【借地権譲渡許可の審理における残存期間・従前の経緯の考慮】
1 残存期間・従前の経緯の影響(総論)
2 短い残存期間の影響(基本)
3 短い残存期間の影響(他の手続との比較)
4 借地に関する従前の経緯の考慮
1 残存期間・従前の経緯の影響(総論)
借地権譲渡の許可の裁判(非訟手続)では,多くの事情が考慮されます。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可申立・非訟事件|形式的/実質的要件|基本
考慮される事情の中に,借地の残存期間や従前の経緯があります。
本記事では,これらの事情が判断結果にどのように影響を与えるのか,について説明します。
2 短い残存期間の影響(基本)
借地の残存期間が2年よりも短い場合は借地権の譲渡は許可されない傾向があります。
一方,将来の期間満了時に法定更新がなされる可能性が高いと許可される傾向となります。
<短い残存期間の影響(基本;※1)>
あ 前提事情
残存期間が短い場合
→借地権譲渡を許可しない方向に働く
い 残存期間の年数の基準
残存期間が2年程度より短い場合
→許可されない傾向が強い
※星野英一『借地・借家法/法律学全集』有斐閣p307
う 正当事由の考慮
従来の借地人・借地権の譲受人の両方について
更新拒絶の正当事由が認められる可能性を考慮する
正当事由の具備が予測されない場合のみ許可される
=法定更新が認められると見込まれるという意味
※鈴木禄弥ほか『新版注釈民法(15)』有斐閣p540
3 短い残存期間の影響(他の手続との比較)
借地の残存期間は,借地権譲渡許可以外の借地非訟手続でも考慮する事情となっています。
いずれも,残存期間が短いことは許可されない方向に働きます。
特に借地権譲渡では,他の種類の非訟手続よりも残存期間が短いことが考慮されます。
<短い残存期間の影響(他の手続との比較)>
あ 借地条件変更・増改築許可(参考)
借地条件変更・増改築許可の審理において
残存期間が短いことは許可しない方向に働く
この意味では借地権譲渡許可の審理(前記※1)と同様である
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の審理における残存期間の影響
い 比較
残存期間が短いことについて
借地条件変更・増改築許可の審理(あ)よりも
借地権譲渡の審理(前記※1)の方が重視する傾向がある
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』p59
4 借地に関する従前の経緯の考慮
借地権譲渡許可の審理では,従前の経緯も考慮される事情です。
要するに,過去に借地人の負担が大きい事情は許可する方向に働きます。
逆に借地人が恩恵を受けていたことは許可しない方向に働きます。
<借地に関する従前の経緯の考慮>
あ 基本的事項
借地権譲渡の許可の審理において
『借地に関する従前の経緯』が考慮される
※借地借家法19条2項
い 許可を肯定する方向の具体例
多額の権利金が支払われている
区分所有建物を建てるために借地権の設定がなされた
う 許可を否定方向の具体例
当事者間の特別な関係のために特別に借地権の設定がなされた
例;雇用関係・親族関係
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p142