【抵当権消滅請求の基本(対象者・評価額の提示・抵当権者の対応)】

1 抵当権消滅請求の基本

抵当権が付いたままで不動産が売買されることもあります。その後、抵当権の被担保債権が全額弁済となれば抵当権は消滅する(抹消できる)ので問題ありません。一方で買主から抵当権を消滅させる制度として、第三者弁済や抵当権消滅請求という方法があります。
詳しくはこちら|抵当権付不動産売買における買主と抵当権者の関係(基本)
本記事では抵当権消滅請求の基本的事項を説明します。

2 抵当権消滅請求の対象者・評価額の提示

抵当権消滅請求権を行使できる者は抵当権の設定された不動産を取得した者です。典型例は買主です。
抵当権消滅請求権を行使する最初の具体的アクションは、抵当権者に対して不動産の評価額を提示するというものです。仮に抵当権者がこの評価額を承諾した場合、買主は当該評価額相当額を抵当権者に支払う、という前提の提示ということになります(後述)。

抵当権消滅請求の対象者・評価額の提示

あ 適用対象者

抵当不動産の第三取得者
例=抵当権が付いたままで不動産を購入した者
本記事では『買主』と呼ぶ
※民法379条

い 評価額の主張(※1)

買主が『評価額』を抵当権者に提示する
買主による代価弁済の金額の提案という趣旨になる
抵当権消滅請求の準備段階と言える
※民法379条、383条

3 抵当権消滅請求に対する抵当権者の選択

抵当権消滅請求は買主の評価額の主張から始まります(前記)。これに対して抵当権者が承諾した場合、買主は提示した評価額相当の金額を支払う(代価弁済する)ことになります。これにより抵当権は消滅します。
一方、抵当権者が『そんな低い金額で抵当権を消されては困る』と考えた場合には、抵当権者は承諾せず、競売申立をすることになります。抵当権者は、買主が提示した評価額よりも高い金額で売れることを想定しているような状況です。

抵当権消滅請求に対する抵当権者の選択

あ 抵当権者の選択

抵当権者は次の『い・う』のいずれかを選択する

い 承諾

抵当権者が上記※1の評価額を承諾する
→買主が代価弁済を行う
→抵当権は消滅する
※民法386条

う 競売申立

抵当権者が抵当権を実行する
=競売の申立を行う
※民法379条

4 抵当権消滅請求に対するみなし承諾

買主による評価額の通知(抵当権消滅請求権の行使)から2か月以内に、抵当権者が競売の申立をしない場合、抵当権者は承諾したものとみなされます。つまり、抵当権者の対応の締め切りといえます。

抵当権消滅請求に対するみなし承諾

消滅請求の通知を受けた後2か月以内において
抵当権者が競売の申立をしない場合
→『承諾』したものとみなす
※民法384条1号

5 抵当権者の選択における考慮内容

買主からの評価額の主張がなされると抵当権者の手番です。抵当権者は承諾と競売の選択を迫られます。
この判断は、簡単にいうと、仮に競売となった場合と承諾した場合とで、どちらが有利か、というものです。仮に競売となった場合の売却金額が大きな判断要素(判断材料)となります。

抵当権者の選択における考慮内容

抵当権者の予測 消滅請求への対応 競売による売却金額>消滅請求の評価額 拒否 競売による売却金額<消滅金額の評価額 承諾

6 共有持分を取得した者による抵当権消滅請求(概要)

以上の説明は不動産全体が売却されたことが前提です。この点、抵当権が設定された不動産の共有持分が売却されるケースもあります。
買主は、新たな共有持分権者(共有者)となります。この場合の抵当権消滅請求は否定される方向性です。

共有持分を取得した者による抵当権消滅請求(概要)

不動産全体に抵当権が設定されていた
Aが不動産の共有持分を取得した
→Aは抵当権消滅請求をできないと思われる
詳しくはこちら|共有持分を取得した者による滌除の可否(平成9年判例=否定説)

本記事では、抵当権消滅請求の基本的事項を説明しました。
実際には、個別的事情により、結果(解釈)や最適な対応方法が違ってきます。
実際に担保権や共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【滌除(平成15年改正民法施行前)の基本(第三取得者の主張・抵当権者の対応)】

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