【共有物分割への参加の制度(参加権利者・権限・負担・通知義務・参加請求の拒否)】
1 共有物分割への参加の制度
一般的には共有物分割は共有者全員で協議・合意して初めて成立します。
この点、一定の関係者が参加する制度があります。本記事では、共有物分割への参加の制度について説明します。
2 民法260条の条文規定
最初に、参加の制度を規定する民法260条の条文を押さえておきます。条文自体はとてもシンプルです。
民法260条の条文規定
第二百六十条 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
3 共有物への参加の制度の趣旨
共有物分割の結果、第三者の権利が害されるということもあり得ます。救済手段として詐害行為取消権がありますが、事後的であり、かつ、一定の要件をクリアする必要があります。そこで、事前の予防の手段として参加の制度が作られたのです。事前の予防制度という強みはありますが、侵害を止める効果は弱いです(後述)。
共有物への参加の制度の趣旨
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p610
4 共有物分割への参加ができる者の範囲
共有物分割への参加ができる者は共有物について権利を有する者だけでなく、共有者(の1人)の債権者も含まれます。
共有物分割への参加ができる者の範囲
あ 基本的解釈
ア 新版注釈民法
分割に参加しうる者は、「共有物について権利を有する者」と「共有者の債権者」に限られる。
すなわち地上権者、永小作権者、地役権者、抵当権者、質権者などが前者に属し、賃借人や一般債権者が後者に属する。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p486
イ 新注釈民法
共有物について権利を有する者としては、共有不動産の地上権者、永小作権者、地役権者、留置権者、先取特権者、質権者、抵当権者などがある。
共有者の債権者としては、共有物の賃借人、共有者に対する金銭債権者などがある。
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p611
い 借地権の共有物分割における地主(概要)
借地権(土地賃借権)を対象とする共有物分割に地主(賃貸人)が参加するということも考えられる(後記※1)
5 共有物分割への参加者の権限(効果)・影響
共有物分割の手続に参加した者は意見を述べることできますが、あくまでも共有物分割は共有者の全員の合意だけで成立します。共有者は参加した者の意見を参考にすることになるにとどまります。つまり参加者の意見は共有者の判断を拘束しません。
ただし、詐害行為取消権の行使の場面で、要件を満たす方向に働くことはありえます。
共有物分割への参加者の権限(効果)・影響
あ 新版注釈民法
参加とは、分割につき意見を述べることを意味するにとどまる。
したがって共有者は参加者の意思に拘束されることはない。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p486
い 新注釈民法(事実上の影響)
共有者は、利害関係人の意見に拘束されない。
もっとも、協議分割に際し利害関係人の意見にもかかわらず分割を行ったことは、後に利害関係人から分割協議が詐害行為となることを理由に取り消す旨の訴え(424条)が提起された場合の分割の詐害性、詐害意思、受益者の悪意等の認定において、利害関係人に有利に作用するだろう。
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p611
6 共有物分割への参加の費用負担
共有物分割への参加をした場合に、その費用は参加者が負担することになります。これは、共有者(共有物分割)に支障を生じさせない範囲で関与できる、という設計によるルールです。
共有物分割への参加の費用負担
→参加者自身が負担する
※民法260条2項
7 共有物分割の参加資格者への通知・参加請求拒否の効果
分割への参加について法的効果が生じることもあります。
実質的な参加者の保護についてまとめます。
共有物分割の参加資格者への通知・参加請求拒否の効果
あ 参加資格者への通知→不要
参加資格者に対し共有者は分割につき通知をする必要はないと解されている。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p486
い 参加請求の拒否の効果
参加の請求を共有者が拒否した場合
→行われた共有物分割は参加請求者に対抗できない
※民法260条2項
う 詐害行為取消権との関係
本条(注・民法260条)は、共有物につき利害関係を有する者が、共有物の分割により不利益を受けることがないようにするため、分割に参加することを認めた。
外国の立法例は乏しく、本来共有者の債権者は詐害行為取消権によっても自己の利益を確保しうるところだが、それよりも事前に予防するという意味で本条が規定された。
※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p484
8 共有持分の(仮)差押と参加請求の関係(概要)
ところで、共有持分に(仮)差押がなされている場合、このことが、共有物分割手続への参加請求にあたるという見解もあります。ちなみにこの場合、共有物分割自体ができるかどうか、ということについても見解は分かれています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分の抵当権・仮差押や共有物の賃貸借が共有物分割に与える影響
9 共有物分割が担保権へ及ぼす効果と参加の影響
担保権については共有物分割の影響が問題となります。
担保権者が分割協議に参加することの影響という問題もあります。
これらの解釈論について整理します。
共有物分割が担保権へ及ぼす効果と参加の影響
あ 客観的効果(概要)
持分について抵当権の設定があった
共有物分割が行われた
→共有物全部について持分割合の限度で抵当権は存続する
抵当権設定者の取得部分に限定されるわけではない
詳しくはこちら|共有持分の抵当権・仮差押や共有物の賃貸借が共有物分割に与える影響
い 参加との関係
抵当権者が分割に参加しても同じである
※大判昭和17年4月24日
※大判昭和17年11月19日
10 借地権の分割における地主の参加(問題点指摘)
借地権(土地賃借権)の準共有の場合に、借地権を対象とする共有物分割も(いろんな問題を伴いますが)ありえます。この場合、地主(賃貸人)も参加することができると考えられます。ただし、どのような効果が及ぶか、ということについては解釈の問題が指摘されています。
借地権の分割における地主の参加(問題点指摘)(※1)
あ 地主の参加の意味
ところで、地主は、当然には、共同借地人間の共有物分割訴訟の判決の効力は受けることがないものとされている(民法260条2項)。
これによると、地主が分割手続に参加の請求をしない限り、分割について拘束されないということになっている。
ここでいう参加ということは何かという問題がある。
共有物分割手続が訴えでされる場合には、当該訴訟に参加することが判決手続によってされる共有物分割に関する判決の効力を受けるということが必要であると解される。
い 参加の効果
この民法の条文は、特に地主等が参加人として共有物分割手続に参加することによって参加による裁判の効力が及ぶことを明らかにしているが、その内容・効力等何も定めていないから、この規定で特別な新たな効力を創設したものと解することは困難のように思われ、むしろ、関係者即ち目的物件の共有者、本件のような共同借地人等共有自体の関係者の他、目的物件の所有者等に、共有物分割の訴訟手続に「参加」しない限り、よきにつけ悪しきにつけ、裁判の効力を受けないということを明確にしたものと解するのが相当のように思われる。
もしそうだとすると、これらの参加による裁判の効力は、関係者の参加の態様に応じての裁判の効力を受けることを意味するにとどまることになる。
即ち、民事訴訟法47条に定める独立当事者参加の要件を具備しての参加であれば判決の既判力を受けるし、補助参加の利益を主張しての補助参加(民事訴訟法42条)であれば、いわゆる参加的効力(民事訴訟法46条)を受けることになると解すべきである。
う 訴訟告知との関係
ここで問題は、共有物分割訴訟の共同借地人が目的物件の所有者に対し訴訟告知(民訴53条)をしたときはどうか。
裁判の効力が及ぶのか(民事訴訟法53条4項)が問題となろう。
民法260条2項はその例外を定めたかどうかということである。
例外的規定と解する余地があるとも思うが断定はできなく、今後の検討に待ちたい。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p64
え 免責宣言
この条文については本来検討をくわえなければならないが、申し訳ないがまだ研究をしていないので、常識的に考えると、こうなるということしかできていない。
したがって、当然のことながら、今後の研究によって変わる可能性の大きいことをお断わりすると共に、問題点でも提供できればと考えている。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p65
お 借地権の共有物分割の問題(参考・概要)
借地権の共有物分割に関してはいろいろな法的問題がある
詳しくはこちら|借地権の共有物分割(現物分割・換価分割に伴う問題)
本記事では、共有物分割への参加の制度について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的扱いや、最適な解決手段が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。