【共有物に関する負担の対外的効果(不可分債務)】

1 共有物に関する負担の対外的効果(不可分債務)

共有不動産の管理費用は、共有物に関する負担にあたり、共有者が持分割合に応じて負担する、というルールがあります(民法253条1項)。
詳しくはこちら|共有物に関する負担の基本(具体例・求償・特定承継人への承継)
このルールは共有者の間で適用されるものです。共有者以外の人との間ではこの規定は適用されません。本記事では、共有物に関する各種費用(負担)について、第三者との関係ではどのような扱いいなるか、ということを説明します。

2 共有物に関する負担の対外的効果→多数当事者の債権債務

まず、基本的に、対外的(第三者との関係)では、共有物の各種費用については多数当事者の債権債務のルールが適用されます。その結果、どうなるか(債務は不可分か可分か)、ということは、債務(債権)の種類によって違いますので、以下、順に説明します。

共有物に関する負担の対外的効果→多数当事者の債権債務

共有物の負担について
共有者以外の者との関係について
多数当事者の債権債務の規定が適用される
負担割合は適用されない

3 マンション管理費支払債務(専有部分の共有)→不可分

区分所有建物の専有部分(分譲マンションの1戸)の所有者(区分所有者)は、マンション管理費、修繕積立金を支払う義務を負います。では、専有部分が共有である場合に、管理費などの支払債務はどうなるでしょうか。管理費の性質を考えると、これにより廊下などの共有部分が維持、管理され、共有者(区分所有者)が受ける利益は個々の共有者で区別(分別)できません。このように、利益が共同不可分なのであるから、その対価である管理費の支払債務も性質上、不可分である、という解釈になっています。

マンション管理費支払債務(専有部分の共有)→不可分

あ 平成20年東京高判

(注・専有部分を共有しているケース)
ただし、本件の管理費及び修繕積立金のような金銭債務については、これを持分割合で分割し得るので、このような債務を分割債務ととらえるか、不可分債務ととらえるかが次に問題となる。
この点については、区分所有者がマンション共有部分の管理費等の負担を負うのは、専有部分に通じる廊下、階段室等のマンション共有部分が、その有する専有部分の使用収益に不可欠なものであるということに由来するものと考えられるところ、区分所有権を共有する者は、廊下、階段室等のマンション共有部分の維持管理がされることによって共同不可分の利益(専有部分の使用収益が可能になること及びその価値の維持)を得ることができるのである。
そうすると、区分所有権を共有する者が負う管理費等の支払債務は、これを性質上の不可分債務ととらえるのが相当である(なお、大審院昭和7年6月8日判決・大審院裁判例6巻179頁、大審院大正11年11月24日判決・民集1巻670頁等参照)。
控訴人は、管理費等の支払債務が専有部分を一つの単位とする不可分債務であると解すると、専有部分の共有持分を譲り受けた特定承継人は、譲り受けた共有持分の割合を超えた未払債務の履行責任を負わなければならなくなり、不測の損害を被ることになると主張するが、区分所有権を共有する者は、マンション共有部分の管理費等の支払債務を不可分的に負うと解する以上、区分所有権の持分を譲り受けた者が譲り受けた区分所有権の持分割合を超え、専有部分の床面積の割合による負担を負うのはやむを得ないことであり、これをもって上記解釈を左右することはできない(なお、区分所有権の共有者間での求償は可能である。)。
※東京高判平成20年5月28日

い 平成22年東京地判

区分所有建物の1つの専有部分の区分所有権を共有する者らが管理組合に対して負担する管理費等の支払義務は、専有部分の財産的価値、利用価値の維持、向上という各持分権者が共同不可分に受ける利益を得るための費用負担であることに照らせば、管理規約においてこれと異なる定めをするなど特段の事情がない限り、金銭債務であっても不可分債務であると解するのが相当である。
このように解しないと、区分所有権者がその区分所有権の一部を多数の者に譲渡したり、区分所有権者に相続が発生するなどして多数の者が区分所有権を共有する状態が生じたときに、管理組合が各持分権者に対してその持分に応じた金額を請求するのが困難になる一方で、持分権者相互には何らかの人的つながりがあるのが通常であるから、持分権者のうち1名が管理費等を全額支払い、他の持分権者に求償をすることは容易であると考えられるからである。
※東京地判平成22年11月30日

4 山林の監守費用支払債務→不可分

共有の山林の共有者全員が監守を依頼したケースで、この監守料金の支払義務について、大審院(現在の最高裁)は、性質上不可分であると判断しました。その理由は、管守することで教諭者の全員が同じように利益を受けている、この受けている利益を区別(分別)できない、というものでした。

山林の監守費用支払債務→不可分

数人の山林共有者が共同して監守人との間に監守契約を締結したるときは反対の特約又は慣習の有せざる限り共有者の負担する監守料支払の債務は内部関係は如何様に定めあるとも監守人に対する関係においては性質上不可分債務に属するものというべし
※大判昭和7年6月8日

5 共同賃借人の賃料債務→不可分(概要)

賃貸借契約で、賃借人が複数人であるケースもあります。典型例は、土地の賃貸借(借地契約)があり、借地上の建物がABの共有、というものです。この場合、ABが共同で土地を借りている、つまりABの2人が土地の賃借人、ということになります。
このような共同賃借人のケースでも、賃借人ABの両方が受けている利益(居住できる利益)は、区分(分別)できません。そこで、その対価である賃料債務も性質上不可分、という解釈になっています。

共同賃借人の賃料債務→不可分(概要)

借地上の建物が共有である
土地賃借人は共有者全員である
→貸すという債務は不可分である
→対価である賃料債務も不可分である
※民法430条、432条
※大判昭和7年6月8日
※大判大正11年11月24日
詳しくはこちら|複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)

6 共有物の固定資産税の連帯納付責任(概要)

不動産を共有している場合に、固定資産税の支払義務(納付義務)はどのような扱いでしょうか。これは民民の関係ではなく、民法が適用されるわけではありません。税法上、税の徴収の強化という政策から、連帯納付義務を負うルールになっています。
なお、納税の代表者を1人に定める扱いがありますが、これは事務的なものであり、連帯納付義務をキャンセルするものではありません。

共有物の固定資産税の連帯納付責任(概要)

あ 連帯納付責任

共有物に課税される固定資産税について
→共有者が連帯納付義務を負う(それぞれが全額の支払義務を負う)
持分割合には関係ない
※国税通則法9条
※地方税法10条の2
詳しくはこちら|税務上の連帯納付責任の基本(相続税・贈与税・固定資産税)

い 代表者指定制度

連帯納付義務者の代表者の指定について
→届出を役所に提出する制度がある
→固定資産税の納付書の送付先・宛名が指定できる
ただし、納税義務には影響がない
代表者以外の義務者が請求・差押を受けることがある

本記事では、共有物に関する負担が、対外的に不可分債務となることが多い、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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