【持分買取権・持分放棄・共有物分割|3つの制度の比較】
1 持分買取権・持分放棄・共有物分割請求|概要
共有の状態を解消することにつながる制度はいくつかあります。
関連する制度を比較しつつ説明します。
まずは3つの制度の概要を整理します。
持分買取権・持分放棄・共有物分割請求|概要
あ 持分買取権(概要)
共有者間で共有持分を強制的に買い取る
※民法253条2項
→買い取られた者は共有関係から離脱する
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)
い 持分放棄(概要)
放棄した者の共有持分が他の共有者に帰属する
→放棄した者は共有関係から離脱する
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
う 共有物分割請求
共有状態を解消することを直接的な目的とする
分割類型の1つに全面的価額賠償がある
=共有者の1人が他の共有持分を買い取るという内容
→持分買取権と似た結果となる
※民法258条
詳しくはこちら|全面的価格賠償の基本(平成8年判例で創設・令和3年改正で条文化)
2 共有解消制度・比較
前記の3つの手続の比較事項を表にまとめます。
共有解消制度・比較(※1)
この中の項目については、次に説明します。
3 持分放棄|全体的特徴
共有持分の放棄の特徴を整理します。
前記※1の項目に沿ってまとめます。
持分放棄|全体的特徴
あ 共有関係からの離脱
放棄をした者は共有関係から外れることになる
残る権利者が1名であれば共有状態が解消される
い 最終結果の確実性
通知により確実に単純な法的効果が発生する
→確実である
う 対価・代金の取得
放棄した者は『失った共有持分の対価』を得られない
え 手続・手間の大きさ
通知だけで単純な法的効果が発生する
『登記の引取』について訴訟が必要なこともある
→その場合でも訴訟は小規模である
詳しくはこちら|登記引取請求権の理論と典型的背景(固定資産税・土地工作物責任の負担)
4 持分買取権|全体的特徴
持分買取権の特徴を整理します。
前記※1の項目に沿ってまとめます。
持分買取権|全体的特徴
あ 共有関係からの離脱
持分買取の相手方は共有持分を失う
→共有関係から離脱させられる
い 前提(要件)
『共有物に関する負担』の求償から1年間の不履行があった
う 最終結果の確実性
『い』の前提さえあれば
通知により法的効果が発生する
『金額の妥当性』で有効性に影響がある
→確実性は中程度である
え 対価・代金の発生
持分買取権の行使者は『対価』を支払う必要がある
お 手続・手間の大きさ
法的効果は通知だけで生じる
しかし『金額』について見解の対立が生じやすい
→その場合は解決のために訴訟を要することになる
→訴訟は『金額の評価』が主な審査対象となる
→一般的な訴訟よりは規模が小さい
手続全体では『中程度』と言える
5 共有物分割請求|全体的特徴
共有物分割請求の特徴を整理します。
前記※1の項目に沿ってまとめます。
共有物分割請求|全体的特徴
あ 共有状態の解消
『単独所有』の状態となる
=共有状態が解消される
い 最終結果の確実性
大きく3つの分割類型がある
細かい要件により選択結果が決まる
→最終結果の予測の確実性は高くない傾向がある
う 対価・代金の発生
実質的な平等・公平が図られる
共有持分を失う者はその対価を得ることになる
共有持分を得る者はその対価を支払うことになる
え 手続・手間の大きさ
共有者全員が合意しないと分割協議は成立しない
→その場合は訴訟を要することになる
→訴訟では多くの事情が判断材料となる
例;各共有者の希望・物理的状況・利用状況・資力
→主張・立証の量が多い
→一般的・平均的な訴訟の規模と言える
手続全体では手間・規模が大きめと言える
6 持分買取権×共有物分割請求|解決戦略
以上で3つの似ている制度を比較しました。
3つのうち、持分買取権と共有物分割は特に似ています。
実務ではどちらを選択するか、という戦略が重要になります。
実務的・戦略的な選択についてまとめます。
持分買取権×共有物分割請求|解決戦略
あ 前提事情
共有者の1人が『共有物の所有権(全体)』を欲しい
い 戦略・選択肢
次のアクションの選択が考えられる
ア 共有物分割請求イ 持分買取権
う マイナーな制度
上記『イ』は制度自体が知られていない傾向がある
え 解決戦略
上記『ア・イ』は異なる特徴がある
個別的事情により最適な手法を選択すると良い
両方を請求する=併用することもある
例;一方を予備的に主張する