【弁護士・司法書士の依頼受任×消費者契約法・景品表示法違反】
1 弁護士・司法書士の依頼受任×消費者契約法・景表法違反
2 費用不返還条項|差止請求
3 免責・業務一任条項|差止請求
4 預り金返還タイミング|差止請求|概要
5 中途解約→全額請求|差止請求|概要
6 みなし成功報酬|差止請求|概要
7 みなし成功報酬|民法上の規定・特約の比較
8 専属管轄|差止請求
9 弁護士報酬|『安すぎる』『格安』→有利誤認表示
1 弁護士・司法書士の依頼受任×消費者契約法・景表法違反
弁護士・司法書士への依頼の際には委任契約書が作成されます。
また事務所ごとに報酬基準を定めることになっています。
これらについて消費者契約法違反が指摘されたケースがあります。
また景品表示法違反の指摘がされたケースもあります。
いずれも適格消費者団体による差止請求の実例として公表されたものです。
本記事ではこれらの実例を紹介します。
2 費用不返還条項|差止請求
業務完了前に解除・辞任があった場合『清算』が必要となります。
この清算についての条項・特約が問題となったケースです。
<費用不返還条項|差止請求|概要>
あ 条項の含まれる規定
債務整理事件報酬基準
=個々の司法書士が定めて表示するもの
い 条項|内容
『如何なる理由により契約解除,辞任に至った場合でも,着手金相当額は返金致しません』
う 結論
次のように改訂された
『当事務所の責めに帰さない事由により契約解除,もしくは辞任に至った場合,既に履行した業務の割合に応じて報酬を請求させて頂きます』
※平成23年7月29日裁判外和解
<費用不返還条項|差止請求|理由>
あ 消費者の義務を著しく加重する;10条
ア 民法上の規定|受任者の債務不履行
受任者の債務不履行などによる解除の場合
→原則的に着手金・成功報酬の支払義務はない
イ 民法上の規定|委任者の都合による解除
委任者の一方的な都合による解除の場合
→委任者が支払う金額は『全額』ではない
=既済業務の割合に応じた報酬+受任者に生じた損害
※民法648条3項・651条
ウ 特約との比較
民法上の規定(『ア・イ』)から『消費者の義務を著しく加重する』条項である
い 平均的損害を超える違約金;9条1号
事業者に生ずべき平均的な損害を超える違約金である
※平成23年7月22日裁判外和解
3 免責・業務一任条項|差止請求
弁護士に対して判断を『一任する』という条項が問題になりました。
<免責・業務一任条項|差止請求|概要>
あ 条項の含まれる規定
弁護士と依頼者の間の委任契約書
い 条項|内容
A『委任者は受任者に対し,債務整理の内容,和解の金額・支払回数等,和解の内容について一任し,一切異議を述べない』
B『委任者は受任者に対し,貸金業者に対する過払金の返還を交渉または訴訟により回収することを委任し,和解の内容についても一任する』
う 結論
A→削除された
B→『一任』という部分を削除した
※平成23年7月22日裁判外和解
<免責・業務一任条項|差止請求|理由>
あ 事業者の損害賠償義務の免除;8条1項1号
ア 原則論
弁護士は,委任された事項について一定の裁量が認められる
しかし裁量には一定の範囲・限界がある
委任事務処理の過失により委任者に損害を受けた場合
→債務不履行に基づく損害賠償責任を負う
イ 特約|A・B
弁護士の債務不履行に基づく損害賠償義務を免除するものに該当する
い 消費者の義務を著しく加重する;10条
和解の内容について依頼者の要望が反映されない
→消費者の権利を著しく制限する条項に該当する
※平成23年7月22日裁判外和解
4 預り金返還タイミング|差止請求|概要
預り金返還を『業務完了時』と定める規定が問題になりました。
背景には受任した弁護士の責任があります。
弁護士が『依頼者へ預り金を返金したこと』が違法となることもあるのです。
結果的に『一律に返還タイミングを設定する』ことは変更されました。
<預り金返還タイミング|差止請求|概要>
あ 条項の含まれる規定
弁護士と依頼者の間の委任契約書
い 条項|内容
『委任者と受任者は,回収した過払金及び委任者から受任者に対する入金の全額を債務整理がすべて終了するまで受任者が預かり,委任者は受任者に対し返還請求しないことに合意する』
『債権者平等の原則と債務整理手続の透明性の確保の見地』を趣旨とする
う 結論
『委任者に事情がある場合は協議の上返金する』旨を付記した
※平成23年7月22日裁判外和解
<預り金返還タイミング|差止請求|理由>
あ 民法
受任者は,受領した金銭を委任者に引き渡す義務がある
※民法646条
い 特約
依頼者が業務終了までは返還を求めることができない
う 比較
ア 債務整理業務の特殊性
受任弁護士は『財産保全義務』を負っている
一定の場合に受任弁護士が責任を負う場合がある
※東京地裁平成21年2月13日
イ 預り金の金額が十分である場合
金融機関への支払資金・弁護士費用相当額に十分足りる預り金がある場合
→依頼者の請求に応じて返金しても支障はない
ウ 個別事情の考慮
依頼者の都合上どうしても預り金返還が必要な場合
→依頼者の請求に応じて返金しても支障はない
→『消費者の権利を著しく制限する』に該当する
※消費者契約法10条
※平成23年7月22日裁判外和解
5 中途解約→全額請求|差止請求|概要
中途解約の場合にも一定の報酬は請求される,というものです。
一般的にいろいろな事業者による契約で問題になりやすい条項です。
<中途解約→全額請求|差止請求|概要>
あ 条項の含まれる規定
弁護士と依頼者の間の委任契約書
い 条項|内容
受任者は,以下のいずれかの事由が生じたときは,契約を解除することができる
A 委任者と受任者の信頼関係が損なわれたとき
B 委任者が,弁護士報酬・日当・実費・分割弁済金を約定どおり支払わなかったとき
C 委任者が受任者の要求する債務整理に必要な書類を提出しないとき
D 委任者が受任者に対し虚偽の事実を申告し又は事実を正当な理由なく告げなかったため,受任者の事件処理に著しい不都合が生じたとき
債権者に対して受任通知を発送した後は,中途で委任契約が解除されても着手金全額及び実費を支払わなければならない
う 結論
『着手金全額と費用の支払義務を負う』という内容を削除した
※平成23年7月22日裁判外和解
この条項が消費者契約法に抵触する理由は2つに分けられます。
1つずつまとめます。
<中途解約→全額請求|理由|既済業務割合の影響>
あ 民法上の規定
委任事務が中途で終了する場合
→既済業務の割合に応じて報酬を請求することができる
※民法648条3項
い 特約
受任通知を発送した後は,委任者は着手金全額の支払義務を負う
委任契約終了の時期は関係ない
う 比較
民法の規定による金額を超過する可能性がある
→『消費者の義務を著しく加重する』に該当する
※消費者契約法10条
※平成23年7月22日裁判外和解
<中途解約→全額請求|理由|帰責事由の所在の影響>
あ 民法上の規定
受任者の帰責事由による『信頼関係の喪失』の場合
→委任者は着手金などの支払義務を負わない
い 特約
特約における『信頼関係の喪失』は帰責事由の所在が記載されていない
→受任者の帰責事由も含まれる
委任者が一律に着手金全額+費用などを支払う義務がある
う 比較・結論
ア 消費者の義務を著しく加重する条項に該当する
※消費者契約法10条
イ 平均的損害を超える違約金である
※消費者契約法9条1号
※平成23年7月22日裁判外和解
6 みなし成功報酬|差止請求|概要
民法の解釈上『成功報酬が発生したとみなす』状況はあり得ます。
これを条項にする,という発想もごく自然なものです。
しかし民法上の規定よりも『消費者に不利』だと無効となります。
<みなし成功報酬|差止請求|概要>
あ 条項の含まれる規定
弁護士と依頼者の間の委任契約書
い 条項|内容
受任者の責めに帰することができない事由により解任した場合等は,報酬及び費用の全額を請求することができる
う 結論
条項を削除した
※平成23年7月22日裁判外和解
この条項は消費者契約法に抵触すると指摘されました。
その理由については次に説明します。
7 みなし成功報酬|民法上の規定・特約の比較
上記の条項と消費者契約法との抵触について次にまとめます。
『民法上の規定』と『特約=条項』との比較が判断の基礎となっています。
民法上の規定,特約内容を順にまとめます。
<みなし成功報酬|民法上の規定>
あ 報酬請求権
受任者の責めに帰することができない理由で委任契約が終了した場合
→受任者が委任者に対して請求できる報酬
=既済業務の割合分に限られる
※民法648条3項
い 解除に伴う損害賠償
解除した者が損害賠償を負う前提
=次の2点のいずれにも該当する場合に限られる
ア 受任者の不利な時期であるイ やむを得ない事由がない
※民法651条
<みなし成功報酬|特約|反映されない事情>
次の事情は反映されない
=一律に『全額』の賠償が義務付けられている
ア 所定の事由が発生した理由イ 解除の時期ウ 既済業務の程度
<みなし成功報酬|比較>
あ 平均的損害を超える違約金
実質的には損害賠償の予定or違約金を定める条項に該当する
事由や時期によっては平均的損害の額を超える部分がある
※消費者契約法9条1項
い 消費者の義務を著しく加重する
『消費者の義務を著しく加重する』に該当する
※消費者契約法10条
※平成23年7月22日裁判外和解
8 専属管轄|差止請求
一般的に『専属管轄』を条項に定めることはあります。
専属管轄の合意自体は合理性のあるものです。
しかし背景・前提に特殊な事情があると『不合理』となります。
事案をまとめます。
<専属管轄|差止請求|概要>
あ 条項の含まれる規定
弁護士と依頼者の間の委任契約書
い 条項|内容
『契約に関する紛争については東京地方裁判所を専属管轄とする』
う 結論
条項を削除した
※平成23年7月22日裁判外和解
<専属管轄|差止請求|理由>
あ 前提事情
当該弁護士法人は,日本全国の消費者から相談・依頼を受けている
い 管轄を固定することの影響
消費者の被る不利益は多大なものとなる
→『消費者の権利を一方的に害する』に該当する
※消費者契約法10条
※平成23年7月22日裁判外和解
『全国から』依頼を受けていることがポイントでした。
つまり,東京から遠くに居住する依頼者も多く存在したのです。
そのため『裁判管轄が東京限定』ということが不合理と指摘されたのです。
9 弁護士報酬|『安すぎる』『格安』→有利誤認表示
弁護士サービスの競争激化がよく話題になります。
サービスのクオリティアップ・差別化という理想的なものもあります。
一方,低価格化・広告の行き過ぎという傾向もあるようです。
そのような背景から生じたケースを紹介します。
これは消費者契約法ではなく景品表示法違反が指摘された事例です。
<弁護士報酬|『安すぎる』『格安』→有利誤認表示>
あ 表示内容|抜粋
弁護士法人のホームページ上の広告表記
『安すぎて不安?価格の秘密はこちらをクリック』
『当事務所も多分『格安』な事務所の一つでしょうから』
い 表示の印象
弁護士費用があたかも標準的な弁護士費用と比較して著しく低廉であるかのような印象を受ける
う 実際の状態
他の法律事務所の弁護士費用との比較
→『安すぎる』と評価されるほど特に低廉であるということはない
むしろ,場合によっては,標準的な弁護士費用よりも高額となることもある
え 比較
有利誤認表示にあたる
→差止請求ができる
※景品表示法 4 条 1 項 2 号,10条2号
お 結論
『安すぎる』『格安』などの表示が削除された
※平成23年7月22日裁判外和解