【借地権譲渡許可の付随的裁判(期間延長・地代改定・敷金の差入)】
1 借地権譲渡許可の付随的裁判(総論)
借地権譲渡について、地主に代わって裁判所が許可する手続があります。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
裁判所が借地権の譲渡を許可する時には、通常、付随的裁判を行います。
本記事では、借地権譲渡許可の付随的裁判の内容について説明します。
2 借地権譲渡の許可の付随的裁判(基本)
条文では、借地権譲渡を許可する際に、当事者間の利益の衡平を図る必要がある場合に付随的裁判を行うと規定されています。
本裁判とは別に、付随的裁判の申立をすることは必要ありません。
借地権譲渡の許可の付随的裁判(基本)
あ 条文規定(要件)
『ア・イ』の両方に該当する
ア 許可申立を認容する(認容決定)イ 当事者間の利益の衡平を図る必要がある
い 付随的裁判の種類
裁判所は『ア・イ』の措置を取ることができる
ア 借地条件の変更
・賃料の増額(後記※2)
・存続期間の延長
イ 財産上の給付
う 申立の必要性
裁判所の職権で行う
当事者の申立は不要である
※借地借家法19条1項後段
3 承諾料(財産上の給付)の相場(概要)
借地権譲渡許可の付随的裁判のうち、代表的なものは財産上の給付です。
要するに承諾料のことです。
標準的な相場は借地権価格の10%相当額です。
承諾料(財産上の給付)の相場(概要)
4 借地権譲渡許可と借地期間の延長
借地権の譲渡を任意に承諾するケースでは期間延長を伴うことも多いです。
しかし、裁判所の許可の場合は、付随的裁判として期間変更は行うことはあまりありません。
借地権譲渡許可と借地期間の延長
あ 譲渡許可と借地期間の延長
借地期間(存続期間)の延長について
→なされないのが通例である
※香川保一『法曹時報』18巻11号p91
※星野英一『借地・借家法/法律学全集』有斐閣p310
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p256
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p141
い 任意の承諾との比較(参考)
任意の承諾の場合
→当事者の合意により借地期間を延長することが多い
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p256
う 他の非訟手続との比較(参考)
借地条件の変更・増改築許可の裁判の場合
→借地期間を延長することもある
ただし少ない
詳しくはこちら|借地上の建物の増改築許可と付随的裁判の内容と法的効果
5 借地権譲渡許可と地代の変更
借地権譲渡許可に伴って、付随的裁判として地代の変更を行うケースもあります。
当然、従前の地代の額が標準的な金額より低くなったままであることが前提です。
借地権譲渡許可と地代の変更(※2)
あ 基本
譲渡の許可をする場合
→裁判所は地代の改定をすることができる
い 傾向
標準的地代より低い場合
→標準的地代まで増額することは一般的である
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p141
う 法的性質
地代増額請求の裁判に代わる役割である
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本
※借地借家法11条
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p256
※『新基本法コンメンタール借地借家法』日本評論社p115
6 賃借権譲渡と敷金の差入(前提)
もともと敷金が預託されていた場合は、借地権譲渡許可の付随的裁判で、敷金の差入が命じられることもあります。
その前提として、一般的な賃借権の譲渡における敷金の扱いについて整理します。
要するに新たな賃借人が新たに敷金を差し入れるというのが一般的なのです。
賃借権譲渡と敷金の差入(前提)
あ 賃借権譲渡と敷金の承継
賃借権の譲渡が行われた場合
→原則として敷金関係は承継されない
い 賃借権売買における敷金の差入
実際の賃借権譲渡(売買)においては
譲受人(新たな賃借人)が新たに敷金を差し入れることが一般的である
詳しくはこちら|賃借権の譲渡では特別の合意がないと敷金は承継されない
う 借地における敷金利用の実情
借地では権利金を用いる(敷金を用いない)ケースがほとんどである
敷金を用いるレアケースもある
7 借地権譲渡許可と敷金の差入
一般的な賃借権の譲渡では、新たに敷金を差し入れることが一般的です(前記)。
借地権譲渡許可の際も、仮に従前から敷金の差し入れがある場合は、付随的裁判として敷金の差入を条件とするということがあり得ます。
借地権譲渡許可と敷金の差入
あ 買受人譲渡許可と敷金の差入(前提)
競売による借地権譲渡許可の付随的裁判として
『譲受人からの敷金交付』を命じている
※最高裁平成13年11月21日
<→★買受人譲渡許可
い 一般の借地権譲渡許可と敷金の差入
『あ』の内容について
一般の借地権譲渡でも敷金差入を付随的裁判として決定できる
ただし、譲受人は譲渡許可手続の当事者ではない
→譲渡許可の効力発生要件とする方式になる
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p256
8 借地権譲渡許可と権利金・更新料の差入
借地契約において敷金が預託される(差入)というケースは少ないです。
実際には権利金が支払われることは多いです。
また、更新の際に更新料が支払われることも多いです。
詳しくはこちら|借地の更新料の基本(更新料の意味と支払の実情)
権利金や更新料についても、借地権譲渡許可の付随的裁判として命じることもあり得ます。
借地権譲渡許可と権利金・更新料の差入
→借地権譲渡許可の付随的裁判として判断した実例は見当たらない
=肯定・否定の公的判断はない
※澤野順彦『実務解説借地借家法』青林書院p253