【公道や公有地の時効取得は黙示的な公用廃止として認められることもある】

1 公道や公有地の時効取得

私人(一般の方)が公道や公有地(公物)を長期間占有するというケースもあります。この場合に時効取得が成立するかどうかという問題があります。
本記事ではこの解釈論について説明します。

2 公物の時効取得の可否(基本)

一般の民有地であれば、長期間占有することにより取得時効により所有権を得られることになります。
詳しくはこちら|取得時効の基本(10年と20年時効期間・占有継続の推定)
しかし、公道などの公有地は、公共のために用いるという目的が優先されます。そこで、公有地を私人が長期間占有した場合には、原則として時効取得は認められません。

公物の時効取得の可否(基本)

あ 公物の時効取得(原則=否定)

公物(公共物・公共用物)について
例=官公署の施設、道路、河川敷
行政財産には私権が及ばない
公物でなくなる私物になる)場合でない限り、私人による取得時効の対象とならない
※大判昭和10年2月1日(官有道路)
※大判昭和4年12月11日(下水敷地)

い 地方自治体の所有地

地方自治体の所有地について
→法律上の規定は国有地と同様である
→国有地と同様の扱いになると思われる
※地方自治法238条1項、238条の4第1項

3 公物が公物でなくなる(私物になる)要件

公有地について時効取得が否定されるのは、公物であるという性質によるものです。逆にいえば、公物ではなくなる、つまり、私物になるのであれば時効取得は適用されます。
公物でなくなる要件(状況)としては2つあります。
1つは、物理的な変化で、もとどおりには戻らない状態となったケースです。
もう1つは、行政庁が公用を廃止することを決定したケースです。

公物が公物でなくなる(私物になる)要件

あ 形体的要素の永久的、絶対的な滅失

ア 要件 公物の形体的要素が自然力または人為により永久的に滅失し、その回復が絶対的に不可能となった
公用廃止処分がなくても当然に公物ではなくなる
イ 具体例 火山活動によって道路が溶岩に深く埋もれてしまった
海浜が自然隆起によってその実態を喪失した
※大判昭和8年11月25日
※寶金敏明著『5訂版 里道・水路・海浜−長狭物の所有と海浜−』ぎょうせい2019年p76

い 公用廃止処分

以後、公物として扱わない旨の、行政庁の意思的行為があった
講学上、『公用廃止』という
実定法上は『用途廃止・供用廃止』のかたちをとる
※道路法18条2項、92条
※寶金敏明著『5訂版 里道・水路・海浜−長狭物の所有と海浜−』ぎょうせい2019年p76、77

う まとめ

『あ・い』のいずれかに該当した場合
→(もともと公物であった物が)公物ではなくなる私物になる)

4 黙示的な公用廃止の要件

行政庁が公用廃止の決定を行った場合には、その不動産を時効取得することが可能となります(前記)。
さらに、明確な公用廃止の決定がない状況でも、黙示の公用廃止が認められないかという問題があります。最高裁は黙示の公用廃止を認め、4つの要件を示しています。

黙示的な公用廃止の要件

あ 長年の間の放置

公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供されることなく放置された

い 形態、機能の喪失

公共用財産としての形態、機能をまったく喪失した

う 公の目的

その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともない

え 維持すべき理由がなくなった

もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった

お まとめ

『あ〜え』の4要件のすべてに該当した場合
→黙示的に公用が廃止されたものとする
※国有財産法3条、18条1項
※最高裁昭和51年12月24日

実際には、この4要件に該当したといえるかどうかを、ハッキリと判別できないことが多いです。

5 公物(公有地)の時効取得が成立する状況の具体例

以上は、公物の時効取得の理論的な内容の説明でした。
実際に、多くの事案で、公物の時効取得の判断がなされています。具体例(判例)については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|公道・公有地(公物)の時効取得が生じる状況の例・判断を示した裁判例

本記事では、公道や公有地の時効取得の理論について説明しました。
実際には個別的な事情によって時効取得の可否(公用廃止の判断)が大きく違ってきます。
実際に公道や公有地の時効取得の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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