【土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像】

1 協議による境界トラブルの解決
2 筆界特定制度|協議→解決見込み高い場合有意義
3 民事調停の特徴
4 境界確定訴訟の特徴
5 所有権確認請求を併合提起することもある(概要)
6 処分禁止や妨害排除の仮処分(概要)
7 境界トラブルに関する刑事責任の警告や告訴

1 協議による境界トラブルの解決

土地の境界の紛争を解決する手段はいくつかあります。
軽いものから順に紹介します。
まずは協議,つまり話し合いで解決するというものがあります。

<協議による境界トラブルの解決>

あ 当事者

境界に接する土地の所有者全員

い 協議

『あ』の全員が協議を行う
全員が合意すれば紛争が解決する

う 合意の内容

公法上の境界について
→私人(所有者)が処分できない
→『所有権の境』の合意とする

2 筆界特定制度|協議→解決見込み高い場合有意義

協議が成立しない場合は訴訟を利用するのが一般的です。しかし訴訟よりも軽い手続があります。
その1つが『筆界特定制度』です。

<筆界特定制度の特徴>

あ 制度の主催者

法務局(筆界特定登記官)

い 実際の調査作業

法務局が『筆界調査委員』に外注する
一般的に,測量士や土地家屋調査士が選任される
詳しくはこちら|筆界特定制度|基本|特徴・標準処理期間・申請・手続の流れ

う デメリット

法務局の判断に拘束力はない
当事者の1人が納得しないと解決に至らない
詳しくはこちら|筆界特定制度|終了・不服申立・訴訟提起|登記記録・分筆・地積更正

手続自体は法務局が進めてくれるのは大きなメリットです。
しかし,強制力がないというのがデメリットなのです。
逆に,最初から双方が納得する可能性がある程度高い,という場合は筆界特定制度が有意義でしょう。

3 民事調停の特徴

一般的な『民事調停』で境界の紛争を解決するということもあり得ます。
所有権の境について話し合いベースで進める,というものです。調停委員が介在するので,単純な交渉とは違います。
しかし,調停委員が『土地境界に特化』した方とは限りません。
調停委員の介在があまり役立たないこともあります。
話し合い中心で進めるのであれば『筆界特定制度』の方がベターと言えるケースが多いです。

4 境界確定訴訟の特徴

最終的な解決手段は境界確定訴訟です。手続は重いですが,確実に解決に至ります。

<境界確定訴訟の特徴>

あ 基本的な特徴

当事者が合意に達しなくても解決に至る
最終的に裁判所が判決として判断を示す

い 手続の進行

裁判所は積極的に証拠収集を行わない
当事者が証拠を集めて提出する必要がある

う 協議の可能性

実際には審理中に和解協議が進むことが多い
和解が成立するケースもよくある
和解の場合は『所有権境』を合意する

え 全体的な特徴

他の手段よりも時間や手間を要する
強制力があり,確実に解決に至る

ある程度対立が激しい場合は,最初から最終手段である訴訟を用いるとかえって効率的です。

5 所有権確認請求を併合提起することもある(概要)

理論的には,境界は公法上のものです。
一方,所有権は私法(民法)上のものです。
そこで,理論的には,境界確定訴訟で境界が確定しても,所有権の境は,確定した境界とは別ということもあり得ます。
所有権の境も訴訟で裁判所に判断してもらうためには,所有権確認請求の訴えが必要です。
つまり,境界確定訴訟と所有権確認訴訟を併合して提起するということになります。
ただし,通常は(公法上の)境界所有権の境は一致します。
そこで,所有権確認請求は追加(併合)せず,境界確定訴訟だけを提起するというケースが多いです。
詳しくはこちら|所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較と請求の併合・訴えの変更

6 処分禁止や妨害排除の仮処分(概要)

一般的なトラブルの解決においては,訴訟(正式な裁判)とは別に,暫定的な手続として民事保全を行うことがよくあります。
本来,暫定的な位置づけなのですが,実際には民事保全の手続の段階で和解が成立して解決に至るケースも多いです。
土地の境界に関するトラブルにおいて,民事保全として処分禁止の仮処分をするという発想があります。
しかし,通常は処分禁止の仮処分は認められません。
詳しくはこちら|境界の確定に関する処分禁止の仮処分はほぼできない
なお,確実に越境して物や塀を設置されたようなケースでは,民事保全として妨害排除の仮処分が認められることもあります。
裁判所が妨害排除の仮処分を発令すれば,暫定的ではありますが,物理的な侵害の排除が実現します。

7 境界トラブルに関する刑事責任の警告や告訴

境界についてのトラブルが刑事責任,つまり犯罪につながることもあります。
境界を示す杭や自然の石を動かすとか,破壊するなどの行為は境界損壊罪や器物損壊罪が成立することがあります。
詳しくはこちら|境界損壊罪(条文規定と理論や解釈と具体例)
また,明らかに越境して塀を設置して,土地所有者が入れない状況にしたケースでは不動産侵奪罪が成立します。
詳しくはこちら|不動産侵奪罪の条文規定と理論や解釈
また,既にある塀を超えて侵入した行為は住居侵入罪に該当することがあります。
詳しくはこちら|住居・建造物侵入罪|侵入の対象|屋根・屋上・ベランダ・バルコニー
このような行為があったら告訴するという対応があります。
実際にこのような行為がある前の段階で,内容証明郵便の通知でこれらの行為をしないように警告することの方が実務ではよくあります。もちろん,通知の中で,該当する犯罪の指摘もしておきます。

 
 

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