【全面的価格賠償における共有物の価格の評価プロセス(鑑定)】

1 全面的価格賠償における共有物の価格の評価プロセス(鑑定)

共有物分割において、全面的価格賠償を用いる場合には、賠償金を定めることになります。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
賠償金の計算は共有物の価格の適性評価が前提となります。
詳しくはこちら|全面的価格賠償における価格の適正評価と共有減価・競売減価
実際には、共有物(不動産)の価格の評価に関して意見が熾烈に対立することがよくあります。
本記事では、全面的価格賠償における共有物の評価のプロセス(鑑定)について説明します。

2 共有物の価格・賠償金の算定の基本的プロセス

共有者全員が共有物(全体)の評価額について意見が一致していれば、その金額を元に賠償金を計算することになります。
しかし、一致しないことが多く、その場合には基本的に、裁判所が選任した鑑定人(不動産鑑定士)が評価額を計算し、それを裁判所が用いて賠償金を定めることになります。

共有物の価格・賠償金の算定の基本的プロセス

あ 協議・合意

共有者間で共有不動産(全体)の評価額の見解が一致している場合
→原則的にこの金額を基準とする

い 鑑定人による評価

当事者間で見解が一致しない場合
→最終的には裁判所が鑑定人を選任する
裁判所が、当事者と関係のない中立の不動産鑑定士を選任する
鑑定人は中立な立場で共有不動産の評価額を算定する
鑑定人は鑑定書(鑑定評価書)を作成し、裁判所に提出する

う 裁判所による判断

裁判所は鑑定書を元にして適正な価格を判断する(賠償額を定める)
裁判所は鑑定書に拘束されない
=鑑定書と違う金額の判断もできる
現実には鑑定書と(ほぼ)同一であることが多い

3 共有物の価格の評価のプロセス

共有物分割訴訟(や交渉)では、複数の共有者が異なる内容の私的鑑定書を提出することも多いです。いずれにしても、私的鑑定書は完全に中立の評価とはいえない傾向があります。
そこで、裁判所が鑑定人を選任して、正式な鑑定を行うことが多いです。

共有物の価格の評価のプロセス

あ 原則=裁判所の鑑定

共有物の価格の評価は、できる限り裁判所の鑑定によって行われることが望ましい

い 私的鑑定の扱い

私的鑑定書であっても、直ちにその証拠価値を否定することはできないであろうが、価格算出の手法及びその過程については慎重に吟味される必要がある
事情によっては、裁判所の訴訟指揮により、正式の鑑定を申請するよう促すのが適当であろう
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p891

4 私的鑑定書を評価に用いた実例

(1)最判平成8年10月31日・1962号(要点)

前述のように、不動産の評価は、裁判所の鑑定によるのが原則(理想)ですが、私的鑑定書でも内容が合理的であればこれを評価に用いることもあります。
全面的価格賠償の判断基準を示した平成8年判例(の1つ)の原審が私的鑑定書による評価を行い、最高裁がこれを維持しています。

最判平成8年10月31日・1962号(要点)

原告は、不動産鑑定士に土地の価格の鑑定を依頼し、その私的鑑定書を書証として提出した
原審は、この鑑定書により土地の価格を認定した
最高裁は、鑑定の手法やその過程に特段不合理な点は見当たらなかったことから、当該価格の認定を維持した
(価格評価の不当性の主張に対して、単なる認定非難として排斥した)
※最判平成8年10月31日・1962号

(2)東京高判平成22年8月31日

平成22年東京高判は、私的鑑定書の評価額をそのまま使っているように読めます。その後、最高裁は高裁の判決を維持しています。
この事案では、賠償金の金額が比較的小さかったことや、対価取得者が路線価ベースの金額を主張したにとどまったことが影響しているのかもしれません。

東京高判平成22年8月31日

あ 裁判例(判決文)

そして、本件各土地については、証拠(甲10)によれば、a株式会社(不動産鑑定士F)において、取引事例比較法による比準価格及び収益還元法による収益価格を比較検討した上で、その平成21年6月1日時点の正常価格を1億1200万円(1m2当たり46万6000円)と鑑定評価していることが認められるところ、上記鑑定の手法及び鑑定にあたり採用された数値等は十分合理性を有するから、上記鑑定価格は適正に評価されたものと認められる(一審被告らは、平成21年路線価図を基に本件各土地の価格を1m2当たり104万8510円であると主張するが、本件各土地の特性に照らせば、同主張は採用し難い。)。
そして、上記鑑定価格に基づいて本件各土地におけるAの持分相当額を算定すると466万4660円(46万6000円×10.01)となるところ、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告会社には、その支払能力が十分あると認められる。
※東京高判平成22年8月31日(上告審もこの判決を維持した)

い 本山敦氏指摘

なお、Yらは、路線価を盾に価格を争ったが、独自に鑑定をするなど、訴訟活動を尽くしていない
持分が少ないことから、費用倒れと考えたのであろうか。
※本山敦稿『共有物分割訴訟において遺産共有持分を全面的価格賠償させる場合の賠償金の支払い方法』/『金融・商事判例1439号』経済法令研究会2014年4月p12

5 遺産分割の代償分割における評価プロセス(参考)

共有物分割ではなく遺産分割の代償分割でも、代償金を定めるために遺産の評価が必要になります。
家事審判の実務では、ほぼ全件で裁判所の鑑定を行っています。

遺産分割の代償分割における評価プロセス(参考)

家裁における遺産分割審判の実務においては、代償分割をする場合には、(当事者間に価格について合意があるか、当事者が鑑定費用を納めないというような場合を除いては)ほぼ例外なく正式の鑑定が行われているようである
※法曹会編『最高裁判所判例解説民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p891

本記事では、全面的価格賠償における共有物の評価のプロセス(鑑定)について説明しました。
実際には、具体的事情によって法的扱いや最適なアクションが違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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