【入会団体の運用ルール(慣習・会則)と有効性(公序良俗違反)】
1 入会団体の運用ルール(慣習・会則)と有効性(公序良俗違反)
入会権・入会団体に関する法律問題はいろいろとあります。
詳しくはこちら|入会権・入会団体|全体・基本|所有形態
入会権の問題の1つとして、入会団体の運用ルールがあります。会則などの明文のルールがあるケースもありますが、そのよなものはないことが多く、その場合は、慣習や慣行がルールということになります。さらに、運用ルールが公序良俗違反として無効にならないか、という問題もあります。
本記事では、このような入会団体の運用ルールについて説明します。
2 民法263条の条文
民法の条文に入会権についてのシンプルな規定があります。一般的な共有に関する規定が適用されるとともに、各地方の慣習に従うことが規定されています。
民法263条の条文
第二百六十三条 共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。
※民法263条
3 慣習による入会団体の構成員の地位取得
入会団体に関しては、慣習がルールとなっていることがよくあります。具体例のひとつとして、誰が入会団体の構成員となるのかというルールが挙げられます。明文ルールがなければ、慣習・慣行で決まります。
慣習による入会団体の構成員の地位取得
=入会団体の構成員たる地位の取得原因
→もっぱら団体の慣習によって定まる
※最高裁昭和37年11月2日
4 慣習による入会権の処分の方法
入会団体の構成員が入会権を処分できるかどうか、どのような場合に処分できるのか、というルールについても、明文のルールがなければ慣習で決まります。
一般論として、入会団体は構成員同士の結びつきが強いので、構成員全員の同意がなければ入会権を処分(譲渡)できないということが多いですが、そうではない団体もあります。
構成員全員の同意がなくても入会権を処分できる、という慣習が有効と判断された判例があります。
慣習による入会権の処分の方法
あ 入会権の処分への慣習の適用
入会権の処分について
→慣習の効力が及ぶ
い 慣習の有効性
構成員全員の同意がなくても処分できるという慣習について
→有効である
※最高裁平成20年4月14日
5 入会財産(土地)の「分け地」の慣習と有効性
入会団体のルールは、団体によって特徴的なものがあります。「分地」の慣行がルールとして認められた判例があります。
「分け地」とは、入会財産である土地のうち一部を特定の構成員(個人)に与えるというものです。「分け地」をした時点で、入会団体の所有(構成員の共有)から外れることになると判断されました。
入会財産(土地)の「分け地」の慣習と有効性
あ 事案
入会団体に次のような「分け地」という慣行があった
い 「分け地」慣行
入会地の一部を特定の構成員個人に分配する
分配を受けた構成員は次の権限がある
ア 対象部分を独占的に使用収益できるイ 自由に第三者に譲渡できる
う 「分け地」の法的性格
「分け地」は入会団体の所有ではない
=入会権の対象ではない
※最高裁昭和32年9月13日
6 構成員を世帯主に限定する会則の有効性
入会団体では明文のルール、つまり会則が定められることもあります。自主的なルールとして、慣習同様に尊重されます。しかし、完全に自由というわけではありません。
公序良俗に反するため無効となることもあります。構成員の資格の限定について判断した判例をまとめます。
構成員を世帯主に限定する会則の有効性
あ 構成員を世帯主に限定する会則の有効性
入会権者の資格要件について
一家の代表者=世帯主に限定する
→公序良俗に反しない
※民法90条
※最高裁平成18年3月17日
い 世帯主が入会権を承継する慣行を認めた判例(参考)
入会権者(構成員)が死亡した時に、新たな世帯主が入会権を取得(承継)するという慣行を認めた
※最判昭和48年3月13日
詳しくはこちら|入会権・入会財産に関する訴訟の共同訴訟形態(原告適格)
7 構成員を男性に限定する会則の有効性
構成員の資格の限定に関する判断はほかにもあります。男性に限定するというルールは男女差別であるため公序良俗に違反する、つまり無効であると判断されています。ただし、遅くとも平成4年以降はという前置きつきです。昔は男性限定がそれほど常識はずれではなかった(可能性がある)、ということです。
構成員を男性に限定する会則の有効性
あ 会則の内容(男性限定)
入会権者の資格を原則として男性に限定する
構成員の男性と婚姻した女性は資格が否定される
女性は離婚して旧姓に復した場合、資格が復活する
い 公序良俗
性別だけを差別の要因にしている
遅くとも平成4年以降においては、公序良俗に反する=無効である
※最高裁平成18年3月17日
本記事では、入会団体のルールである会則や慣行と、その有効性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に入会権(共有の財産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。