者団体の差止請求の説明でした。
一方,消費者契約法以外にも差止請求の制度があります。
ここでは種類だけ紹介しておきます。
<消費者契約法以外の同様の制度>
あ 景品表示法
ア 優良誤認表示イ 有利誤認表示 ※景品表示法10条1項,2項
い 特定商取引法(概要)
ア 訪問販売イ 電話勧誘販売ウ 特定継続的役務提供
※特定商取引法58条の18〜24
詳しくはこちら|特定商取引法|基本|適用対象・行政規制・民事的規定
なお,景品表示法による表示の規制のうち,不動産の取引に関するものについては別のルールもあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産取引における不正な表示|景品表示法・公正競争規約