【法定地上権の地上権設定登記(登記請求権・建物登記との違い)】

1 法定地上権の地上権設定登記(登記請求権・建物登記との違い)

不動産の競売で、一定の要件を満たすと、法定地上権は、自動的に(当然に)成立します。
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
ただし、地上権の登記は自動的に(裁判所の嘱託で)なされるわけではありません。本記事では、法定地上権の登記について説明します。

2 法定地上権の登記の内容(登記原因・原因日付)

法定地上権が成立した場合、土地についての物権の発生なので、これを登記することが可能です(民法177条)。登記の形式としては、法定地上権設定という登記原因が登記されることになります。日付は実体上権利が発生した時点、つまり、代金納付の日、ということになります。

法定地上権の登記の内容(登記原因・原因日付)

登記原因=「法定地上権設定」
原因日付=法定地上権成立の日=代金納付の日
※民事執行法188条、79条
※法務省昭和55年8月28日民3第5267号「民事執行法及び民事執行規則の施行に伴う登記事務の取扱いについて(通達)」第三、一、5/『法曹時報33巻1号』p287

3 裁判所の嘱託による地上権設定登記→なし

不動産の競売では、新たな所有者(買受人)への所有権移転登記は、裁判所からの嘱託によりなされます。いわばアフターサービスです。ただし、裁判所が行ってくれる登記は所有権移転登記です。
たとえば、建物の競売で、買受人が法定地上権を取得したとしても、裁判所が行う登記(嘱託)は建物の所有権移転登記だけです。地上権設定登記は裁判所が行うわけではありません。

裁判所の嘱託による地上権設定登記→なし

法定地上権の成立に関する登記は裁判所書記官が職権をもってなすところの売却代金納付による登記の嘱託(法一八八条、八二条)には含まれず、権利者自らが申請すべきである。
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p524

4 法定地上権設定登記の登記請求権→あり

では、建物の買受人が法定地上権の登記を実現するにはどうしたらよいでしょうか。基本的には、土地所有者と共同で登記申請をする必要があります。一般論として、共同申請の一方が協力してくれない場合には、登記請求の訴訟を提起して判決を得れば、他方だけの単独申請で登記ができます。
ここで、法定地上権も物権の1つなので、登記請求権は認められます(判決を得られます)。

法定地上権設定登記の登記請求権→あり

あ 物権に基づく登記請求権(概要・前提)

物権の性質により登記請求権が認められる
詳しくはこちら|登記請求権の基本(物権の効力・判決による単独申請)

い 法定地上権の登記請求権

前提事実によれば、原告は、昭和40年11月15日、本件土地について、本件法定地上権を取得したものであるから、被告は、原告に対し、本件法定地上権の設定登記手続をすべき義務がある。
※東京地判平成20年4月23日

5 1筆の土地の一部に法定地上権成立→分筆+地上権設定登記

(1)法定地上権が成立する範囲(前提・概要)

ところで、法定地上権が成立する範囲は、1筆の土地の全体、とは限りません。建物の存続に必要な最小限の範囲について成立するのです(結果的に1筆の土地の全体となることも多いですが)。

(2)登記制度上1筆の土地の一部を対象とした地上権の登記はできない

土地の権利の登記は、登記のシステム上、原則として1筆単位です。「◯◯番地のうち東側◯平方メートル」という記載は使えません。

(3)1筆のうち一部の法定地上権→分筆登記と設定登記

1筆の土地のうち一部に法定地上権が成立したケースで地上権の登記をするには、まず、1筆の土地を2つ(以上)の筆に分ける必要があります。この手続を分筆登記といいます。
結局、分筆登記をした上で、新たな1筆の全体を対象とした地上権設定登記をする、というステップになります。

1筆のうち一部の法定地上権→分筆登記と設定登記

あ 登記手続の内容→分筆登記と地上権設定登記

1筆の土地のうちの一部に設定登記をなすときは、まずこれを分筆のうえ法定地上権設定登記を申請すべきである。
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p541

い 昭和50年東京地判

ア 法定地上権が成立する範囲の基準(前提) 法定地上権の範囲は必ずしもその建物敷地のみに限定せられるものではなくして、建物として利用するに必要な限度において敷地以外にも及ぶものであるところ、法定地上権制度の根拠が抵当権者・競落人及び設定者の意思の推測に求められるにとどまらず、社会経済上の不利益防止という公益的理由に求められることに鑑みると、右の建物として利用するに必要な限度とは単に主観的に建物の利用のため必要であるにとどまらず、客観的にも建物の利用のため必要であることを要すると解するのが相当である。
イ 法定地上権が成立する範囲(あてはめ) ・・・別紙図面中、イ、ト、チ、リ、イの各点を直線で結んだ線内の三七・九六平方メートルの土地(別紙図面朱線内の土地)が本件建物の利用に必要な範囲すなわち本件法定地上権の及ぶ範囲であると認めるのが相当である。
ウ 登記請求権→認容 ・・・よって原告は本件土地中、前記三七・九六平方メートルの土地につき前記のような法定地上権を有するというべく、また被告は、原告に対して右三七・九六平方メートルの土地につき分筆登記手続をなしたうえ、右の法定地上権の設定登記手続をなす義務があるというべく、従って原告の本訴請求中、右の三七・九六平方メートルの土地につき、右の法定地上権の確認及び分筆登記手続のうえその設定登記手続(原告の請求の趣旨は本件土地全部にまで法定地上権を認められない場合には右分筆を求める趣旨もふくまれると解せられる)を求める部分は理由があるから認容し、・・・
※東京地判昭和50年12月19日

(4)登記請求権は地上権設定・分筆登記は代位(参考)

前述のように、分筆登記地上権設定登記の2つを行う場合の理論面は少し複雑です。登記請求、つまり訴状で請求するのは地上権設定登記だけです。分筆登記については「請求権」がありません。「請求権」はないけれど、地上権の登記を認める判決があれば、その訴訟の原告が代位として分筆登記をすることができます。
詳しくはこちら|分筆登記(不動産の表示登記)の登記請求権は認められない

6 建物の登記と地上権登記の違い→地上権の方が有利

(1)建物の登記による地上権の対抗力→あり

土地の登記に、法定地上権が載る(登記される)と、対抗力が生じます(民法177条)。この点実は、「法定地上権の登記」がなくても、建物の所有権移転登記(裁判所の嘱託)だけでも、法定地上権の対抗力はあります(借地借家法10条)。本来の地上権の登記の代わりになるので代用対抗要件と呼ばれています。
詳しくはこちら|借地権の対抗要件|『建物登記』があれば底地の新所有者に承継される

(2)地上権設定登記の方が明確(権利の存否・範囲・地代)

法定地上権の対抗力という意味では、建物所有者の登記(代用対抗要件)でも地上権設定登記でも同じです。しかし、代用ではなく正式な地上権設定登記の方がいろいろと明確になるので有利です。
たとえば土地所有者(やその譲受人)が法定地上権の成立を否定する(主張をする)こともあり得ます。「法定地上権」が登記に載っていれば有用な証拠になります。
詳しくはこちら|不動産登記の推定力(法的位置づけや推定の範囲の見解のバラエティ)
また、前述のように、法定地上権の範囲(エリア)は1筆の土地の全体とは限りません。この点、地上権の登記がなされている場合は1筆全体が対象であるという意味になります。範囲が不明確になる、ということはありません。
さらに、地代については、土地所有者と地上権者(買受人)の協議で決めるか裁判所が決めることになります(逆に裁判所に地代を決めてもらう訴訟では、一緒に登記請求も追加しておくのが通常です)。
詳しくはこちら|法定地上権の地代確定訴訟(民法388条・形式的形成訴訟)
いずれにしても、地上権の登記をする時には地代も登記に載ります(登記事項です)。地代の金額も明確な記録になるのです。
このように法定地上権の正式な登記をするといろいろなことが明確となります。たとえば、借地権付きの建物として第三者に売却する時には、買主にとっても安心材料となる、つまり、売却代金にも影響してきます。

本記事では、法定地上権の地上権設定登記について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に法定地上権など、不動産の競売における利用権原に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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