【共有の私道の共有物分割(肯定・否定の見解とその根拠)】
1 共有の私道の共有物分割(肯定・否定の見解とその根拠)
住宅地の私道(通路・土地)が共有となっていることはよくあります。共有である以上、共有物分割、つまり共有を解消することができるのが原則です。当然ですが、私道が特定の者の単独所有になってしまうと、不都合、支障が生じます。
そこで、共有の私道は共有物分割が否定されることもあります。認められることもありますが、逆にこっちのほうがレアです。
本記事では、共有の私道の共有物分割について説明します。
2 共有の私道の分割請求に関する理論の整理
共有の私道の共有物分割を制限(否定)する結果になるとしても、その法的根拠(理論)にはいくつかのものがあります。また、分割請求を認めるとしたら、その後に私道として使えないことにならないよう、地役権設定をセットにするのが通常です。
最初にいくつかの見解を整理しておきます。
共有の私道の分割請求に関する理論の整理
3 共有物分割を否定する理論
(1)共有私道→分割禁止特約
共有の私道の共有物分割に関する理論を順に説明します。
最初は、共有物分割分割禁止特約(不分割特約)があるので分割できない、という解釈(見解)です。
共有物分割を否定するための理論としてとても分かりやすいですが、弱点もあります。それは分割を禁止できる期間が最大で5年にとどまる、ということです。
また共有物分割禁止が登記されていないと、共有持分の売買があった場合には特約が適用できないことになります。
実際に、共有持分を買った者による共有物分割がなされたケースで、分割禁止特約はあるが買主には対抗できないという理由で、分割を認めた裁判例があります。
共有私道→分割禁止特約(※1)
あ 通路として使う合意→分割禁止特約
本件において、本件合意に基づく共有物に関する債権は、本件土地を奥の駐車場への自動車の通路として使用させることを内容とするものであって、取りも直さず、本件土地について分割の禁止を求めるものにほかならない。
い 分割禁止特約の効力(の限界)
したがって、分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての債権的合意は、不動産登記法所定の登記をして初めて、共有者の特定承継人に対抗でき、しかも、その登記をしても、その不分割の契約の期間は五年を超えることができないというべきである。
う 結論(要点)
共有物分割を認めた
※東京地判平成3年10月25日
(2)共有私道→内在する制約による分割禁止
次に、私道として使われているという状況から、内在する制約として、共有物分割を否定する、という解釈もあります。この内在する制約は、境界標や(民法上の)組合財産については共有物分割が禁止されることに準じるものである、という理由が示されています。
詳しくはこちら|法律上の規定による共有物分割の制限(境界上の工作物・組合財産・区分所有建物関係)
この解釈によれば、無期限で、また登記がなくてもよい(共有持分の譲受人にも対抗できる)ということになります。
共有私道→内在する制約による分割禁止(※2)
あ 共有形成の経緯→開発・分譲
本件土地及び被告H所有に係る・・・の宅地、同T所有に係る・・・の宅地、同T所有に係る・・・の宅地、原告所有に係る・・・の各宅地(以下「原告、被告ら所有宅地」という)ほか二筆の宅地とともに一筆の土地であったところ、その所有者であった訴外S建設株式会社がこれを別紙図面(二)のとおり区画し、分筆の上本件土地を除く各区画の土地(原告、被告ら所有宅地)上に居住用住宅を建ててこれを分譲した。原告、被告ら所有宅地の敷地はいずれも公道に接していないため、これらの土地から公道に通じるための土地、すなわち共用の私道とするために本件土地を区画し、これを分譲の土地、建物を取得する者の共有とし、分譲の土地、建物の所有権に付加して持分を譲渡した。
い 共有物(私道)の位置付け・法的評価
・・・本件土地は原告、被告ら所有宅地の、その取得時及び現在における使用目的、すなわちそれぞれが各別の独立した住宅用土地として使用されているかぎりにおいて、原告、被告ら所有宅地にとって必要不可欠な土地であり、設定された目的の点においても、位置、形状の点においても各所有宅地に付属する関係にあるとみられる。
そして、これは原告、被告らに共通するものであり、その共通する目的のもとに本件土地の共有関係が設定され、原告、被告らはこのような共通の目的によって、共通の目的が消滅しないかぎり、共有物の分割を予定しないものとして共有関係に入ったものと認められる。
また、本件土地はその地積、形状(別紙図面(一)のとおりであることに当事者間に争いがない。)位置関係に照らし、原告、被告ら所有土地と切り離して独立した土地としては、利用価値、交換価値が著しく乏しく、これを共有持分に応じて分割することは一層これを乏しくするものと認められる。
う 結論
このように、特定の、かつ共有者間に共通する目的のもとに土地の区画が設定されて共有関係が形成され、共有者間で共有物の分割が予定されていない共有物であって、その外形上もそのような関係にあることが明らかな共有物においては、民法二五七条、六七六条に準じ、その権利に内在する制約として、共有関係が設定された共同の目的、機能が失われない間は、他の共有者の意思に反して共有物の分割を求めることができないものと解するのが相当である。
※横浜地判昭和62年6月19日
(3)共有私道→共有物分割請求の権利濫用
共有の私道の共有物分割を否定する根拠として、権利の濫用を使う解釈も有力です。この場合はもちろん、登記は関係ありませんし、期限も無制限ということになります。
共有私道→共有物分割請求の権利濫用(※3)
あ 令和3年改正における議論
例えば、私道の沿道の宅地の所有者らが私道を通路として利用する権利を確保するために、その宅地の所有者らがその私道を共有しているケースでは、実際上、その共有関係を共有物分割で解消することは困難であると考えられる(共有物の分割請求が権利濫用に当たると判断されることも多いと思われる。)。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p24
い 伊藤栄寿氏見解
私道が共有されている場合などは、共有物分割によって対応することは難しい。
共有物の分割請求をしても、権利濫用にあたると判断される可能性が高い。
※伊藤栄寿稿『改正共有法の意義と課題』/『上智法学論集65巻3号』2022年1月p106
う 平成19年福岡高判
・・・本件通路は、西側隣地のうちの317番1の土地及び310番5の土地から公道へ至る共用通路であるというべきである。
そうであれば、そのような性格や効用が失われたといえるような特段の事情が認められない限り、そもそも共有物分割請求になじまないものというべく、そのような請求は権利の濫用として許されないというべきである。
※福岡高判平成19年1月25日
ところで、分割請求自体が権利濫用などによって認められないということは、共有の私道以外、たとえば遺産分割の後の共有(遺産流れ)や夫婦間の共有の場合などでもあります。共有物分割請求の権利濫用に共通する事項については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)
4 共有物分割を肯定した裁判例(分割肯定+通行地役権認定)
(1)平成4年東京高判→現物分割+通行地役権設定合意認定
以上のように、共用の通路(土地)の共有物分割請求は、権利の濫用やその他の理由によって、分割請求自体が認められないことがよくあります。一方で共有物分割を認める実例もあります。現物分割を認めた裁判例は、相互の地役権設定も認めて、結果的に通行に支障がない結論を導いています。
平成4年東京高判→現物分割+通行地役権設定合意認定(※4)
あ 通路として使用する合意→「共有物の利用方法」
・・・Hら一一名が、本件土地を共有とし、昭和二五年一月三〇日に建築線指定の承諾をしたのは、各自の居宅敷地が沿接する本件土地を公道に通じる通路として確保するため互いに協力したものであり、以来、本件土地は右通路として使用されてきたものである。これによれば、本件土地については、共有者間において、本件土地を互いの通路として使用する旨の合意があつたことは明らかである。
この合意は、本件土地が共有状態のままである限りは、共有者はその持分に基づいてこれを使用することができるのであるから、差し当たつては、共有物の利用方法を定めたものとして意味をもつことになる。
い 潜在的な通行地役権設定の合意→分割時に発効
しかし、本件土地が分割されることになつた場合でも、沿接所有地のための通路として確保する必要性が共有者間で当然になくなるわけではないので、他に特段の事情があつたことが認められない当時の状況下においては、右共有者の合意は、将来本件土地が分割される場合には、沿接所有地のために互いに利用を必要とする限度で、各自に分割帰属する部分につきいわば潜在的に通行地役権を設定する趣旨をも含んでいたものと認めるのが相当である。・・・
う 潜在中の通行地役権の対抗要件→隣接所有地の所有権登記
この通行地役権は、本件土地の共有関係が継続している間はいわば潜在化しており、分割により共有関係が解消することによつて顕在化するに至るものであるが、民法二八一条の趣旨に照らし、要役地たるべき沿接所有地の所有権に付従して移転し、沿接所有地の移転につき登記を具えることにより対抗要件を満たすものと解するのが相当である。
え 結論(判決主文の要点)
土地(私道)を現物分割とする
(控訴人が)通行地役権を有することを確認する
※東京高判平成4年12月10日
(2)地役権設定を認めた理論→潜在的な合意の事実認定
平成4年東京高判が通行地役権を認めた部分の理論ですが、判決で形成したわけではありません。潜在的な合意を認定した、つまり意思解釈、事実認定としての判断です。
なお、一般論として、共有物分割訴訟の判決で、用益権設定を(形成的、創設的に)行うことを肯定する見解は多いですが、実務では、ほぼありません。
詳しくはこちら|共有物分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)
また、黙示の通行地役権設定の合意を認定するということは、共有物分割とは関係ないケースでもよくあります。
詳しくはこちら|私道の分割譲渡(分譲宅地)における黙示の通行地役権設定合意
5 関連テーマ
(1)建物敷地と私道の一括分割(参考)
住戸(土地建物)と、公道に至るまでの間の私道は、常識的、取引の世界ではセットといえます。住戸と私道をまとめて共有物分割の対象とすること(一括分割)は、実害がないどころか、そうしない方が支障を生じます。そこで、このような場合では私道の共有物分割は否定されません。
この発展編もあります。分譲宅地では、複数の住戸(建物とその敷地)の所有者が、私道を共有していることがありふれています。ここでたとえば、1つの住戸をABが共有している場合は、私道はABと、他の住戸の所有者(CDEF)で共有していることになります。このケースで、住戸(建物敷地や建物)と私道の共有持分を対象とした共有物分割(一括分割)は認められています。
詳しくはこちら|分譲地(土地)と私道の「共有持分」の共有物分割訴訟(固有必要的共同訴訟の例外)
本記事では、共有となっている共同の通路の共有物分割請求について説明しました。
実際には個別的な事情によって判断は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。